とかくこの世は生きづらい ロダンのココロ国語辞典

この連載について

小学一年生、六歳のときに初めて「あいうえお」を習ってから、その十倍近い人生を生きてきた内田かずひろ、五十八才。ひと昔前ならもうすぐ会社を定年する年齢だ。五十才を過ぎる頃には自分もちゃんとしているだろうと若い頃には思っていたと言う。しかし、マンガの仕事もなくなり、貯蓄もなく、彼女にもフラれ、部屋をゴミ屋敷にして、ついにはホームレスになり、生活保護を申請するも断念せざるを得ず…。だが、そんな内田でも人生で学んできたことは沢山ある。内田の描くキャラクター、犬のロダンの目線で世の中を見てきた気づきの国語辞典と、内田の「あいうえお」エッセイ。この連載が久々のマンガの仕事になる。

第7回「き」

きたい

2023年9月25日掲載

裏切られたと感じた時は期待していたからに他ならない。

僕は自分に裏切られ続けていた。

「明日から頑張ろう!」
と明日の自分に期待してしまっていた。その時は「明日の自分」は同じ自分だけど「今日の自分」よりもちょっと優れていて、やる気も体力もあるような気がしていた。

しかし明日になっても頑張れない…。そんな日々が続いていた。
しかし、それもそのはずで、良く考えたら、明日になったら、昨日の頑張ってくれるであろうと期待した「明日の自分」は「今日の自分」になっているからだ。つまり「明日の自分」などというものは、実はいつまで経っても存在しないのだ。

その事に気がつけは、明日の自分に期待するというのがいかに無意味かわかる。存在しない架空の相手に期待しているようなものだ。

禁煙がなかなか出来なかった時もそうだった。今日までは煙草を吸って明日から禁煙しようと思ってもなかなか出来なかった。

禁煙に成功したのは、今日の自分が、今日から禁煙しようと思ったからだ。

自分自身でさえ厄介なのに、それが誰か別の相手だったらますます厄介だ。期待しなければ、裏切られたと感じる事もないけれど、期待もしないし期待もされない関係というのもいささか寂しい。

著者プロフィール
内田かずひろ

1964年、福岡県生まれ。高校卒業後、絵本作家を目指して上京。1989年「クレヨンハウス絵本大賞」にて入選。1990年『シロと歩けば』(竹書房)でマンガ家としてデビュー。代表作に「朝日新聞」に連載した『ロダンのココロ』(朝日新聞出版)がある。また絵本や挿絵も手がけ、絵本に『シロのきもち』(あかね書房)、『みんなわんわん』(好学社)、『はやくちまちしょうてんがい はやくちはやあるきたいかい』(林木林・作/偕成社)、『こどもの こよみしんぶん』(グループ・コロンブス・構成 文/文化出版局)挿絵に『みんなふつうで、みんなへん。』(枡野浩一・文/あかね書房)『子どものための哲学対話』(永井均・著/講談社)などがある。『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(森京詩姫・著/竹書房)では「怪人トンカラトン」や「さっちゃん」などのキャラクターデザインも担当した。