ある翻訳家の取り憑かれた日常

第47回

2024/11/12-2024/11/24

2024年12月5日掲載

2024/11/12 火曜日

昨日から次男が庭の草刈りをしている。私の自慢のマキタの充電式草刈機はチューニングがしっかり行われているため、素人が刈ってもある程度きれいに仕上がる。次男は「俺はやっぱり才能がある」と言っていたが、それは母のチューニングの賜物、しかし、そうは言わない。

芝刈リストの母から見れば、刈り残しが多少ある。しかし次男は「ああこれは完璧だ、こんなにきれいに刈り上がるなんてやっぱり俺は天才なのかもしれない」と言うので、「草刈りもひとつのアートですから」と声をかけると、「家、入っててもらっていいですか」と言われる。結局、庭全体を刈ってくれた。おこづかいをあげた。

2024/11/13 水曜日

私は市販の食品の容器が、ガラス瓶からチューブなどに変更されて発売されると大喜びで買うのだが、ここ10年あまりの、このタイプの変更で最も感動したのは、なめたけのチューブ化である。なめたけソムリエとしては涙を流さんばかりに喜んだ出来事だった。

そしてもうひとつ、私が感動するのがフリーズドライ食品の進化だ。そのなかでも歓喜したのは、味噌のフリーズドライ化である。具材まですでに入っているフリーズドライ味噌汁は、随分昔から発売されているしスーパーなどでも簡単に手に入るが(それも味噌汁だけに留まらず、にゅうめんやお粥などメニューは幅広い)、少し前に味噌自体(味噌だけ)のフリーズドライ製品を発見してしまった。顆粒タイプだ。スーパーで声が出た! わーー! 味噌までこうなったやないかーい!!!

近年、味噌はチューブでも発売されており、私は常にチューブで買っていた。しかし今はフリーズドライ味噌がある。気分は最高。こんなにも扱いやすい味噌があっただろうか。冷蔵庫で謎に幅を利かせる味噌パックがいなくなっただけで、こんなにも幸福感がアップするとは。今日も数分で味噌汁を作ることが出来た。

2024/11/14 木曜日

文芸誌『すばる』連載中の「湖畔のブッククラブ」締め切り。文字数は多くないけれど、「湖畔のブッククラブ」は毎月苦労する。翻訳物のノンフィクションは感想を書くのが難しいし、読むのもなかなか難しいジャンルだなと思う。ただし、読み切ったときの満足感はかなり高い。だからノンフィクションはやめられない。特に事件物は好き過ぎて、老後は事件物を読み続ける人になりたい。

2024/11/15   金曜日

冬になるとどこからともなく引っ張り出されてくる私の巨大なポットだが、寒くなってきたので大活躍している。仕事の合間に紅茶とか緑茶を飲んでいるけれど、いつもとは違う何かを飲みたいなと思い、近所のドラッグストアに行ってきた。

すぐに目についたのは、懐かしい緑色の袋。昭和生まれの人間なら「ミロ」と聞いたらすぐに「強い子のミロ♪」というキャッチフレーズが音楽と共に思い浮かぶだろう。令和の今、ミロの袋には「毎日の元気をサポート!」と書いてある。キリッとしてる。

そういえば先日、どこかで骨粗しょう症の予防にミロがいいと読んだな(たぶんX)……と思い、買ってみた。そして飲んでみた。懐かしい味だ。うっすいココアだ。

そういえば母方の祖父が毎朝飲んでいたなあと思い出した。彼は健康フェチだった。名前は金蔵(きんぞう)で、優しい人ではあったが、私と金蔵には共通点がないと思っていたものの、安易に健康グッズみたいなものに飛びつくところは似ていると思った。

2024/11/16 土曜日

パソコンの入れ替えをした。今まで使っていたパソコン、挙動不審になったうえに、もう7年も使ったので、いいやと思って買い換えた。そして気軽に入れ替えをしたのだが……これが結構大変だった。新しいパソコンに現在使用中の2台の27インチモニタが接続出来なかったのだ(新しいタワー型のパソコンにはHDMI端子がひとつしかなかった。つまり、接続できたのは1台だけ)。必要なケーブルやアダプタなどを注文して、やれやれ……結局完全移行には至らず。しばらくモニタ1台での作業。

2024/11/17 日曜日

34インチ(大きい!)のモニタが定価の半額以下になっているのを発見した。そういえば、息子たちが「家のどこかに、家族共有のパソコンを置くべきだ!」とか言ってたなと思い出し、購入を検討しはじめた(最近はそういうモードになっている)。私が持っているMacbook proに接続するのはどうだろう。原稿を書くためだけに使うには、無駄にハイスペックなMacbook proを、動画編集をしたがっている息子たちに与えるのもいいのでは?

いや、なんなら私が動画を編集したらいいのでは? 生配信をしたらいいのでは? ツムツムおばあちゃんのようになったらいいのでは? どうしよう、買うべきか。だって19800円なんだもの!

2024/11/18 月曜日

34インチモニタを購入した(やってしまった)。今ある27インチモニタ2台のうち、1台を自分用に残して、もう1台を息子のどちらか希望した方に与えることにした。34インチモニタはスピーカー内蔵らしい。わくわくしてきた。夫は「また買ったのか」とため息をついていた。

2024/11/19 火曜日

10時から息子の学校のPTA関連の会議だとばかり思っていた私(なんで高3なのにPTAやってんだよっていうのは、別のストーリーがあるが、またいずれ)。ここのところ数か月、行かねばならぬ会合を欠席してばかりで申し訳なさがピークに達していたため、仕事を前倒しして、必死になって行ったのだが、到着して着席したら全然違う勉強会だということに気づいた。焦って予定を確認したら一週間間違えていた。どうしよう、このまま出て行こうか、でも、あまりにも失礼すぎる。しかし、このままここに留まれば午前中は潰れる。今、恥を忍んで脱出したら、原稿1本は書ける……と思い、みなさんの視線を一斉に浴びながらも、その場を去った。もうだめだ。もう本当にだめだと思った。

2024/11/20 水曜日

買い物熱に火がついているため、気を引き締めなければならない。仕事を頑張りすぎると、必ず買い物も頑張るという悲しい性は、どうにも治らない。しかしカシウェアの毛布が欲しい。ということで、長い時間、ウェブサイトをじっと見ている。

2024/11/21 木曜日

顔を合わせる度に同居を求めてくる義父から全力で逃げる日々が続いている。義父の言い分はこうだ。

「老人だけの食卓が侘しいから、孫と一緒に暮らしたい」

気持ちは大変よくわかる。かわいそうだなとも思う。でも、それを実現させたら、一番かわいそうな状態になるのは私なのは目に見えている。義父の三食を用意し(三食ともマクドな)、毎朝義母をデイサービスに送り出し、掃除に洗濯に……。いつか仕事も辞めることになるだろうし、様々なことを諦めることになるだろう。それに、孫もいつまでここにいるのかわからない。

誰のために? 考えていたら腹が立ってきた。私の人生は私のものだと、当然のことが言えないなんて。

私の両親が生きていたら、どういう状況になっていただろう。はっきりとわかっているのは、兄は介護から全力で逃げただろうということだけ。ハハハハ……あいつ、ほんとにそんな男だったわい。でも、生きていてくれたら、それでよかったんやで。

2024/11/22 金曜日

テオ、トリミングの日。ドッグスクールのトレーナーさんがカットしてくれるというので、連れて行った。テオからしたら、実家に戻るようなものなので、うれしそうにしていた。テオはかなり毛量が多い。あまり手入れせずに放置しておくと、狼みたいになる。私は実は、ボサボサのテオが好きだ。アラバイ(セントラル・アジア・シェパード・ドッグ)みたいで最高だ。ハリーもほとんど手入れをしなかったが、自然な風貌でかっこよかった。

家に戻ったテオは、お坊ちゃまみたいにきれいになっていた。前足はクリームパンみたいに丸くなっていた。めちゃくちゃかわいい。これでいいのだ。なにせ、性格が本当に穏やかなゴールデン・レトリバーだもの。

2024/11/23 土曜日

34インチモニタが到着し、いろいろと試行錯誤しながらMacbook proを接続した。まあ、なんて素晴らしいの! 解像度が違うわ!

やっぱり私が使おうと思ってデスクに置いてみたのだが、大変なことになった。作業スペースはゼロだ。


スピーカー内蔵らしい。最近のモニタはすごいね。これが2万円を切るだなんて。

2024/11/24 日曜日

とにかく、とんでもなく難しい一冊をここのところしばらく訳しているが、頭を抱えてしまっている。34インチモニタをデスクに置いている場合ではないのだ。

パリスもブリトニーもホップウッド(これはお城系DIY本)も、もちろん難しいことはあっても、理解が追いつかないことはなかった。しかしこの一冊は、かなりまずいぞ……。

参考資料をかき集めて、とにかく必死だ。もうだめだ、こればかりは無理なのかもしれないと思いつつ、徐々に楽しくなってきた。難しいパズルのピースを埋めている感覚が戻ってきた。絶対に最後まで辿りつかなければならない。絶対に負けられない勝負だし、負けるとは思えない。

できる、俺ならオブ2024!!!

著者プロフィール
村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。