2025年「R-1グランプリ」で、史上最年少優勝を果たした友田オレが紡ぐ初のエッセイ。幅広い歌・音ネタを持つ友田が、人から言われて何か残っちゃう言葉、電車で耳にした奇妙な会話、変な生活音……様々な「耳に残っちゃうモノ」から日常に揺さぶりをかける。
前人未踏のモノマネ芸
先日、番組の収録でキンタロー。さんと共演する機会があった。これまでにも何度かご一緒したことはあったが、演者が私とキンタロー。さんだけという現場は今回が初めてだった。
大会の予選会場や他の番組の楽屋で見かけるキンタロー。さんはいつも鏡の前でメイク(変装)をしている。その鋭い眼差しと洗練された手つきは伝統工芸品を作る職人を彷彿とさせ、とても話しかけられる雰囲気ではない。ねぶた祭りの山車のモノマネをする人だから、職人というのはあながち冗談でもないのだ。
そんなわけで、これまで私はキンタロー。さんとちゃんとお話ししたことがなかったのだが、今回の収録は他に演者がおらず、それに合間に待ち時間があったのでお話しすることができた。ちなみに番組の内容は、10分くらいの短いドラマを芸人が演じるというもので、私たちは見たことのないデッカい撮影機材に囲まれていた。話のトピックは主にR-1やTHE Wで、どう戦っていくか、どんなネタにするかといったことをキンタロー。さんは色々と考えられているようだった。確固たる地位がありながら今も戦おうとする姿勢に、す、すげぇ…!となった。
中断していた撮影が再開し、ディレクターさんと3人でセリフを確認する。次のシーンはキンタロー。さんが泣き崩れた後にセリフを言うことになっていたのだが、台本には「嫌いにならないでください!(あっちゃん風に)」と書いてあった。あの名ゼリフを間近で聞ける!と胸が高鳴った。あっちゃん本人のより嬉しいかもしれない。カメラが回り、ディレクターさんが合図を出す。そして緊張の瞬間。
「、、だぁぁゔぁぁだぁあいいい!!!!」
耳を疑った。キンタロー。さんから発されたのは、言葉ではなく爆発音だった。一瞬の間があった後に私は吹き出してしまい、撮影は中断。ディレクターさんも流石に笑いを堪えきれない様子で、「キンタローさん笑、さすがに笑、別パターン笑、もらってもいいですか笑」と言った。
ただ当の本人はというと、不思議そうな表情をしていた。「え?今の違いますか?普通にやりましたけど、、。」本人はあくまでまっすぐセリフを言ったつもりだったのだ。キンタロー。さんの感覚が奇妙過ぎて、私は怖さすら感じた。
今キンタロー。さんは前人未到の領域に入っているのだと思う。元々あっちゃんのモノマネをするために言っていたあっちゃんのセリフを、独自に進化させ新しい芸に昇華しているのだ。習字で言うと崩し字のようなものではないだろうか。本来の形や意味はなぞりつつ、別のスタイルが確立されている状態だ。この「だぁぁゔぁぁだぁあいいい!!!!」は、ですよ。さんのキレッキレの「あーいとぅいまてん」や、ハリウッドザコシショウさんの誇張モノマネにも通ずる深みがあると思う。「テキトー」の枠を超えた、積み重ねた芸歴による熟練の域と言える。
私のネタ中のフレーズに、将来そのような深みを持ちうるものがあるか問うてみた。ないこともないような気がするが、やはり「今」の火力が足りない。「今」大流行していないと意味がないのだ。あっちゃんの「AKBのことは嫌いにならないでください」は当時クラス中で飛び交っていた。それに加えてキンタロー。さんによる忠実なモノマネも流行っていた。そういった当時の「今」の火力があったからこそ、10年以上経った今でもフレーズがみんなの記憶に刷り込まれており、進化した「だぁぁゔぁぁだぁあいいい!!!!」がキラキラ輝くのだ。
あらゆる娯楽の消費スピードが加速している現代において、一世を風靡するような流行語を作り出すことは至難の業だ。また、それから10年以上経っても人々の記憶に残り続けること、そしてその芸を披露できる場があるというのは奇跡に近い。だからこそ、全て実現できたら芸人としてこの上なく名誉なことだと思う。
ともだ・おれ
2001年福岡県生まれ。早稲田大学お笑い工房LUDO 22期出身。歌とフリップネタを合わせた独特のネタが評判を呼び、単独ライブはチケット即完売。デビュー10ヶ月で「第44回 ABCお笑いグランプリ」決勝に進出、大学在学中には「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」決勝、2023年M-1グランプリ準々決勝、2024年R-1グランプリ準々決勝に進出。2025年「R-1グランプリ」で史上最年少・最短芸歴での優勝を果たした。


