大和書房の本 試し読み

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『まいにちメンタル危機の処方箋』

2024年1月18日掲載

2014年1月20日発売の「まいにちメンタル危機の処方箋」(内田舞 著/大和書房/1,500円+税)から、「プロローグ」を全文公開します。

(Amazon商品ページへリンク)
イラスト・とみだせな

プロローグ

突然ですが、あなたはいま、どんな気持ちですか?

「会社での理不尽な出来事にイライラした気持ちを引きずってる」
「家族や友達に強く当たってしまったことが、小骨のように心に突き刺さってチクチクする」
「偶然入ったお店のランチが思いのほかおいしくて、心がぽかぽかしてる」
など……?
あるいは、一日の仕事を終え、なんの感情もわいてこないくらいにクタクタに疲れているかもしれません。

生きていると、日々、いろいろな出来事が起こりますよね。

そのたびに嬉しくなったり、悲しくなったり、ほっとしたり、むなしくなったり。私たちの感情は絶えず変化し、揺れ動いています。それはごく自然なことで、いろいろな感情とともに生きること自体は、むしろ人間らしいともいえます。

しかし一方で、感情に翻弄されてしまったり、日々のネガティブな感情が積もり積もってしまうと、それは、私たちの健康を脅かすストレスになってしまいます。
とくにここ数年は、コロナ禍で経験したことのないストレスにさらされ、慢性的に心が弱っている人が増えています。
『まいにちメンタル危機の処方箋』という名前のこの本を手に取ってくださったあなたも、日々の生活の中で「もやもやした気持ちが晴れない」「最近、怒りっぽくなっている」 「積もったストレスでそろそろ気持ちがキレてしまいそう」という、メンタルの危機を感じているのかもしれません。

・メンタルが大崩れしてしまうその一歩手前で踏みとどまり、自分の心と上手につきあってほしい
・不安や焦り、怒りなどネガティブな感情の支配から抜け出して、少しでも良い方向に転換していってほしい

本書は、そんな思いを込めてまとめた、みなさんがよりすこやかに生きていくための、いわば心の処方箋です。

私は現在、マサチューセッツ総合病院の小児うつ病センター長として、子どもたちのうつ病や躁うつ病、不安障害、ADHDなどの精神疾患を診療しています。臨床医として患者さんを診察する傍ら、ハーバード大学医学部准教授・脳神経科学者として、子どもの気分の調整が脳の中でどのように行われているかの研究を行っています。

その研究の一つが、本書で紹介する「再評価」です。
再評価とは、ネガティブな感情をポジティブな方向に持っていく心理的アプローチの 一つです。簡単にいうと、ネガティブな感情が生じたときに、立ち止まってその状況や感情を整理し、捉えなおしてみる。感情が大爆発したり、心がペシャンコになったりしないように、少し方向転換させる手法です。

私は精神科医であり、脳科学者ですから、この本で紹介する内容は基本的に、医学的、心理学的な見地に基づいています。再評価という心理的アプローチにも科学的根拠があり、脳の機能を分析するファンクショナルMRIなどを用いて、感情を生む扁桃体と論理的な思考を司る前頭前野がコラボレーションした際に起こることなどがわかっています。
しかし一方で、ここではできるだけ平易な言葉を用いて、日常の中で無理なく取り入れられる、現実的なメンタルケアのアイデアをお伝えしようと思っています。

というのも、今まさに自分のメンタルが危機に陥っているその瞬間には、理屈だけでは役に立たないことが往々にしてあるからです。
たとえば、誰かの心ないひと言にカッとなって今にも感情を爆発させてしまいそうな ときに「今、科学的に脳の働きはこうなっているから、こんなふうに行動しよう」と考えるなんて、難しすぎて、なかなかできないですよね?

それともう一つ。この本では、「○○をすれば、誰でもすぐに変われます」というようなことは書いていません。とても複雑で繊細な私たちの心が、なにか一つのスイッチを押せば、それだけで劇的に変わるなんてことはありえないですから(そもそも、「変わらなきゃいけない」なんて強迫から自由になることこそが、自分の心のためにすべきことの一つだったりします)。

この本を通じて私がみなさんにシェアしたいのは、そうした表層的で安易な情報ではなく、私が精神科医として得た医学的な知見と 児の母として得た日々の経験をもとに した、私たちのギリギリな〝まいにち〞を助けるためのヒントです。ぜひリラックスして、構えずにページをめくってもらえたら嬉しいです。

これまでずっと苦しんできた、あるいはボロボロになっても頑張ってきたあなたの心が、少しずつほぐれていきますように。