ある翻訳家の取り憑かれた日常

第1回

2023/01/19-2023/02/02

2023年2月9日掲載

2023/01/19 木曜日

朝8時、パン二斤を食べきった息子たちを送り出す。送り出したら、次は急いでゴミ出し。三つ出して小走りで家に戻って洗濯機を回し(一回目)、食器を洗い、キッチンを片づけ、リビングの掃除。年始のセールで買った大きな魔法瓶(シルバーのかっこいいやつ)で沸かしたお湯でお茶を淹れ、パソコンの前に座る。魔法瓶に対して少し特殊な愛着を持っていると自分でも思う。この時点でだいたい朝の9時。9時にスタートを切ることが出来れば、その日の仕事はうまく回る。

年末に依頼のあった一冊、The Real-Life Murder Clubsの翻訳作業を今日からスタートする。アメリカで出版された、トゥルー・クライム(ノンフィクションの犯罪ドキュメンタリー)関連本だ。それも今回は、「一般市民が活躍して事件を解決に導いた」というサブタイトルがついている少し変わった一冊。DIYデカ(市民探偵)が主人公だ! とうれしくなる。大好きなジャンル。日本ではあまり馴染みがないけれど、未解決事件を追うDIYデカはアメリカにはたくさんいる。彼らが集う掲示板へ、実は私も頻繁に訪れている。

もくじの次がいきなり用語集というレイアウト。最初にわかっておいてよね! という親切設計かな。autopsy、bioinformatics、cold case、composite sketchなど、犯罪系ノンフクションを訳している人間であればおなじみの単語が続くが、「EARONS」が出てきてテンションがあがる。黄金州の殺人鬼(ゴールデン・ステート・キラー)じゃん。

EAR+ONS=EARONS。イースト・エリア・レイピスト(EAR)、そしてオリジナル・ナイト・ストーカー(ONS)を指す。数年前までこの史上最悪の連続殺人鬼EARONSが誰なのか一切判明していなかった。あまりの犯行の多さに、捜査開始当時は犯人は二人だと思われていた(EARとONS)。事件は迷宮入りするものだと誰もが考えていた……数人のDIYデカ以外は。執念の捜査が実り逮捕されたのはジョセフ・ジェイムス・ディアンジェロ。まさかの元警官で、近所では釣り好きおじさんとして知られていた人物。

EARONSの事件タイムラインを見ると、ぱたりと犯行が止まった時期と妻の出産が重なっていることがわかる。生まれたのは娘。不気味。事件解決の鍵となったGEDmatch(家系図作成サイト)の記載にもわくわくする。あのあたりはもっと突き詰めて調べたいと思っていた。以前調べたときの資料を引っ張り出す。

第一章。Crystal Theobald(24歳)殺害事件。運転中に銃撃され、命を落とした女性。この事件の特徴は母親による犯人捜しだ。親からすれば悪夢だろう。冒頭の母親の語りを訳していたら、iPhoneのタイマーが鳴って、外出の時間。今日は長男の学校に行く用事があった。今夜のおでん用の牛すじ肉を解凍するために冷蔵庫から出してキッチンの高い場所に置き(愛犬ハリーが食べてしまわないように)、車を飛ばした。帰りにモスバーガーに寄ってテイクアウト。家でハリーに吠えられながら食べた。作業に戻る。夜、洗濯機をふたたび回した。

2023/01/20 金曜日

通院日。琵琶湖の西側から、東側へ。ごちゃごちゃしたJR膳所駅前から徒歩で10分程度におの浜方向に進んだ先に、そのクリニックはある。瀟洒なマンション一階で、狭い待合室だが居心地がいい。四角い窓が道路に面していて、車や人の往来が見えるのがいい。横がレストランなのも、とてもいい。あっという間に診察は終わり、処方箋を頂いて二軒横のドラッグストアで薬が出来上がるのを待っていると、亜紀書房の内籐さんから着電した。内籐さんと作っている翻訳書のスケジュールがギリギリなのだ。出版は2月エンドの予定だが、私の作業が遅れているうえに、内籐さん、近々ボルネオのジャングルに行くという。ボルネオ! 内籐さんって変わってるよなあと思いつつ、ドラッグストア前で「マラリアに気をつけて下さいね! 万が一戻って来ることができなくても、刊行はよろしくお願いします!」などとふざけて言う。作っている翻訳書はコスタリカのジャングルの話だが、その最中にボルネオのジャングルに行くとは、想像を遙かに超えてくる人だ。

実は、今日はエッセイ集の発売日でもあった。こちらも亜紀書房の内籐さんとの一冊で、装幀がとてもかわいくて気に入っている。売れてくれよと祈るような気持ちだ。本が売れないと言われ出してから、どれぐらい経過しただろう。

どこにも寄らずにJR膳所駅前まで戻ったものの、駅の真ん前にある王将に吸い寄せられるようにして入ってしまう。王将のメニューには、自分の胃がついていけないのはわかっているのに、どうしても入らざるをえないのは、貧乏学生時代に抱いた王将に対する強い信仰心の名残みたいなものだ。あの頃の淀みきった日々を昇華(消化?)しきれていない。焼きそばを待つ間に『ネット右翼になった父』鈴木大介著を読みふけった。著者の父が、時折自分の父に重なり、胸が締め付けられるようだった。

急いで家に戻ってコスタリカのジャングル本のゲラを一心不乱に読む。体力が持たなくて、すぐに眠くなる。とりあえず横になると、ハリーがヨーグルトの空箱を運んで来て、私に与えようとする。それを笑っていたらいつの間にか寝てしまい、次男のLINEで目を覚ました。部活がなくなったから、帰りが早いよということだった。

ようやく目が覚め、翻訳作業・夜の部に取りかかる。The Real-Life Murder Clubsは、イントロダクションの前に用語集がある。イントロダクションも用語集も飛ばしていきなり一章を訳しちゃおうかという誘惑に負けそうになるが(気がはやるのだ!)、ここは大人の落ち着きというものを取り戻して、しっかり最初からやっていこうと考えた。Jane and John Does(ジェーン・ドウとジョン・ドウ)とはアメリカの警察が身元不明遺体につける名前だが、日本の警察にもこういう裏メニュー的な呼称ってあるのだろうか。気になる。なんとなく、花子と太郎がつきそうだなと思う。名字は山田だろうか。

2023/01/21 土曜日

琵琶湖西側から北側を眺めると、見事な伊吹山地が見える。寒波到来で山頂は真っ白だが、空は晴れ渡っている。対象的に、私が住む西側は、冬の間はほとんど曇り空だ。巨大な比良山系は白いスプレーをさっと吹き付けたような姿で、生い茂る木々と雪のコントラストが絵画のよう。巨大な山脈を眺めながら仕事をした。

朝からジャングル本の校正刷を読み直している。翻訳においては「なんでもないような単語が、一番厄介だ」と常に感じている。二校にもなっているというのに驚くようなケアレスミスがいくつもあった。ベテラン編集者さんが発見してくれたからよかったものの、これがそのまま印刷されていたらと思うと背筋が寒くなる。すべてチェックして、ヤマトの営業所まで車を走らせ、担当編集者さんに戻した。

午後になって、1月の初めに預かった一冊をチェックする。タイトルがセンセーショナルで、出版されたら話題になりそうだ。130ページというライトな一冊で、500ページのジャングル本をチェックした後なので、少しほっとする。1月末に第一章を訳了する予定なので、一章をふむふむと読んだ。

2023/01/22 日曜日

沖縄県うるま市にある会社が販売している「黒糖ココア」という、有機栽培ココアと沖縄産加工黒糖で作られた調整ココアにはまっている。日曜の朝に、温かくて濃厚なココアを飲みつつノンフィクションを読む。伊澤理江『黒い海 船は突然、深海へ消えた』。最高の気分。

寒波到来で随分寒い。朝六時に起きてストーブをつけたので部屋は暖まっており、快適な気分で仕事スタート。今日はオンライン試写会にて新作映画を二本観る。私なんかでいいのかと思いつつ、映画の感想を原稿にまとめることになっている。翻訳家として、というよりは、女性としてどう観たかという感想を求められているのだと思う。

午後、週明けにテストだという次男と一緒に生物の教科書を読む。林冠、林床というワードが出て、ジャングル本に出ていたなと思い出す。何をしても翻訳から離れられない。

2023/01/23 月曜日

翻訳作業は、出来れば毎日やったほうがいい。一行でもいいから、毎日書いたほうがいい。なぜかというと、一旦休むと再開に時間がかかるからだ。好きな作業=楽な作業というわけではなくて、私は翻訳が大好きだけど、翻訳をするという行為自体は、とても、とても、大変なのだ。何年やっても、まったく楽にならない。苦痛を感じないレベルまで作業が到達すると、何十時間でも連続して書くことができるようになるけれど、そうなるのは決まって書籍の後半になってからだ。ランニングハイみたいなものだと思う。眠ることが出来なくなるのも、だいたい後半から。

出来れば逃げたい。可能な限り、逃げていたい。だから、長い間休んではいけない。毎日やらないと辛くなっていくだけだから……というわけで、今日は午前から忙しかったが、今から翻訳作業・夜の部がスタート。二冊平行しての作業。どちらも刺激的な内容。

2023/01/25 水曜日

大雪。積雪量1メートル。朝から映画の感想をまとめ、入稿。最近、家族がテーマの原稿を依頼される機会が増えた。そういえば私が生まれついた機能不全家族について書いたことで、親戚が少し肩身の狭い思いをしていると聞いた。肩身が狭いっつっても、そんなに読まれてないから気にする必要ないのにね。書いた本人が気にしていないというのに、何が心配なんだろう。

午前中いっぱいは雪かきだった。正直、これだけ降ってしまうと、雪かきする意味 is なに? という気持ちしかしない。だって、車も出せないんだし、家にいるしかないし、家の前の道なんて誰も通らないだろうに。ただただ、近所の人が雪かきをしているから、私も出なくてはという、そういう理由だ。一人じゃいやだから、息子に頼んで一緒に作業。愛犬ハリーも参加。ハリーは雪が大好きなのでテンションが高めでかわいい。クマみたいだね。

今日は週末でもないのに珍しく、家族全員が家にいる。JRも止まってしまい、車も出すべきではない状況で、学校は休校、夫は在宅勤務となった。全員がいるけれど、外が真っ白で粉雪が積もっているため雰囲気がよく、仕事がよく進む。The Real-Life Murder Clubsのイントロダクション冒頭の、セメントで満たされたバケツの中に腐敗した頭部という一文で、あれ、これってもしかしてフロリダで発見されたバケツに入った遺体のことかなと思い出した。ジャンクヤードの清掃員が発見したもので、彼は「お腹が空いてるけど、何も食べる気になりません」と発言してて、不謹慎だが少しおかしくて記憶していた。コンクリートで満たされたバケツに入った頭部という事件概要で、一体どれぐらい発生しているのか調べてみた。

2005年バッファロー、2010年フロリダ、2012年ミゾーリ、2017年アイオワ、そして2007年のルーシー・ブラックマン事件がヒットした。『刑事たちの挽歌 警視庁捜査一課「ルーシー事件」』、『黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実』、二冊とも階下の本棚にある。ようし、今から読んじゃうぞと思って、いやいや、作業が先でしょ普通……と、考えたのだった。

しばらく翻訳し、2月下旬に出版予定の翻訳本のあとがきを大急ぎで書く。あとがきって難しい。あらすじを書いちゃうとネタバレになっちゃうし、感想を書いたら感想文だし、一体なにを書いたらいいのかと毎度悩むのだった。

2023/01/26 木曜日

大雪からの凍結。日中に雪は溶けきらず、夜になった。明日の朝は、再び凍結祭りだ。

昨日から書いていた原稿を入稿したが、戻って来た。もう少し村井さんの経験を書き足してほしいということだった。文字数を増やしてもいいということだったので、午前中に書き足して送ろうと思ったが、私の妖怪アンテナが何かを検知し、少し寝かせてからにしようと考え、午後にもう一度読んでみたら壊滅的だった。ひどい。なんというひどい文章だろう。ぶざまだ。がっくりときて、すべて書き直すことにした。

ある程度書いてあれば、直すのも楽だろうと思われがちだけれど、そうでもない。例えば、カレーライスを作ったとしよう。「じゃがいもを里芋に差しかえる」としたら、最初から作り直すしかない。そんなケースはあまりないが。

というわけで、最初から書き直しである。もちろん、自分でそうしようと決めた。結局、3時間ぐらいかけて最初から書き直し、再び寝かせることにした。編集者さんが締め切りを延ばしてくれたので、ぎりぎりまで粘ってみよう。初めてお仕事する方なので、がっかりさせたくない。

少し横になっていると、息子たちが戻って来た。懐っこい次男がTikTokの動画をLINE経由で送ってきて、「これって本当だと思う?」と聞くので、「どう見ても加工じゃん!」と答え、なんだか自分が嫌になった。もうちょっと言い方(書き方)があると思った。

ぱっと見は本物のように見えますが、よくよく見てみると、画像が加工されているようですね。

乱暴な母でごめんね。

暗くなってから翻訳を開始。用語集から着手する。いきなり気になるワード発見だ。それは「バイオインフォマティックス」。ジャパンナレッジによると、「コンピューターによる情報科学の手法を、広く生命現象の解明に応用する学問分野」だそうだ。わくわくしてきた。

2023/01/27 金曜日

仕事の相棒とも言えるシルバーの巨大な魔法瓶には、ゴリラのマグネットをつけている。キングコングが登ったエンパイア・ステート・ビルを意識し、魔法瓶の蓋を目指して登っているようなスタイルにしている。私はどちらかというと武骨なプロダクトが好きで、特にキッチン用品はがっしりとしたものが好み。この魔法瓶も3リットル入る最大クラスの製品だ。お湯の計量機能がついているので、お料理などに便利だ(どれぐらいのお湯を注ぎ入れたかわかる仕組み)。今日は朝から緑茶を飲んだ。これからはお茶にハマってみたい。気が短いのでお茶を飲んでまったりという状況が理解できない。しかし、そういう時間が必要なのはわかる。気づいたらハマっていたというよりは、ハマってみたいという姿勢だね。

朝からしっかり翻訳をやるつもりが……義父から電話があり、薬が足りなくなってしまったということだった。ここで、「それは大変ですね」と突き放すのもアリだが、私はどうしてもそこまで冷たくできない。なぜかというと、例えば三軒隣の山田さん(仮)が、「薬が切れてしまったんです。申し訳ありませんが、病院まで薬を取りに行ってくれませんか」と頼んだとしたら、私は「いいですよ」と答えて行ってあげると思うのだ。だから、夫実家に向かって診察券と保険証を持って病院に行って、義父の薬が切れたので一ヶ月分だけでも処方してもらえませんか、今日は大雪で90歳になる義父を連れてはこれなくて……と言ったが、あっさり却下。チッ……。結局義父を連れて病院へ。午前中が潰れた。私は薬の管理に大変厳格なので、「薬を切らしてしまう」という義父が信じられない。あまり会話することもなく別れた。

2023/01/28 土曜日

朝、司法書士からメールが来ていることに気づく。

静岡家庭裁判所島田出張所より予納金の納付の通知を、送付すると連絡がありました。
予納金の納付をお願いします。予納金額は50万4230円とのことです。細かいことは手紙を同封するそうです。

とあった。3年前に死んだ兄の相続財産管理人の申し立てをし、それにかかる費用だ。なぜ相続財産管理人の申し立てをしたかというと、祖母(故人)の名義のままとなっている実家の処分をするため。なぜ実家の処分をするために兄の相続財産管理人を決めなければならないのか、理由は司法書士の先生(ちなみに兄と同い年だった)に説明してもらったのだが、もうほぼ忘れてしまったし、調べる体力もない。兄のことになると、興味より絶望が勝つ。

ようやく稼いだと思ったら、右から左へ。くそ。迷惑ばかりだ! でも見てろ、10倍は稼いでやると、暗い目をしながらがんばって、今日は翻訳が進んだ。災い転じて福。

2023/01/29 日曜日

ジャングル本担当者亜紀書房の内籐さんから朝に電話がある。某書店でフェアをやって下さるという大ニュース! よし、がんばるぞということで、ますます仕事に気合いが入る。ちなみに内籐さんは明日からボルネオのジャングルで来月まで日本には戻らない。ディート(最強の虫除け剤)を準備したそうだ。生きて戻ることができますようにと笑いながら言ってしまった。第三校が数日後にわが家に戻ってくる。そして三回目のチェック。正念場だ。見落としなどありませんように。ジャングル本の作業に入って、どれぐらい経っただろう。長すぎてもうよくわからない。なにせ500ページだから。

今現在担当している翻訳本は、A社で二冊、B社で一冊、そして大和書房の『The Real-Life Murder Clubs』。同時進行というよりは、日替わりで訳している。すべて全力。当然です。

2023/01/30 月曜日

再び雪。

朝イチにB社向けの翻訳書のサンプルを送る。各章が短めで訳しやすい。著者は女性で若者向けに書いている(だろう)こともあって、文章はとてもシンプルで明快。こう書きたいものだというような、お手本みたいな文章。サンプルを気に入ってもらえるといいけど。

洗濯を急いで済ませて、部屋をぴかぴかにきれいにしてから、The Real-Life Murder Clubsの翻訳スタート。作業前には絶対に部屋をきれいにしたい。昨日の夜に書籍冒頭の用語集を訳し、ようやく第一章に入る。殺害されたのは当時24歳のクリスタル・シオボルド。この事件、『Why Did You Kill Me?』というタイトルでNetflixオリジナルドキュメンタリーになっていた。公開が2021年で、邦題は『なぜ殺したの?』。

記憶がある。視聴したはずだ。とりあえず、明日視聴し直すこととして、今日はReddit(アメリカの掲示板型ソーシャルニュースサイト)で事件概要を少し調べ、実際の翻訳をスタートした。母親が事件解決に重要な役割を果たしたが、その方法がある意味ユニークというか、度胸がある。しかし、子どもを事件で失うなんて、想像したくもないことだ。訳しながら、残された家族を思って辛くなった。母は強しと言うけれども……

夜。また雪。家に届け物をしてくれた女性の車が、駐車スペースに積もった雪で動かなくなってしまって、夫が雪かきをして、ようやく出庫できた。やれやれ。

寝る前、リビングを再びぴかぴかに掃除。最後にメールをチェックしたら、対談の依頼が舞い込んでいた。そして、明日締め切りの20枚(8000ワード)があることに気づく。とりあえず寝よう。

2023/01/31 火曜日

明け方まで雪。ため息が出そうなほど長い一日。

朝の8時半から書きはじめた原稿用紙20枚分の文章は、午後1時頃に終了&入稿。

最近、長い文章を書くときにやっていることがある。書きたいトピックをあらかじめ4つ選んでおくのだ。起承転結というわけではないが、4だときりがいいのでいつもそうしている。今回も、ひとつのトピックで5枚(原稿用紙)、合計、20枚完成。毎月20枚は結構きついね。これも試練じゃ。

何度か推敲したが、自分ではもうなにもわからなくなり、とにかく担当編集者さんに送る。彼女に見てもらったほうがいいに決まっている。

少し仮眠をとろうと思ったが、愛犬ハリーが真横に来て肉球のメンテナンスをはじめ、それを見ていたらあまりにもかわいくて寝ることが出来なかった。しかたなく起きて、Netflixで『なぜ殺したの?』を視聴。今現在訳しているThe Real-Life Murder Clubsに大いに関係ある作品。見ておいてよかった。登場人物である被害者女性の母、強すぎる。新しいタイプのドキュメンタリーだな。ワルにはワルのやり方がある。

2023/02/01 晴れ

雪が溶け出した。雪が完全に溶けて、風景の解像度がぐっと上がる瞬間が好きだ。

The Real-Life Murder Clubsの第一章。事件被害者クリスタルの母ベリンダは、昨日Netflixで確認したし(本事件がベースとなったドキュメンタリー『なぜ殺したの?』)、被害者クリスタルや親戚一同も全員確認。事前に観ておいてよかった。想像していた家族と少し違った(いい意味でも悪い意味でも)。ドキュメンタリーだから登場人物本人が出演していることもあって、訳す側からするとありがたい情報が詰まっている。

午後、亜紀書房の内籐さんからジャングル本の第三校戻る。500ページなのでずっしり重い。お昼ごろ朝日出版の日吉さんから電話があり、3月出版の単行本の第二校がもう少しで戻ることがわかる。表紙も見せてもらったが、この一冊にもハリーが登場。すごくいい感じ……というか、最高。それにしても表紙へのハリーの登場率高し。こちらは確か200ページぐらいあるので、二冊分戻ったら村上春樹の新作に迫るページ数だ。ページ数ではなく部数で迫りたい。いずれも、短期間でチェックしなければならない。

息子たちが帰宅してから、翻訳夜の部スタート。今日はきりのいいところまで仕上げてしまおう。

2023/02/02 木曜日

雨。雪はかなり溶けている。

朝、3月出版予定のエッセイ集第二校が戻る。ジャングル本も戻っているので、どっさり700ページ。どっさり700ページをテーブルの上に一旦置いて、今日は朝からThe Real-Life Murder Clubsの第一章。被害者の母の語りが多い箇所を訳しているので、昨日から何度か視聴したNetflixオリジナルドキュメンタリーをおさらいし、イメージを固めた。それにしても、母ベリンダのキャラはすごい。ひとことで言えば、ギャングスタお母さんってところだろうか。破天荒だが情の深さは十分伝わる。頼りがいのある人なのかもしれない。ママ友にいたら面白いかも。料理は上手そうだ。スパイシーな料理だろうな、たぶん(なんの妄想だ)。

今日は朝から作業が順調に進み、トータルで8000ワード(英語)。訳すと文字数は増えるので、日本語で1万ワードだった。翻訳の場合、英文というお手本があり、それを日本語の文章にしていくわけだから、何も無い状態から書くのに比べれば(例えばエッセイなど)、楽とは言わないが、安心して作業ができる。特に女性の語りは訳しやすい。語尾を適宜調整しながら書いた。語尾が過剰に女性言葉になると好かれないのはわかっているので、足したり、引いたり、工夫を重ねながら、登場人物の年齢、性格、バックグラウンドに合わせる。声も重要なヒント。だから映像があるのはありがたい。

今日は、まずまずの一日だったが、謎のダウナーがはじまっている。眠れなくなってきていることが原因なのかもしれない。頭の中が忙しく、夕べは夢のなかでも仕事をしてしまった。やれやれ。カニでも食べるか。甲殻類は正義。

著者プロフィール
村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。