小学一年生、六歳のときに初めて「あいうえお」を習ってから、その十倍近い人生を生きてきた内田かずひろ、五十八才。ひと昔前ならもうすぐ会社を定年する年齢だ。五十才を過ぎる頃には自分もちゃんとしているだろうと若い頃には思っていたと言う。しかし、マンガの仕事もなくなり、貯蓄もなく、彼女にもフラれ、部屋をゴミ屋敷にして、ついにはホームレスになり、生活保護を申請するも断念せざるを得ず…。だが、そんな内田でも人生で学んできたことは沢山ある。内田の描くキャラクター、犬のロダンの目線で世の中を見てきた気づきの国語辞典と、内田の「あいうえお」エッセイ。この連載が久々のマンガの仕事になる。
いってきます

一人暮らしをしている人で、家の中に他に誰も居なくても、出かける時に「いってきます」という人がいる。
そういう人は「生活」を大切にしているように思う。生活を大切にしているということは、自分を大切にしているということだ。しかし生きていると、思い通りにならない事や上手くいかない事も多い。そんな事をきっかけに、人は自分を大切に出来なくなる事がある。
僕もそんな時、自暴自棄になりセルフネグレクトに陥ってしまった事があった。部屋をゴミ屋敷にしてしまった事もある。
セルフネグレクトというのは、生活環境が悪化しているのに、改善しようという気力を失い、周囲に助けを求めない状態を言うのであるが、僕の経験からすると「生活環境を改善する気持ちはあり、自分で何とか出来ると思っているが、出来ない」というのが実感であった。
周囲に助けを求めないというのも、どう助けを求めたら良いのかわからないというのもあるし、また、周囲に迷惑をかけたくないという気持ちもある。
だが、助けを求めるのが遅れれば遅れる程、周囲にかける迷惑も大きくなっていく。
自分を大切に出来ない時は、結局、周囲をも大切に出来なくなるのだ。
だから、自分を大切に生きてる人を僕は尊敬するし、そういう人に自分もなりたいと思う。
まずは「いってきます」から始めてみよう。
1964年、福岡県生まれ。高校卒業後、絵本作家を目指して上京。1989年「クレヨンハウス絵本大賞」にて入選。1990年『シロと歩けば』(竹書房)でマンガ家としてデビュー。代表作に「朝日新聞」に連載した『ロダンのココロ』(朝日新聞出版)がある。また絵本や挿絵も手がけ、絵本に『シロのきもち』(あかね書房)、『みんなわんわん』(好学社)、『はやくちまちしょうてんがい はやくちはやあるきたいかい』(林木林・作/偕成社)、『こどもの こよみしんぶん』(グループ・コロンブス・構成 文/文化出版局)挿絵に『みんなふつうで、みんなへん。』(枡野浩一・文/あかね書房)『子どものための哲学対話』(永井均・著/講談社)などがある。『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(森京詩姫・著/竹書房)では「怪人トンカラトン」や「さっちゃん」などのキャラクターデザインも担当した。