とかくこの世は生きづらい ロダンのココロ国語辞典

この連載について

小学一年生、六歳のときに初めて「あいうえお」を習ってから、その十倍近い人生を生きてきた内田かずひろ、五十八才。ひと昔前ならもうすぐ会社を定年する年齢だ。五十才を過ぎる頃には自分もちゃんとしているだろうと若い頃には思っていたと言う。しかし、マンガの仕事もなくなり、貯蓄もなく、彼女にもフラれ、部屋をゴミ屋敷にして、ついにはホームレスになり、生活保護を申請するも断念せざるを得ず…。だが、そんな内田でも人生で学んできたことは沢山ある。内田の描くキャラクター、犬のロダンの目線で世の中を見てきた気づきの国語辞典と、内田の「あいうえお」エッセイ。この連載が久々のマンガの仕事になる。

第10回「こ」

こころ

2023年10月16日掲載

心はどこにあるんだろう? 感情をつかさどっているのは脳だとしても、実際にドキドキしたり、ヒヤリとしたり、シクシク痛んだりするのは心臓だ。だけど心臓は臓器であって心ではない。

脳や心臓を取り出して解剖学的に指し示す事は出来ても「心」を取り出して指し示す事は出来ない。つまり脳によって作りだされる「心」は目に見えない存在だ。
目に見えないけれど、人間にとって、あらゆる行動を左右する最も大切な存在であると言っても過言ではないだろう。

僕のイメージでは、脳が指揮者で、心臓が楽団で、そこで奏でられる音楽こそが心の様に思うのだ。

嬉しい時には、元気な曲が、悲しい時には、寂しい曲が奏でられたりするだろう。

しかし経験上、とても悲しい時やととも辛い時には、何も奏でられない、無音のイメージだ。そんな時、もう一生自分の心は、何も鳴らないのではないだろうかと思ってしまう。

だけど、時間が経てば、またいつか音楽が奏でられる日々がきっと来る。

だから、疲れすぎた指揮者と楽団を少し休ませてあげるつもりで待ちたい。

著者プロフィール
内田かずひろ

1964年、福岡県生まれ。高校卒業後、絵本作家を目指して上京。1989年「クレヨンハウス絵本大賞」にて入選。1990年『シロと歩けば』(竹書房)でマンガ家としてデビュー。代表作に「朝日新聞」に連載した『ロダンのココロ』(朝日新聞出版)がある。また絵本や挿絵も手がけ、絵本に『シロのきもち』(あかね書房)、『みんなわんわん』(好学社)、『はやくちまちしょうてんがい はやくちはやあるきたいかい』(林木林・作/偕成社)、『こどもの こよみしんぶん』(グループ・コロンブス・構成 文/文化出版局)挿絵に『みんなふつうで、みんなへん。』(枡野浩一・文/あかね書房)『子どものための哲学対話』(永井均・著/講談社)などがある。『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(森京詩姫・著/竹書房)では「怪人トンカラトン」や「さっちゃん」などのキャラクターデザインも担当した。