とかくこの世は生きづらい ロダンのココロ国語辞典

この連載について

小学一年生、六歳のときに初めて「あいうえお」を習ってから、その十倍近い人生を生きてきた内田かずひろ、五十八才。ひと昔前ならもうすぐ会社を定年する年齢だ。五十才を過ぎる頃には自分もちゃんとしているだろうと若い頃には思っていたと言う。しかし、マンガの仕事もなくなり、貯蓄もなく、彼女にもフラれ、部屋をゴミ屋敷にして、ついにはホームレスになり、生活保護を申請するも断念せざるを得ず…。だが、そんな内田でも人生で学んできたことは沢山ある。内田の描くキャラクター、犬のロダンの目線で世の中を見てきた気づきの国語辞典と、内田の「あいうえお」エッセイ。この連載が久々のマンガの仕事になる。

第5回「お」

おかえり

2023年9月11日掲載

「いってきます」と出かけた家族は「ただいま」と帰ってくるものだと思っている。

そう思わなければ、出かけた家族が帰って来るまで、ずっと心配し続けなくてはならず、何も手に着かなくなるかも知れない。子どもの頃の僕がそうだった。母親が買い物に行くと、急に雨が降ってきやしないか、自転車で転んでやしないか、事故に合ってやしないか心配で心配でならなかった。

僕には五つ下の弟がいるのだが、弟が小さい頃は母親が自転車の後ろに弟を乗せて買い物に行っていたので、弟のことも含め余計に心配だった。

だから無事に帰って来るといつもホッとしたものだが、歳を重ねるごとにその気持ちを素直に表すのは恥ずかしくなって、無事に帰って来る事が当たり前かの様に平然と振る舞っていた。

だから帰って来た家族を狂喜乱舞する様に迎える犬たちのその姿は素直で愛おしい。

無事に家族が帰って来ることは、当たり前ではなく尊いことを犬たちは知っているようだ。

そしてまた、そんな風に「おかえり」と迎えてくれる家族がいるということも当たり前ではなく尊い。

著者プロフィール
内田かずひろ

1964年、福岡県生まれ。高校卒業後、絵本作家を目指して上京。1989年「クレヨンハウス絵本大賞」にて入選。1990年『シロと歩けば』(竹書房)でマンガ家としてデビュー。代表作に「朝日新聞」に連載した『ロダンのココロ』(朝日新聞出版)がある。また絵本や挿絵も手がけ、絵本に『シロのきもち』(あかね書房)、『みんなわんわん』(好学社)、『はやくちまちしょうてんがい はやくちはやあるきたいかい』(林木林・作/偕成社)、『こどもの こよみしんぶん』(グループ・コロンブス・構成 文/文化出版局)挿絵に『みんなふつうで、みんなへん。』(枡野浩一・文/あかね書房)『子どものための哲学対話』(永井均・著/講談社)などがある。『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(森京詩姫・著/竹書房)では「怪人トンカラトン」や「さっちゃん」などのキャラクターデザインも担当した。