ある翻訳家の取り憑かれた日常

第40回

2024/08/05-2024/08/18

2024年8月29日掲載

2024/08/05 月曜日

共同通信さん取材日。めちゃくちゃ暑かった本日、はるばる遠方から取材に来てくれた。とても感じの良い方で楽しかった。

夕方になって一気に疲れが出て、翻訳をやろうにもなかなか進まないので、仕方がない(?)と情報収集をスタート。最近追っかけているジプシー・ローズ・ブランチャードの母親ディーディー・ローズの父(ジプシーの祖父)は、ジプシー当人から「母方の祖父から性的虐待を受けていた」と非難されているのだが、当人は「触ってきたのはジプシーの方だ」と証言している。すごい切り返しだなと思う。

彼の妻(ディーディーの継母)は、以前ディーディーに除草剤で殺害されそうになったと証言。二人は揃って、ディーディーの骨はトイレに流せばよかったと笑いながら言っていたんだが、この一家の闇みたいなものはずっと以前から続いていたと確信。

2024/08/06 火曜日

熱中症警戒アラート発令。たしかに暑い。

犯罪ドキュメンタリー『アメリカン・マーダー: 一家殺害事件の実録』の犯人クリス・ワッツ(若い女性と浮気した末、妊娠中の妻と娘二人を殺害、司法取引の後終身刑(5回分)で服役中)がコロラドの刑務所からウィスコンシンの刑務所に移送されたというニュースを今頃見つけた。彼のように狙われやすい受刑者は独房だと思うのだが、確かにクリスも一日23時間独房にいたらしい。そして残りわずか1時間で狙われ、殴られたということなんだけど、命があったのが驚きだ。

クリス・ワッツは、まさに羊の皮を被った狼で、温厚そうなルックスからは想像出来ないほど凶悪な人物だと思うのだが、Netflixで今現在もドキュメンタリーは放映中。

2024/08/07 水曜日

『射精責任』(”Ejaculate Responsibly : The Conversation We Need to Have about Men and Contraception”、太田出版)の著者ガブリエル・ブレアさんがクーリエ・ジャポンに登場。彼女の著書を訳し始める前に、いつものように著者の映像などを確認したのだが、ブレアさんほど書籍のイメージと実際のお人柄(というかそのライフスタイル)の組み合わせが予想外だった方はあまりいないかもしれない。彼女がモルモン教徒だということも含めて、そう言える。

Instagramのアカウントで紹介されている彼女と家族のフランスでの生活は、一見大変穏やかでおしゃれ。射精という文字が入り込む余地がないように見えるのだが、しかし実生活の彼女は射精責任を訴えて精力的に講演を行っているのだから、その組み合わせの大胆さに驚くばかり。

モルモン教徒の妻で最近話題になっているのはユタ州在住でBallerina Farmを夫と営むハンナ・ニールマン。将来を有望視されていたバレリーナだった彼女は、航空会社社長の息子であるダニエルに見初められ、バレリーナになるという夢を諦め結婚。八人の子どもを育てながら、日々、パンを焼き、野菜を収穫し……いわゆる、大草原の小さな家的暮らしをSNSで発信している、それはもう大変なインフルエンサーだ。私の中ではジプシー・ローズ・ブランチャードが圧勝の追いかけたい人だが、ハンナもとても気になっている。ただならぬ雰囲気を醸し出しているという意味ではハンナが勝利かもしれないが。

2024/08/08 木曜日

わが家の後期高齢者介護は実質、ケアマネさんとの打ち合わせがほとんどで、私たちがやっていることは通院介助とか買い物ぐらいのものなのだが、ここに来て介護計画の変更が頻繁になってきて、私自身が把握できなくなってきている。私が把握できないということは、当然義父母も把握できないわけで、毎日がスリリングな展開。把握ができないほど介護計画が変わるというのは、それだけ義父母の介護度が日々上がっているということだ。

それにしてもケアマネさんの仕事っていうのは複雑だし、大変だと思う。感謝ばかり。

2024/08/09 金曜日

本日は、東京の今野書店で酒井順子さんの出版記念イベントに参加! 京都駅はかなりの混雑で、おまけに地震があったために新幹線に若干の遅れが出ており、予定より少し前倒しして東京に向かった。品川駅に降り、駅前のホテルにチェックイン。担当編集者さんが迎えにきてくれ、西荻窪駅に向かう。

酒井さんとは久しぶりにお会いした。とても素敵な方だ。

イベントは無事終了(終盤で緊急地震速報が鳴って驚いた)。イベント終了直後に、目の前にこの日記担当編集者の鈴木さんが座っていることに気づいてビックリ!! 鈴木さん、来てくれていたんだと声が出た。楽しいことがたくさんあった日。

2024/08/10 土曜日

今日はCCCメディアハウスで行われた翻訳者のためのイベントに登壇。Mr.世界同時発売の井口耕二さんのお相手を務めさせて頂いた。会場には知っている翻訳家のみなさんが来てくれたし、校正者の牟田都子さんも来てくれていた。オンラインで視聴して下さったみなさんも多かったらしく、ありがたい限り。

私が話したのは翻訳についてというよりは、エッセイについて。翻訳の方は、井口さんの素晴らしい講演があったため、私は安心してエッセイについて主に語ることができた。

とにかく、近道はないと私は思っている。書いて、書いて、書きまくること。そして推敲すること。時間ギリギリまで、何度でも推敲を繰り返すことを自分には課している。

2024/08/11 日曜日

朝早い新幹線で品川から京都に戻る。
京都はすごい混雑で、そそくさと滋賀へ急いだ。家に戻ると家族全員がいて、いつもと変わらぬわが家だった。

2024/08/12 月曜日

生配信を時折見ている最強ちゃんが海外でも話題に。インターネットのすごさを見た思い。ギフトがいろいろと届いたみたいでよかったね、最強ちゃん。

2024/08/13 火曜日

最近は生配信に夢中で、夜になると平均一時間程度は見ていると思う。何が楽しいのか自分でもわからないのだが、とにかく夜な夜な見ている。夜、9時にはそそくさと寝ている部屋に入ってしまう。部屋を真っ暗にして、クーラーを効かせて、iPad miniのスイッチを入れる。そこからは延々と続く楽しい時間だ。しばらく見て、眠くなったら寝てしまう。こういうどうでもいい時間を、いつまでも持てますように。

2024/08/14 水曜日

翻訳のスピードがあがらない。東京に行ったりして、生活のリズムが若干変わったこともあるのだが、やはり疲れも溜まっているのだろう。書かなくちゃいけない原稿も徐々に溜まってきた。長い原稿を書いているのだけれど、書いては休み、書いては休み……数年前の私はこんなていたらくではなかった。なぜこんなにも書けなくなったのだろう。私はどこで文字数を消費しているのか。……まさか、この日記では……?

2024/08/15 木曜日

今日は読まねばならない本があり、一日中、読書。『万博と殺人鬼』(早川書房)。翻訳ノンフィクション、そして殺人鬼ということで、大好きなジャンル。登場人物が多いし、とにかく難しい一冊なんだが、それが楽しくて仕方がない。今日中に終わらせないとスケジュール的にまずいのだけれど、読み終わるとは思えない。

2024/08/16 金曜日

お買い物が止まらない。COG THE BIG SMOKEが冬用のコートを売り始めたので、めっちゃ暑いというのにネットで物色。狙いを定めておいた。売り切れないように予約しておこう。とにかく、先月、今月とインターネットショッピングが捗っている。つまり、仕事の進みがあまりよくない。

『万博と殺人鬼』、読破。月刊誌『すばる』の連載のための原稿を書いた。

疲れた……。

2024/08/17 土曜日

最寄り駅前にあるパン屋さんの塩レーズンロールというパンが激ウマなんだよ!

連日買い占める勢いで買ってしまうのだが、最近はインバウンドの影響で海外からのお客さんも多く、店内が大変賑わうようになり、入店も少し困難になってきた。地元が潤うのは良いことだ。私が住んでいる地域はパン激戦区なので、パン屋さんはいくらでもある。お気に入りは何店舗もあるので、そこをぐるぐる回っている。

2024/08/18 日曜日

二歳の保護犬、ゴールデン・レトリバーのテオを迎え入れることにした。ハリーが長年お世話になっていたドッグスクールのトレーナーさんから、ハリーの死後しばらくしてお話を頂いた。とりあえず預かり、長い紆余曲折の末、テオがとうとうやってきた。いろいろな迷いもあったのだけど……。

ハリーより一回り大きいけれど、体重は15キロぐらいは軽いと思う(今現在テオは35キロ程度ある)。とにかく大柄なゴールデンで、顔も足も本当に大きい。相当やんちゃで、ダイニングチェアの足はとにかく全部やられた。子犬しぐさが多発。

ハリーは戻ってこない。でもテオがやってきた。ハリーが毛皮を間違えて前倒しで戻っていた可能性も捨てきれず、手探りながら、ハードな犬生を今まで送って来たというテオと暮らしてみる。パピーの頃の写真などないので、どんな子犬だったのかなと考えたりもする(今もまだ子犬だけど)。

テオの顔を見ながらハリーを想う。テオが気の毒だが、しばらくは仕方がない。息子たちも最初は躊躇していたが、今はすっかりテオが好きになったようだ。

著者プロフィール
村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。