小学一年生、六歳のときに初めて「あいうえお」を習ってから、その十倍近い人生を生きてきた内田かずひろ、五十八才。ひと昔前ならもうすぐ会社を定年する年齢だ。五十才を過ぎる頃には自分もちゃんとしているだろうと若い頃には思っていたと言う。しかし、マンガの仕事もなくなり、貯蓄もなく、彼女にもフラれ、部屋をゴミ屋敷にして、ついにはホームレスになり、生活保護を申請するも断念せざるを得ず…。だが、そんな内田でも人生で学んできたことは沢山ある。内田の描くキャラクター、犬のロダンの目線で世の中を見てきた気づきの国語辞典と、内田の「あいうえお」エッセイ。この連載が久々のマンガの仕事になる。
かえる

ほんの短い間だったが、ホームレスになった事がある。その時感じた一番不安な気持ちは「帰る場所がない」という事だった。
帰る場所がない、というのはまるで、アイデンティティを失ったかのようで、大袈裟に感じるかも知れないが、自分自身を失ったような気持ちになった。ココにいるのにココにいない、とでもいうような精神状態だった。
「帰る場所」すなわち「自分の居場所」というのが、物理的にも精神的にもとても大切なものである事をあらためて実感した。
だからホームレスの人たちの段ボールハウスも、ただの雨風をしのぐものではなく、アイデンティティそのものかも知れないと思うのだ。
僕がホームレスになった時、一時、シェルターとしてアパートを提供してくださったのが「つくろい東京ファンド」という東京都内で生活困窮者の支援活動をしている一般社団法人だった。
つくろい東京ファンドの代表の稲葉さんはビッグイシュー基金の共同代表でもある。その縁もあって良く街中で出会う雑誌「BIG ISSUE(ビッグイシュー)」を売ってるKさんと顔見知りになり話すようになった。先日、Kさんが段ボールハウスのホームレスの方と話をしていたので挨拶すると、そのホームレスの方を紹介された。その方も、つくろい東京ファンドさんにはお世話になったと感謝していたが、自らアパートを出て路上生活をしている様で「人生いろいろだよ」と笑って見せた。
アイデンティティも人様々なのである。
🏠️つくろい東京ファンド
https://tsukuroi.tokyo
📖ビッグイシュー日本版
https://www.bigissue.jp/
1964年、福岡県生まれ。高校卒業後、絵本作家を目指して上京。1989年「クレヨンハウス絵本大賞」にて入選。1990年『シロと歩けば』(竹書房)でマンガ家としてデビュー。代表作に「朝日新聞」に連載した『ロダンのココロ』(朝日新聞出版)がある。また絵本や挿絵も手がけ、絵本に『シロのきもち』(あかね書房)、『みんなわんわん』(好学社)、『はやくちまちしょうてんがい はやくちはやあるきたいかい』(林木林・作/偕成社)、『こどもの こよみしんぶん』(グループ・コロンブス・構成 文/文化出版局)挿絵に『みんなふつうで、みんなへん。』(枡野浩一・文/あかね書房)『子どものための哲学対話』(永井均・著/講談社)などがある。『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(森京詩姫・著/竹書房)では「怪人トンカラトン」や「さっちゃん」などのキャラクターデザインも担当した。