ある翻訳家の取り憑かれた日常

第78回

2026/01/18-2026/01/31

2026年3月5日掲載

2026/01/18 日曜日

今日は東京で岸田奈美さんとトークイベント。「岸田奈美のえんがわ」2回目。

ちなみに1回目のゲストは高比良くるまさんだったらしい。高層ビル群の真ん中で「会場どこ?」と思ってうろうろしてたら、見覚えのある女性(しかも着物姿)が歩いてくるじゃないですか。芸能人オーラが出ている。岸田奈美は光っとる! と思ったね。

すぐに声をかけると「お! おおお! 村井さん!」と、いつものご様子。お客様も全員が熱心な岸田ファンで、終始優しく、温かい雰囲気の流れる時間だった。全員が岸田家を応援している。

以前、岸田さんと(岸田さんの)夫(それも住職)がわが家に来てくれたことがあった。岸田さんの夫さん、いい人。私について「あの人には邪気がない!」って、岸田さんに言っていたらしい。正しい。

「私たちは終い組だよね」 
そう言い合った岸田と村井であった。

帰りの新幹線は、周りのおじたちがほぼ全員酔っ払いで面白かった。酔っ払っている人が大量にいるのに、秩序が保たれているAmazing Japan。

2026/01/19 月曜日

イベント翌日の鬱到来。これは、毎度来るのでいつものこと。何か派手なことをすると、必ず落ちるのが中年の悲しい性。大人しく翻訳原稿をチェックする。

犬好き翻訳家代表として選出された私が担当した翻訳書『Advenced Pets』の原稿が出来上がってきている。翻訳部分は物語調でとても読みやすかったし、なにより人間も犬も個性的でよかった。多種多様な犬の種類の記述が勉強になった。 

例えばピットブルにしても、ピットと言う人もいればピットブルと呼ぶ人もあり、種類で言えばアメリカン・ピット・ブル・テリア、アメリカン・スタッフォードシャー・テリア、スタッフォードシャー・ブル・テリア、アメリカン・ブリーなどなど、あるのさ。

本を作っていると、このような知識が徐々に増えてくるのが楽しい。かわいい犬の写真は何枚見ても飽きない。

2026/01/20 火曜日

ベッカム家の長男ブルックリンが家族と決別宣言。理由はわからないけれど、ダメージを喰らう。お金があっても、最高の環境を与えようとも、こうやって思いが通じ合わないことがある。ポッシュの息子だっていうのに! ベッカムがパパだというのに! でも、それが親子というものだろう。すごくよかったなと思うのは、ブルックリンが健康だということ。これがですよ、ドラッグとかアルコールの問題を抱えて親子関係が歪み……となると心配だけれど、元気そうにキッチンに立っているブルックリンの笑顔に「今はダメかもしれないけれど、いつか会えるといいね」と、謎の叔母目線を送っている。

2026/01/21 水曜日

わが家には男性が三名いる。下着類、靴下などはすべてメーカーもカラーも統一している。これは家事をなるべく楽にやりたい私が決めた。嫌だったら、各自購入、それぞれ自分で管理して下さいと言っている。

パンツ(トランクス)は青一色、靴下は黒一色(冬物も夏物も黒。気の毒)。特に靴下はすべて同じメーカー、同色なので(ちなみにサイズも同じでよい。25センチ〜28センチ)、「あ、一足しかない!」という事件が起きない設計だ。パンツも同様で、みんな体格が同じなので、ワンカラー、ワンサイズである。ここに昨日、Calvin Kleinのトランクスが紛れ込んだ。

「誰だ、このCalvin Kleinは!!」と言ったら、次男が「俺だよ」と言った。

オチはありません。

2026/01/22 木曜日

翻訳。ここまで翻訳してよく飽きないもんだな! 自分で自分に言っている。もう限界に近い。作業の合間に、息子たちからたくさん送られてくるLINEに対応している。今日の晩飯は何かな、シャンプー買っといてくれ、俺の部屋のテーブルの上に財布置いてない? などなど、めちゃくちゃ送られてくる。翻訳の流れがプツリと途絶えるのだが、この先何度息子たちとLINEのやりとりをできるかもわからないし、一応、答えておく(マイナス思考)。

2026/01/23 金曜日

Xがとても嫌だ……何か次のSNSはないだろうか。いや、SNSではなくてブログに戻ろうか。あるいはポッドキャストでもやろうか。とにかく、何か別のことをやるべき時期、あるいはすべて辞める時期なのかもしれない。

2026/01/24 土曜日

新潮社Webマガジン考える人に連載している「村井さんちの生活」が話題だそうだ。というのも、義父の「捨てないで!」事件を書いたものだから(衝撃作)。義父に当たりがキツいと書かれた感想もあったのだが、漢キッチンに「お漢」(オカン。つまり漢さんの母)が出たときの漢 a.k.a. GAMIの当たりの強さを知らないからだと思う。YouTubeにあるので見てほしい。

2026/01/25 日曜日

クォン・ナミさんとの往復書簡が書籍化されるため、原稿をチェック。慌ただしくて、自分がどの原稿をいつまでにチェックし、書き、訳せばいいのかわからなくなってきた。とりあえず寝てみるか。

2026/01/26 月曜日

心臓病で倒れる直前まで書いていた料理にまつわる連載が、一冊にまとまった。『家族と私がうれしいごはん』亜紀書房。昔はまあまあ好きだった料理が、いつの間にかものすごくめんどくさくなって、最近ではリュウジばかり信じている私だ。

昔は何よりも「食」が先に来るというかなんというか、街で回転寿司を見れば「うおおおおお、回転寿司!」と興奮し、ジョリーパスタを見れば、「うわー、ジョリーパスタだ〜!」と騒ぎ、マクドがあれば「ビッグマックセット一択だぜ!」となっていたが、今は、もう「無」である。

以前は確かに存在していた、食に対する燃えるような何かが枯れてきている(痩せていない)。それでも、ちゃんと食べないと余計に加齢に抗うことができなくなるので、あるものでささっと作ろう、簡単でおいしいじゃんという趣旨の一冊だ。

学生の頃、まるで聖地でも見るかのように眺めていたケンタッキーフライドチキンも、今は、前を通れば兄が背中を丸めて息子のためにミニバーレルを買う姿が浮かぶようになっている。人生は流れる。人間は変化する。今は「食」というよりも「寝」が大事。こうやって誰もが老いていく。順番に。

2026/01/27 火曜日

寒い。かなり寒い。今月は薬をもらいにいく時間もないほど翻訳作業に明け暮れてしまった。手元にあるのが(現在進行形なのが)、今はなんと5冊だ。写真集、そして絵本があるため、作業の負荷はそこまでとは思うけれど、とにかくMBTIともう一冊のノンフィクションの文字数が、本当に多かった。翻訳にもジャンルはたくさんあるけど、母国語でも好きなジャンルを選択するというのは大事かもしれない。私は日本語でもノンフィクションが一番好きなので、そういう意味では英語もノンフィクションで正解だったのかもしれない。あと一冊訳したら、今年はもう終わりだ(そのはずだ)。あとはしばらく書かない日々を過ごそう。たぶん一週間ぐらいだけど。

2026/01/28 水曜日

MBTIの本が一応最後まで行ったので(本文の後ろの資料がこれまたすごい)、次の一冊に急いで取りかかる。同時進行しているのでゼロからのスタートではないが、MBTI一色になった脳にどのようにして次の一冊が入り込むだろう。MBTI本は今のところ263039文字だった。ここに解説や資料などが入るだろうから、鈍器確定で喜ばしい。

2026/01/29 木曜日

メンタルクリニック。車中で「原宿の今じゃない企画室」に鳥羽和久さんが出演した回を聞いた。めちゃくちゃ面白かった。娘さんが中受をする予定の原宿さん。娘さんの様子を見つつ、奥様の情熱も理解しつつ、本当に必要だろうか、それとも……? と悩む回。それに鳥羽さんがいつものミスター・バッサリマンで答えていたのが大変面白く、こういう番組をもっと聴きたいなと思った。原宿さんの父として、夫としての葛藤のような語りは以前はあまりなかったし、鳥羽さんのような先生側の語りもあまりなかったよなと思う。

中受に関しては、私もずっとずっとモヤモヤ考えている。まあ、考えていることはいろいろあるのだが、私の最大の謎は、私よりも成績がずっと良かった兄がなぜ中受せず、私だけしたのだろうということ。兄は地元公立中学(激荒れ)に進学し、本当に立派なヤンキーに育った。どれぐらい立派だったかというと、金のシャチホコが歩いているくらい立派だったよ。

2026/01/30 金曜日

MBTI本の原稿をチェックしていたら、「チン藻を熊盛り」という文字列が出てきて、「は!?」と思った。当然、前後を読めばすぐにわかるわけで、「沈黙を守り」と書くべきところをなにがバグったのか、チン藻を熊盛りと変換されてそのまま入力していたというわけ。もう何度も原稿には目を通しているというのに、チン藻をスルーしてしまうとはヤキがまわったもんだ。残念の熊盛り。

2026/01/31 土曜日

『兄を持ち運べるサイズに』のフランス語バージョンのタイトルが『Mon grand frère et moi 』(My older brother and I)だと知った。かっこいい! 中野監督作品がフランスでも高評価を得ているとよく聞くのだけれど、なんとなく分かる気がする。強烈なスパイスというか、そんなものが好まれるのかな。

兄ちゃん、フランスの人も見てくれてるんだってよ。

著者プロフィール
村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『ある翻訳家の取り憑かれた日常』(2巻まで刊行、大和書房)、『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。