2025/10/27-2025/11/09
2025/10/27 月曜日
今日は東京で新聞社の取材を受けて、そのまま宮城県多賀城市にやってきた。長い一日。
明日、駅前の図書館併設の施設で、映画『兄を持ち運べるサイズに』公開記念トークショーが行われるからだ。中野量太監督とトークショーか……人生、何が起きるかわからないわね、本当に……。
兄が死んだのはちょうど6年前の今頃の時期で、私は弁膜症の術後1年だったし、義母が認知症と診断されたタイミングだった。いろいろなことが重なっていたのだが、なんとかなるものだし、6年という歳月で多くのものごとが動いたなあと感慨深い。激動ですな。
前乗りして多賀城に来たので、夜はふらりと鮨でも行こうかと思っていたのだけれど、そんな大人なことは、やはりできなかった。たぶん、一生できない。
結局ホテルの部屋でお弁当を食べ、TikTokを見て寝ようと思う。昼間に東京駅で見たガリガリの鳩のことを思い出して悲しくなる。次は餌を持ってこようか。そんなことをしたら、たぶんニュースになる。ネットミームになるだろう。つらい。
2025/10/28 火曜日
グッドモーニング多賀城。
トークショーの開始まで時間があるので、多賀城市内を歩き回った。まずは兄が住んでいた場所に行ってみた。あの日と変わらない風景だった。次に小学校。不審者と思われないように、距離を保ちつつ、ほんの数分だけ校舎を見た。今日は遠足、あるいは社会見学だったようで、バスに乗って生徒たちがどこかへ行っていた。それからスーパーのミラックマツヤ(ミラックとはミラクルラッキーのことらしい)。独特のコメントが書かれた張り紙を堪能する。ここでも不審者だと思われないように、買い物をするフリをしつつ、ああ、ここがオダギリジョーさんが焼そばを手にした場所、ここが私たち家族が久々に揃った場所などなど、思い出しながら見学。ミラックの後は、兄がよく行っていたラーメン店、中華料理店、コンビニなどをぐるぐる歩いて、結局6キロ歩いた。
午後になり、トークショー&取材の時間が近づいてきたので図書館に向かう。担当編集者の田中さんと落ち合い、スタッフのみなさん、中野監督とも再会。
トークショーには、ケーキの店ファソン・ドゥ・ドイさんご夫妻、登場人物である良一君の元担任の先生、市役所で兄を担当してくれていた職員さん、生前の兄と交流のあったみなさんが来てくれていて、私は素直にうれしかった。
2025/10/29 水曜日
多賀城駅にバーンと映画のポスターが貼られていてびっくり。担当編集者田中さんと仙台に向かい、デパ地下で買い物しようぜ! ということになり、笹かまぼこやら、お菓子やらを買う。お腹が空いたので、せっかくだから美味しいものでも食べようとなり、入ったお店が大当たりだった(寿司)。うまかった。
東京駅で田中さんと別れ、私はまっすぐ京都へ。家に辿りついた頃にはすっかり暗くなっていた。
2025/10/30 木曜日
兄の命日。朝からぼんやり。激しく移動したので疲れが残っている。いつものダウナーもスタートしている。
私はいつの間にか兄より年上になり、早く死ぬだろう。(誰よりも早く死ぬのでは)と思われていた私が、一番長生きしているの、ちょっとウケる。
午後、多賀城から発送していた大量の荷物が届いた。笹かまぼこは、うまいっていうのもそうなんだけど、中年にちょうどいい。
2025/10/31 金曜日
出張後にありがちな、謎のダウナーがピーク。こういうときは、大人しく翻訳をする。翻訳作業が進むと、徐々に気持ちがあがってくるのが不思議だ。
2025/11/01 土曜日
工務店の人が来る。もう何年もわが家のチェックをしてくれているので、当然ハリーを憶えていて、あれ、あの黒いでかい犬は? と聞かれ、涙目。
わが家も建ててから20年が経過して、いろいろとガタが出てきた。二階にある風呂場から下の部屋に水が漏れるようになったので(二階に風呂を作ったのには理由がある。それから、実は一階にも風呂がある)、リフォームしようと思っている。今回はユニットバスでいいんじゃない? などと言いつつパンフレットを見ていたら、今は自動で洗浄する機能がついたユニットバスがあるらしいじゃないか!! 打たせ湯みたいな機能もある。この20年でユニットバスも恐ろしく進化していた。
しかし、トイレと同じく、装置は極力シンプルでオーソドックスなものを選ぶのが良いだろう。目新しい機能がつけばつくほど、故障の可能性も高くなる……ということを、この数年で学んだ私だ。この家、総リフォームしたいね。
2025/11/02 日曜日
義父母のご近所さんから電話連絡あり。どうして私のケータイの番号を知っているのかという疑問はあるが、とりあえず対応。「数日前から姿を見かけないし、郵便物が溜まっているので心配している。もしかしたら……」ということだった。もしかしたら……の先はいろいろと想定できる。もしかしたらお部屋の中で転ばれているのかもしれない、もしかしたらお部屋の中でXXXXされているのかもしれない……。そうなったら事件だ。でもだいじょうぶ、妖怪アンテナが24時間作動している私がいるので、そんなことにはなりません。
とにかく、「ありがとうございます。二人とも無事です」と伝えて電話を切る。急いで郵便物の回収に行く(夫が)。グループホームに入居したとはいえ、まだまだ仕事は残っている。
夜、家庭用精米機をヨドバシでポチる。近所の精米所が閉店したため。
2025/11/03 月曜日
久々に、義父母の面会に行く。まずは苦手な義父から。24時間介護施設で暮らし始めてからというもの、大変清潔になった義父。個室はこじんまりとしながらも、ワンルームマンションのような快適さがあって、「私でも暮らせる」とうっかり考えるが、本人は嫌で仕方がない様子だ。夫がいなくなると速攻で「ここから出してくれ」と頼まれた。
次は義母。もうほとんど反応がない。ずいぶん痩せた。義母のいるグループホームは雰囲気がとても良いので安心だ。
2025/11/04 火曜日
ゆうべ久々にデエビゴを飲んだら効きすぎて、一晩中夢を見たうえに(延々と追いかけられる夢)、今日は一日中眠いという恐ろしいことになった。それでも原稿は書かなければならないので、自分を叱咤激励しながら10枚書いた。最後はもう泣きそう。
2025/11/05 水曜日
毎日一冊の勢いで献本が届く。私自身も購入するし、本を出版すると著者用に数冊届くし、増刷するとその都度何冊か必ず届くこともあって、もう、本当に本だらけになってきた。整理したいのだが、その気力も時間もない。これはアウトソースした方がいいのだろうか。双子に頼んでみようか……無視されるに決まっているけれど。
2025/11/06 木曜日
毎日、何を料理したらいいのか本気で悩んでいる。自分自身が、作って、食べるという行為自体を面倒に感じているいま、誰かのために作るなんて重労働でしかない。自分はカップヌードルでいいのに、誰かのためにちゃんと料理することがここまで苦痛に感じる日があるとは。単調な繰り返しが、楽しいことを地獄にしてしまうってある。今日は外食に決定だ。
2025/11/07 金曜日
心臓の定期検診。中年なのでいろいろな数値が上がりつつあるらしい。主治医は、「とりあえず体重減らしましょうか」と言っていた。「痩せれば全部治ります」とも言っていた。言葉に希望がある。「三ヶ月後にもう一度血液検査しましょう」と、若干、挑戦的な眼差しで言われた。勝負は受けて立たねばなるまい。
2025/11/08 土曜日
一生寝ていたい(自分の部屋に閉じこもっていたい)と思うのに、土曜の朝は早起きしてしまう。別にやることもないのにさ! 結局、翻訳をして一日が終わる。夕方、とんでもなく寂しい気持ちになる。フリーランスなのに、土曜が終わると辛くなる。日曜の夕方はもっと辛い。月曜に出勤するわけでもないのに、月曜が来ると思うと悲しいのだ。
2025/11/09 日曜日
目覚めたら、テオが足元で寝ていた。テオがわが家に来てからそろそろ一年ぐらいになるだろうか。転々と居場所を変えてきたテオは、ゴールデンなのにテンションが低めで、人間と距離を取るような一面がある。私との距離は若干近くなっているとは思うけれど、週一で実家(保護されたドッグスクール)に戻るときの、あの熱狂的な喜びをわが家で見ることはない。
犬の幸せはきっと単純で、心から好きな場所があって、好きな人と遊ぶことができることだと思う。そういう意味で、テオは最高に幸せな犬なのではないだろうか。過去がどうであれ、今は多くの人に愛されているのだから。
翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『ある翻訳家の取り憑かれた日常』(2巻まで刊行、大和書房)、『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。

