大和書房の本 試し読み

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『さだまさし解体新書 ターヘル・サダトミア』

2024年1月15日掲載

2014年1月13日刊行後、たちまち重版が決まった『さだまさし解体新書 ターヘル・サダトミア』(さだまさし研究会 著)。
重版決定を記念して、本書の「プロローグ」全文を公開します。

『さだまさし解体新書 ターヘル・サダトミア』(さだまさし研究会/大和書房/2024.1)1,700円+税

プロローグ

 

「さだ研」って本当に俺のこと研究してるのか?

   

さだまさしを学問する。

歌手・さだまさしを学術的に分析、研究し、論文にしてまとめるという類を見ない書籍がここに誕生したきっかけは、さだまさし本人によるこのひと言だった。

― 本当に「さだ研」は、さだまさしを研究しているのか。

ここでまず、「さだ研」についての説明が必要になる。さだ研とは、「さだまさし研究会」の略で、そのルーツは1980年4月に発足した(諸説あり)、早稲田大学のサークル「早稲田大学さだまさし研究会」にある。おそらくほぼすべての大学のサークルとしての「研究会」がそうであるように、さだ研も、さだまさしを本気で学術的に研究しようという志のもとに集ったわけではない。創成期のメンバーによると、「とにかく女の子を集める」というさもありがちな目的のもと結成されたという。なぜ「さだまさし」だったのかという理由も、当時女性にも多くの熱狂的ファンを持っていたオフコースはすでに別の愛好会があったから使えない、松山千春よりはウケるだろう、というゆるすぎる狙いによるものだったという。

しかし、このゆるさこそが、さだ研が40年以上にわたって存続し、全国各地に支部および会員を増やして今に至る要因となった。
ゆるく、開放的な気風を持つさだ研は、もともとメンバーを早稲田大学の学生に限らないインカレサークルとして他学生も受け入れていたし、他大学で自発的に「さだ研」ができることにも歓迎の姿勢を貫いてきた。
結果、今では全国の大学にとどまらず、職場や友人同士など、ありとあらゆるところにさだ研が存在し、もはや当人たちが「さだ研」であると言いさえすればさだ研であり、全国各地に無数のさだ研メンバーが存在する状況となっている。

さだまさし自身、さだ研に対して好感を抱き、ときに関わりを持ち、おもしろがってはきたものの、言葉のスペシャリストとして「研究会」という名称についてひと言 触れておきたくなったのも当然だろう。「本当に俺のこと研究してんのか」と。

本書は、さだ自身にとってはおそらく何気ないつぶやきの一つに対する、過剰なまでのアンサーである。さだ研の中でも、それぞれに専門分野を持つ本職研究者および、在野にありながら特筆すべき専門知識と論文執筆の素養を持つ者たちによる論文をまとめた。
本書では、音声学、和声学、文化人類学、伝承文学、民俗学、日本語学と、さまざまな分野の研究論文および研究ストーリーに加え、さだ研によるさだまさし本人へのインタビューも収録した。また、付録として、本家・早稲田大学さだまさし研究会によるコラムや論文も見られるようになっている。
アカデミックな知識や素養がなくては楽しめないものではないので、すべてのファンに手に取ってもらい、「こんな楽しみ方もあるんだ」とページを繰りながら、さだまさしの色々な側面を知ってもらえたらうれしい。

さだまさし研究は、広くて深い、ある種の沼かもしれない。ここに収められた論文は、どれもさらなる研究の展開を示唆している。本書をきっかけに、また新たなさだまさし研究者が生まれることを願って― 。

本書目次より(1)
本書目次より(2)