オレの耳に残るモノ

この連載について

2025年「R-1グランプリ」で、史上最年少優勝を果たした友田オレが紡ぐ初のエッセイ。幅広い歌・音ネタを持つ友田が、人から言われて何か残っちゃう言葉、電車で耳にした奇妙な会話、変な生活音……様々な「耳に残っちゃうモノ」から日常に揺さぶりをかける。

第5回

言葉を持たぬ子が伝えてくるもの

2025年11月28日掲載

日々の疲れを癒してくれるものはこの世にごまんとあるが、その中で最も治癒能力が高いのは親戚の赤ん坊だと思う。小さきものはみなうつくし、と昔の人も言っているように、赤ん坊の小さな体とそれから繰り出される不安定な動きは見ていて癒される。それに赤ん坊は小さいだけでなく、あらゆる将来性を秘めた生命の輝きを持っている。可愛いだけでなく崇高なのだ。

東京に住んでいる親戚に赤ん坊が生まれたと聞き、私は会いに行けるタイミングを伺っていた。その家族とは決して近い関係ではないのだが、自分と血が繋がっている新生児に挨拶くらいはしておいた方がいいだろうと思った。

結局その子に会えたのは彼女が二歳の頃。二歳と言ってもほとんど言葉は話せず、目線と身振り、あとは意味のない喃語で全てのコミュニケーションを済ませる。あと実際会ってみて分かったのだが、彼女は男性に対して極度に拒絶反応を示す性格であったため、私がドアを開けるとすぐに泣き出してしまった。でも不思議と悲しくはなくて、これが生き物としての本能なんだなという関心が優った。そして何より、彼女の喉を搾り上げるような全力の号泣に私は胸を打たれた。こんなに小さな体からどうやってというような声量で、しかも思ったより低かった。さらによく聞いてみると、おそらく喉やら口やら色んな所が震えているのだろう、複雑で厚みのある音になっていた。

言葉を話せない赤ん坊であっても、今起きている現象への不安や恐怖は泣くことで伝えることができる。そこに関してはむしろ大人の方が苦手な分野だ。マッキーみたく、好きなものは好きと言える気持ちも無論抱きしめてたいが、嫌なものを嫌と言える気持ちも抱きしめるべきだと、彼女の大号泣を見ていて気付かされたのであった。

泣き出してから十分ほど経った頃、彼女の泣き声は収まった。部外者である私を受け入れてくれたようにも見えたし、単にhpゲージがゼロになっただけのようにも見えた。彼女がご飯を食べているところを私はそっと観察した。幼児用の小さくて丸いフォークを右手に握りしめ、それは使わずに左手でブロッコリーを掴む。口いっぱいに白飯を詰めた状態で、次のおにぎりに手を伸ばす。全ての行動が要領を得ていなくて、おぼつかない。こっちを向いた時、顔が少しだけ自分に似ているような気がした。水が入ったストロー付きのボトルを指差したので、口元に持っていくと、すんなり水を飲んでくれた。育児のいいところだけをお試しで味わっている気分で、恥ずかしくなった。

そろそろ仕事の時間だからと私は荷物を持って玄関に向かった。突然立ち上がった私にまた警戒の眼差しを向けてきたが、なぜか彼女もフラフラ立ち上がり、私より先に玄関に向かった。おぉ見送ってくれるのか、短時間でここまで心の距離が縮まったのかと胸が熱くなったが、全然違った。彼女は玄関に座り込み、自分の靴を履き始めた。自分もお出かけできると勘違いしたのだった。別の大人に抱え上げられた彼女は、泣いてないけど泣いてる、みたいな不服そうな声でぐずった。私は靴を履いて最後に彼女に手を振ったが、睨まれてしまった。どこまでいっても私は部外者だった。

私は彼女に会う前、どうせ赤ん坊には話が通じないと色々諦めていたが、実際会ってみると案外やりようがあるんだなと感じた。こちらが言葉を投げかけると、彼女は少し固まって必死にデータを読み込む。読み込みが終わると、喃語で返答してきたり、無視してどこかに行ったりして、面白い。以前何かで読んだが、子育てにおいて、こちらから一方的に話しかけることはすごく大事なことらしい。言葉は話せなくても理解していることがあるからだ。

我々は、リスニング・シャドーイング・スピーキングの工程を踏んで言語を学んでいく。これは人類共通のプログラムである。彼女にもぜひこのプログラムを履修し、日本語学習に励んでいただきたい。大人の言っていることがよく分からない時は、泣いて乗り切れ!

著者プロフィール
友田オレ

ともだ・おれ
2001年福岡県生まれ。早稲田大学お笑い工房LUDO 22期出身。歌とフリップネタを合わせた独特のネタが評判を呼び、単独ライブはチケット即完売。デビュー10ヶ月で「第44回 ABCお笑いグランプリ」決勝に進出、大学在学中には「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」決勝、2023年M-1グランプリ準々決勝、2024年R-1グランプリ準々決勝に進出。2025年「R-1グランプリ」で史上最年少・最短芸歴での優勝を果たした。