オレの耳に残るモノ

この連載について

2025年「R-1グランプリ」で、史上最年少優勝を果たした友田オレが紡ぐ初のエッセイ。幅広い歌・音ネタを持つ友田が、人から言われて何か残っちゃう言葉、電車で耳にした奇妙な会話、変な生活音……様々な「耳に残っちゃうモノ」から日常に揺さぶりをかける。

第3回

「大勢の中で名前を呼ばれても聞き取れるアレ」の名は

2025年9月23日掲載

ライブ終わりの打ち上げは楽しい。酒を飲みながら先輩後輩関係なくオープンに会話ができる貴重な時間だ。周りの目を気にせず大声で話せる閉鎖的な空間であれば尚更盛り上がる。私はよく周りから、打ち上げに行かなさそうと言われるが、全然そんなことはない。行く時はマジで行っている。ただそんな私にも、打ち上げで決定的にテンションが下がる瞬間がある。

カクテルパーティー効果というものを皆さんはご存知だろうか。大勢の人がいる場所でそれぞれが同時に話している状況でも、自分が興味のある人の発言や、誰かが呼んだ自分の名前などは、自然と聞き取ることができる現象のことである。私も夏祭りの人混みの中で、遠くから自分の名前を呼ばれた時にこの効果を実感したことがある。おそらく誰でも感じたことのある現象だろう。

しかし、私はこのカクテルパーティー効果を、こと居酒屋やクラブなど飲みの場で体感したことがない。それは酒を飲むと耳が遠くなる自分の体質のせいだ。聞こえる全体の音量が下がってしまうため、そこからさらに相手の声を抽出するのは困難を極める。そういうわけで、たとえ打ち上げで気分が高揚したとしても、どこかのタイミングで人の声が聞き取れなくなってしまい、結果テンションが下がるのである。カクテルパーティー効果をカクテルパーティーで体験することが一生叶わないと思うと、途方もない寂しさを感じる。

回りくどくなったが、今回私は「カクテルパーティー効果」という呼称の妥当性を問いたい。私のように酒に弱く、耳が遠くなったり思考が鈍くなったりする人には、この効果は適切に発揮されないのである。あとそもそも「カクテルパーティー」という名前のイベントをやっている人を私は見たことがない。他にもっとみんなが納得する呼称があるのではないだろうか。西洋的な価値観から脱して新しい呼び方を考えてみよう。

例えば、先ほど例にも挙げた夏祭りから取って「夏祭り効果」というのはどうだろう。日本に住む私たちにとって馴染みのある行事であるため、どういう効果なのかイメージしやすい。ただこの呼び方、どこか恋愛テクみたいな趣きがある。夏祭りの人混みと騒音にかこつけて身を寄せ合い、二人の心理的距離を縮める術、夏祭り効果。やはり他にもっと相応しいのがありそうな気がする。

では「空港呼び出し効果」というのはどうだろうか。飛行機を利用する際、フライト時刻ギリギリに空港に駆け込むと、たまに名前をアナウンスされることがある。そういう時もやはり耳が冴えてはっきりと自分の名前だけは聞き取れる。この呼称であれば間違った解釈は生まれないし良さそうな気もする。ただこれにも問題があって、空港に遅刻して呼び出されるという経験をしたことがない人が一定数いる
ということだ。むしろ経験したことがある人の方が少ないかもしれない。最近人に教えてもらったが、空港に遅刻するというのは社会人として結構まずいミスらしい。最終便に間に合わず泣く泣く空港内に併設されたカプセルホテルに泊まるという経験をしたことがある私としては耳が痛い話だ。とにかく、この呼び方は全員の共感が得られない可能性があるので相応しくないだろう。

他にも「フェス効果」「政治家演説効果」「ファッキンジャップくらい分かるよバカヤロー効果」など色々考えてはみたが、どれも気持ちのいい呼び方は見つからなかった。となると、原点回帰でカクテルパーティーが愛おしくなってくる。確かに響きに違和感はあるが、その違和感がカクテルパーティー効果そのものの不思議なイメージとうまくマッチしている気がする。うん、やはり本家が一番だ!

私はこの一週間無駄な時間を過ごしてしまった。誰のためにもならない余計なことを考え、「何も変えない方がいい」という結論に至ってしまった。それでも、こういう無駄な思考の繰り返しこそが文化を生み出し、私たちの生活に彩りを加える。そう信じています。そういうことにします。

著者プロフィール
友田オレ

ともだ・おれ
2001年福岡県生まれ。早稲田大学お笑い工房LUDO 22期出身。歌とフリップネタを合わせた独特のネタが評判を呼び、単独ライブはチケット即完売。デビュー10ヶ月で「第44回 ABCお笑いグランプリ」決勝に進出、大学在学中には「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」決勝、2023年M-1グランプリ準々決勝、2024年R-1グランプリ準々決勝に進出。2025年「R-1グランプリ」で史上最年少・最短芸歴での優勝を果たした。