小学一年生、六歳のときに初めて「あいうえお」を習ってから、その十倍近い人生を生きてきた内田かずひろ、五十八才。ひと昔前ならもうすぐ会社を定年する年齢だ。五十才を過ぎる頃には自分もちゃんとしているだろうと若い頃には思っていたと言う。しかし、マンガの仕事もなくなり、貯蓄もなく、彼女にもフラれ、部屋をゴミ屋敷にして、ついにはホームレスになり、生活保護を申請するも断念せざるを得ず…。だが、そんな内田でも人生で学んできたことは沢山ある。内田の描くキャラクター、犬のロダンの目線で世の中を見てきた気づきの国語辞典と、内田の「あいうえお」エッセイ。この連載が久々のマンガの仕事になる。
えがお

笑うのは、昔は人間や類人猿だけと言われていたが、研究が進んだ現在は、犬、猫をはじめとする65種類の動物が笑うと認定されている。楽しい時だけでなく、相手に敵意がないことを示す時にも笑うという。
だが人間の場合は、もっと複雑だ。笑顔で敵意が無いと見せかけて、相手を騙そうとする場合もあるだろうし、楽しくも面白くもなく、むしろ苦痛を感じていても、愛想笑いをすることもある。
辛くても笑わねばならない場面で、どうか自分が上手く笑えていますようにと願ったこともあるし、ひきつった笑顔も見たことがある。
そしてまた、あえて見せない笑顔というのもある。つきあっていた彼女に別れを告げられた時、帰り際に彼女は、いつもの笑顔を見せてはくれなかった。当たり前と言えば当たり前だけど、当たり前には当たり前の理由がある。
別れを告げられた側の僕は心も重く未練しかないのだけれど、別れを告げた彼女はきっと色々考えて出した結論なのだろうから「笑顔」を見せて僕に期待させない様に、出来れば未練を残さないように考えてのことだと思う。
マンガでは「笑顔を見せる」思いやりを描いたが、「笑顔を見せない」思いやりもあるのだ。
1964年、福岡県生まれ。高校卒業後、絵本作家を目指して上京。1989年「クレヨンハウス絵本大賞」にて入選。1990年『シロと歩けば』(竹書房)でマンガ家としてデビュー。代表作に「朝日新聞」に連載した『ロダンのココロ』(朝日新聞出版)がある。また絵本や挿絵も手がけ、絵本に『シロのきもち』(あかね書房)、『みんなわんわん』(好学社)、『はやくちまちしょうてんがい はやくちはやあるきたいかい』(林木林・作/偕成社)、『こどもの こよみしんぶん』(グループ・コロンブス・構成 文/文化出版局)挿絵に『みんなふつうで、みんなへん。』(枡野浩一・文/あかね書房)『子どものための哲学対話』(永井均・著/講談社)などがある。『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(森京詩姫・著/竹書房)では「怪人トンカラトン」や「さっちゃん」などのキャラクターデザインも担当した。