2025/02/02-2025/02/14
2025/02/02 日曜日
夜中にふと目が覚めて、YouTubeのお悩み相談を見ていた。最近なぜだか頻繁に目にする、とある男性メンター(?)が、毎週何千通と送られてくるお悩みメールからランダムにひとつピックアップして答えるというもの。彼が大人気な理由をいろいろと考えてみた。なにか素晴らしいことを言っているわけでも、質問に的確に答えているわけでもない。むしろ、何を言っているのかわからない。話も長めだ。それなのになぜこんなに、80万人も視聴者がいるのか……。まあ、ハンサムだからかな(あっさり)。世界は思いのほか単純だった。
2025/02/03 月曜日
私の両親は喫茶店を経営していた。喫茶店と言っても少し雰囲気が暗めで、ターンテーブルが2台とレコードが山ほど置いてあったので、いわゆるジャズ喫茶という種類の店だ。
その店にはもちろん一通りの飲み物があったわけだけれど(もちろん夕方になると酒も出た)、昼間に店にやってくる母の友人たちが注文するのが、必ずクリームソーダだった。店の巨大な冷蔵庫には、丸い筒に入った業務用アイスが山ほどあって、それを母がアイスクリームディッシャー(アイスをスクープするツール)で渾身の力を込めて掬っていた。母の友人たちは、いつも楽しそうにクリームソーダを飲んで、お喋りしていた。
母は私が勝手にアイスを食べるのを咎めなかった。だから、学校から家に戻り、ランドセルを必要以上にぶん投げるとその足で店に行き、ただいまも言わずに冷蔵庫の扉を開けていた。業務用アイスクリームの筒を抱えるようにして出して、全身の力を込めてアイスクリームディッシャーで何度もアイスを掬って、ガラスの皿に盛り付け、バナナを切って乗せて、チョコレートソースをぐるぐるにかけて食べていた。ぐるぐるぐるぐる、どこまでもぐるぐるかけていた。夢のようなぐるぐるをしていた。そんなことをしても、誰も叱らなかった。あの店にはそんな自由があった。
2025/02/04 火曜日
今年6月に設定の締め切りが入った。震えている。
『本の雑誌』2025年3月号に「翻訳家はキーボードの夢を見るか」というエッセイを書かせてもらった。本日発売だ。本の雑誌に書かせてもらえるなんて夢のよう。私の母の愛読誌だった。
2025/02/05 水曜日
今日はテオがスクールで一日中留守の日。こういう日に限って仕事は進まない。ということで、ドラマを見つつデスクトップの整理などをしていた。好きなマンガが実写化されるとがっかりすることが多いが、渡邊ダイスケ『外道の歌』の実写化は最高じゃない? 特に亀梨さん!!! 完全にトラだよ。大ファンになった。
2025/02/06 木曜日
いつもの美容院。美容師さんに「健康診断って行かれますか?」と聞かれたので、少し迷って回答Aで答えた(ちなみに回答Bは、7年前に突然倒れて病院に行ったら僧帽弁閉鎖不全症で手術が必要だったので、異変を感じたらすぐ病院へというストーリー展開)。
「健康診断は行きますよ。というのもね、数年前に実兄が突然東北で亡くなりましてね。まだ54歳だったんですが、アパートでばったり倒れていたんですよ。若いっていってもそうやって突然死んでしまうこともあるわけなんです。その時のアパートの片づけと言ったらアナタ、どれだけ大変だったか……」とスラスラ。するとすべて聞いた美容師さんが、「それ、映画になりますわ〜」と言っていたので、少し自信が出てきた。
2025/02/07 金曜日
大阪西九条にあるMoMo Booksで畠山理仁さんとトーク。畠山さんといえば、数々の本を出版し(『黙殺 報じられない “無頼系独立候補” たちの戦い』は、2017年第15回 開高健ノンフィクション賞受賞作であります!!)、『NO 選挙, NO LIFE』というドキュメンタリーに出演されるなど、大人気のジャーナリストでありフリーランスライター!
え、あたしなんかでええんですか……と思いつつ、初めて西九条まで行った……のだが、その前に、ホテルグランヴィア大阪のラウンジで『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』を執筆された歌人で作家の齋藤美衣さんにお会いする機会を得た! なんというスペシャルな一日。すごい作家さんと一日に二人も出会うなんて(この時の私は、すごい作家さんが三人になるとは気づいていなかった)!
齋藤さんの著作を読んで、私は「全てを書くってこういうことだな」と思ったんだけど、実際に齋藤さんにお会いしたら、「たぶん、齋藤さんも書いていないこといっぱいあるんだろうな」と感じ、そう伺ってみたら、やっぱりそうだと聞いて、なぜだか安心した。
齋藤さん、私、担当編集者のKさんと西九条のMoMo Booksへ。私は過去に畠山さんとイベントに出たことがあるんだけど、その時は確かコロナ禍でzoomだったので、実際にお会いするのは初めてだった。私は畠山さんを見て「想像より大柄」と思い、畠山さんは私を見て「想像より小さい」と思ったそうだ。畠山さんには、SNSで候補者と有権者の距離は近くなり、それは良い面もありつつ、様々な影響が出てきていると思うのですが、どのように思われるかと質問したところ、候補者は直接見た方がいいというお答えだった。家族で見に行くのがオススメだそうだ。
トークの中盤でふと気づいたのだが、客席に作家の花房観音さんにそっくりな女性が座っている。あれ、あの方、花房さんでは……と思いつつ、畠山さんとのトークは盛り上がったのであった。そして最後のサイン会のときに、ひとりの女性が私の前にすっと立たれ、それはやはり花房観音さんだった。
花房さんと私は、心臓を患ったことがあり、タダでは転ばない女たちであり、これからも復活を遂げた心臓とともに強く生きる仲間だ。花房さんは顔色がとても良く、お元気だということがすぐにわかった。
とにかく、盛りだくさんの一日。齋藤さん、畠山さん、花房さん。いや〜すごい一日だった。
2025/02/08 土曜日
京都のKaikado Café & Roasteryで集英社のKさんと打ち合わせ。私が来てもいいのかというレベルのおしゃれなカフェだった。というか、建物がとてもいいよね。河原町七条のあたりには久しぶりに来たが、随分、町が変わったなと思った。私は昔、あの超有名な中川木工芸でアルバイトをさせてもらっていたという輝かしい経歴の持ち主なので、工房で頻繁に目にした開化堂の素晴らしい茶筒を、なんとなく懐かしいような思いで眺めつつ、美味しい珈琲を頂いたのであった。30年ぐらい前にあのあたりにうどん屋があったような気がするのだが、気のせいだろうか……。
2025/02/09 日曜日
疲労困憊。イベント、打ち合わせと続いたのもそうだが、翻訳原稿がなかなか進まなくて気が重い。腕が8本欲しい。
2025/02/10 月曜日
サセックス公爵夫人メーガンが出演するドキュメンタリー『With Love, Meghan』を怖いもの見たさで見てしまう。昔からの友人が「メーガン・マークル」と彼女を呼び続けると、イラッとした様子のメーガンは、「私はサセックスよ」と言うあたり、絶対に狙っていると思うのだが、どうか。
ドライフルーツと茶葉を絹の袋に入れ、水をたっぷり注いだガラスの瓶に浮かべて眺めるのが好きらしい。ヒマなんかーい!! という全世界からのツッコミを待っているのだと思う。違いますか?
2025/02/11 火曜日
「入院しているときに無理矢理会いに来られるのが世界一嫌い」な私の、恐ろしく狭い心を刺激するような話をXで読んで朝から怒り心頭になった(注:大好きな友だちが来てくれるのは大歓迎です、もちろん)。
私がなんでこんなことを書いているかというと、これはどこかに一度か二度は書いたことがあるかもしれないが、義父母だ。うちの義父母は、誰かが入院したら必ずお見舞いに行かないと、自分が病気にならんばかりに狼狽える人たちなのだ。相手が面会謝絶でも関係ありません。少なくとも、そういう人たちだった!
その被害を被ったのはもちろん私で、7年前(え、もう7年も経ったの?)の入院時は、本当にしつこく、しつこくお見舞いに行くと言われて辟易した。ナースステーションに頼んで、誰も村井の病室に入ってはならぬという結界を張ってもらったのだ。その時まだペースメーカーつけてて、お腹からコードとか何本も出てて、点滴も何本刺さってるかよくわからないクリスマスツリー状態だったわけ。それ、見たいの? なにそれ性癖?
2025/02/12 水曜日
『すばる』、『ダ・ヴィンチ』、『よみタイ』、『日本経済新聞』の締め切りが重なり、虫の息だった。
2025/02/13 木曜日
お昼前の新幹線に乗って広島へ。広島で新潮社の白川さんと待ち合わせ、呉へ。なんと今日、私は大ファンである信友直子監督とお会いしたのだ!
『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、私が大好きな作品で、今日は呉のホテルで監督と対談だった。いやあ〜、緊張した。そしてなにより緊張したのは、監督の父・良則さんと会ったことだった。監督の自宅にお父さんを訪ねることができたのは、一生の思い出(聖地巡礼)。そして、元気な良則お父さんにお会い出来たことも、これ以上ない喜び。緊張して全然話ができなかったけど、サインをいただきました。もうね、感想なんて「ちょうかわいい」しか出てこないです。
信友監督、良則お父さん、本当にありがとうございました。
2025/02/14 金曜日
広島のホテルで朝食を食べていたら、早く帰るという新潮社白川さんとばったり。白川さん、元気だわ。ほんと、彼女はパワフルだわ。朝食を食べて、部屋に戻り、荷物を発送して、私も家路についた。いやはや、なんて忙しい二週間だったのだろう。いろいろな人に会った。いろいろな場所に行った。いろいろな物を買った。めまぐるしい!
翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。