ある翻訳家の取り憑かれた日常

第27回

2024/02/03-2024/02/16

2024年2月29日掲載

2024/02/03 土曜日 

あっという間に2月だ。1月は昨年末に仕事をしすぎたこともあってゆっくりしようと決め、ゆっくりしたのはいいのだけれど、ちゃんと仕事に戻ることが出来なくなってしまった。ハリーと散歩に出てはぼんやりし、家に戻り、適当に掃除をして夕食の支度をして、ドキュメンタリーを視聴する日々。なんだか久しぶりにゆっくりすることができている。が、それでいいのか。

今週から、義理の両親が週末もデイサービスに行くことになった。週末はヘルパーさんに来て頂くことができないので(人手不足で人員確保が出来ないらしい)、私か夫のどちらかが実家に赴き、二人を支度させ、送り出す役をしなければならない。仕方がないことだけれど、週末にも動くことになると、介護する側も息切れしてくる。難しいものだ。しばらくの間は夫一人で対応。

2024/02/04 日曜日

天気が良い。こういう時は歩くに限るということで、ハリーと一緒に長距離の散歩に行く。ハリーは本当に性格の良い犬で、散歩に行こうと誘って断られたことはない。連れ出すと、それなりに楽しみ、そろそろ帰ろうかと言えば、素直に従ってくれる。体も大きいが、心も大きい。でも一番素晴らしいのは、顔が大きいところだと私は思う。

2024/02/05 月曜日

車を運転して買い物に行く途中で、ママ友の店の前を通る。今日も彼女は元気そうで、よく働く体は鍛え上げられ、衣類の上からでも筋肉質だとわかる。店の前で両手を腰に当て、従業員の人と談笑していた。私の車に気づくと、笑顔で右手をあげた。かっこいい。

日中は店舗で接客し、夕方からは配達で大きなトラックに乗って市内を移動。夕食もしっかり作っており、夫の両親との同居である。子どもたちが小学生のころ、彼女の作るキャラ弁は有名だった。手先がとても器用で、子どもたちが学校で使う布袋類はすべて手作りだ。

時々こういうスーパーウーマンは存在するが、彼女はそのなかでも抜きん出ている。

2024/02/06 火曜日

冷たい雨が続いている。私が住んでいる琵琶湖の西側は、冬になると、雪か雨かの二択のように思える。すっきりと晴れる日は少ない。どんよりと曇っている日がほとんどだと言っていい。そして時折、冷たい雪交じりの雨が降る。わが家の庭は整地していないため(夏に雑草でジャングル化する理由はこれ)、常に水で濡れた状態になり、配達に来てくれる人たちに悪いなあと気になってしまう。

この底冷えする時期は体調も崩しやすい。昔は気温で体調が変わるだとか、具合が悪いだとか、そんなことこれっぽっちも考えたことはなかったし、それより酒を持ってこいの人生だったが、気温ってのは大事だねと最近気づいた。そんな日が来るなんてな。早く春が来て欲しいと願うあたり、私も立派な中年になったと思うのであった。

2024/02/07 水曜日

義理の両親と食事(Hotto Motto)をしていたのだが、義父が突如として、自分の食べ残したおかずを義母の食べている弁当のおかずに上にドーンと置いた。思わず、「何してるんですか!?」と聞いてしまった。すると義父は「残ったから、一緒にしておこうと思って」と答えた。「まだお義母さん、食べてるじゃないですか」と返したら、だからなに? みたいな顔だった。義母は何も気づかない様子で食べていた。昔の義母だったら、右フックをお見舞いしたのではと考えた。その行為自体、私はとても嫌だわ……と、一緒に目撃していた夫に後で言うと、「わしも嫌だ」と言って怒っていた。

しかし夫曰く、当の夫婦はずっと昔からそのようなことをしているそうで、「ま、夫婦間では納得しているみたいやで」と夫は説明していた。なんなの……どんなプレイなんだ…

2024/02/08 木曜日

『犬と会話する方法 動物行動学が教える人と犬の幸せ』パトリシア・B・マコーネル 著(慶應義塾大学出版会)の情報解禁。いやあ、この本はとてもいい本でした。すべての動物好き、犬好きにお勧めしたい一冊。結構長いのだけれど、ユーモアたっぷりだし、犬以外の動物の情報もたっぷり掲載されているので、楽しんで読んでもらえるはず。犬好きとして、関わることができて本当にうれしい一冊となった。私のハリーに対するアプローチもずいぶん変わった。変わったんだけど、当のハリーは穏やかにじっと私を見つめているだけだ。

2024/02/09 金曜日

ハリー体調崩す。数日前からなんとなく元気がないなあとは思っていたが、今日は私の部屋にずっといて、なんだか浮かない顔をしている。真っ黒なので表情も何もないのだが、やはりどこかおかしい。眉毛が下がっているように見える。フードは普通に食べているが、少しお腹を壊している。ハリーももう7歳。人間でいえば立派な中年だ。ハリーについては大型犬ということもあって、健康管理には十分注意しているつもりだけれど、念には念をということで、明日受診することに。

2024/02/10 土曜日

ハリー、動物病院に行く。お腹の調子が悪いので、薬を処方してもらう。お腹をエコーで診てもらったが、特に異常はなさそうだった。しかし体重が減っていた。1月からずいぶんハリーとは歩いているのだけれど、だからと言って体重が減るほどの運動だろうか。ちょっと気になるので、様子を見ることにする。いつものロッキーチャック先生がいなくて、若い獣医師だった。しっかりしてる感じ。

ハリーは本当に大人しい。何をやられても、一切動じないし、暴れることもない。ハートが優しいのがハリーの最高なところ。早く元気になってほしい。

2024/02/11 日曜日

ハリーの調子があまり良くないので、長い散歩は避けて、湖までゆっくり歩いた。湖に到着したので、ハリーが泳がないように注意していたのだが、ちょっと目を離した隙に、ドボンと飛び込んでいた。気持ちがいいようで、しばらくスイスイ泳いでいた。背中から湯気が出ていた。

2024/02/12 月曜日

通院日。通院のめんどくささ。本当に面倒くさい。先生に会えるのはうれしいけどね。

心臓病になった人の一部が最終的に通院しなくなって悪化させるとよく聞くのだけれど、その気持ちはわかるわ! 時間が経過して元気になってくると、心臓はご機嫌に動いてくれるようになって、そうなると途端に、総合病院の数時間の待ち時間とか、各種検査とか、薬の処方までに時間がかかることなんかが面倒くさく思えてくる。しかし! そこが踏ん張りどころなんだ。面倒くさい、確かにね。でも、ピットインだと思って行けばいい。長い人生の途中に、プロが整備してくれる場所があるんだからそれほどありがたいことはない。大学病院(手術をした病院)の方は、「10 年で卒業でいいよ」と言われてうれしいのだが、経過観察していただいている総合病院は、一生のお付き合いになるだろうな。

2024/02/13 火曜日

子どものタイミングの微妙さについて。ママ友と、「子どもってなにかとタイミングが微妙なときがないだろうか」という話になった。子どもが悪いという意味ではなくて、彼らが何か要求するときに限って母親は何か別のことに集中しなければならない時が多いという話。悪魔のタイミングとでも言おうか。例えば、大事な電話がかかっているときに限って、子どもは母親に話しかけ、腕を引っ張り、大声を出したりする。これは育児あるあるで、多くの親が経験していると思う。映画のシーンなどにもよくある。

もう無理だこんな生活……と、母親の精神状態が極限のときに限って、子どもはスーパーの床に仰向けに寝転がり、手脚をばたつかせて大声で泣いたりする。あるのよ、ある。

神様が試しているのだと思う(俺たちの忍耐を)。

2024/02/14 水曜日

無期懲役囚についてのニュース特集を視聴する(『報道特集』の「死刑を免れた男たち」)。大変興味深かった。
無期懲役囚の高齢化が急速に進み、認知症を患う懲役囚も増えている。塀の中の老老介護が進んでいるそうだ。高齢の無期懲役囚が、より高齢の無期懲役囚を介護する世界。介護される側の無期懲役囚は、自分が犯した罪を記憶していない。老老介護を無期無期(ムキムキ)介護だと揶揄する者もいるそうだ。語感がすごい。

有期刑の最高が30年なので、それを超えて服役しなければ仮釈放の対象にはならない(身元引受人も必要)。生きて社会に戻ると決めている若い無期懲役囚は体を鍛えまくっている。72歳無期懲役囚の渾身の走り込み。無期懲役囚に肥満体はまず見かけない。確かに、全員が鍛え上げている。筋肉質の体が長い刑期を象徴と、ナレーション。

岡山刑務所に収監されている無期懲役囚の仮釈放が実現したのは過去数年でもわずか。全国に無期懲役囚は約1700人いるらしい。仮釈放までの平均刑期は約38年、終身刑化しているとされる(仮釈放が実現しない、死刑から減刑された無期懲役囚のことを「マル特無期」と呼ぶ)。念願の仮釈放となっても、遵守事項(酒、タバコ、ギャンブルなどなど)を守ることが出来ず、再び塀のなかに戻る人もいる。いろいろと考えさせられる。

2024/02/15 木曜日

仕事、手につかず。何もかもが手につかず。苦し紛れにTikTokをアップしてしまった。村井がまたサボっていると思われていると感じている。インターネットショッピングが捗るったら捗る。

2024/02/16 金曜日

久々のメンタルクリニック。一度、診察を飛ばしてしまった。

「仕事はできてます?」
「うーん、いまいちです」
「眠れてます?」
「はい、それはちゃんと眠ることができています」
「気分は?」
「まあまあですね」
「あなた、自分でいろいろと工夫して、元気になれる方だから、大丈夫ですよ」
「はい、大丈夫です」
「フフフ、それじゃ、がんばって」
「フフフフ、ハイ。また来月」

著者プロフィール
村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。