2024/10/15-2024/10/27
2024/10/15 火曜日
宮城県多賀城市は私の兄が2019年に亡くなった場所。隣の塩釜市の警察署から突然電話があって、兄が死んだことを告げられ、びびりまくった私が東北まで兄を迎えに行き、荼毘に付したあと、住んでいたアパートを引き払う……というありえない大プロジェクトの顛末を書いたのは『兄の終い』(CCCメディアハウス)なのだが、今日、多賀城市在住のHさんという方からメールが届いた。
兄とは何度か話をしたことがあって、飲みに行く約束もしていたという(兄の酔った姿を思い出して震え)。兄が多賀城に行ってすぐに働いた会社の社長さんもお知り合いだということ(土下座したい気持ち)。そしてなんと、兄が警備員の仕事をしながら郵便配達のアルバイトをしていたことを教えてくれた。
兄が写った写真も何枚か送って下さった。もし多賀城にお越しの際は、お声かけくださいということだった。多賀城の人というのは、なぜこんなにも優しいのだろう。私が多賀城滞在最終日に立ち寄ったケーキのお店「ファソン・ドゥ・ドイ」さんとは、今でも時折メッセージを送り合う。兄が残してくれた縁だろうか。多賀城が私の第二の故郷になりつつあるのは不思議なことです。ありがとうな、兄ちゃん。
2024/10/16 水曜日
ずっと前に、一度お仕事をしたきりだった編集者から連絡が入った。彼女のことはずっと気になっていた。というのも、彼女と一緒に作った『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13ヵ月』(駒草出版)、私が心臓病で倒れたために、安達眞弓さんとの共訳になったという経緯があった。もちろん、安達さんという強い味方を得て、本の仕上がりは私が一人で訳すよりもずっとずっと素晴らしいものになったが(安達さんが私の文体を完全コピーして下さったような翻訳で、息を飲んだよアタシ)、彼女にとってはいろいろと作業が増えたのだろうと心配だった。
私が入院していたこともあって、彼女としては連絡も取りにくいっていう状況もあっただろうしな……と、折に触れ、考えていた。先日東京で安達さんと会ったときにも彼女の話になっていた。別の出版社に移ったようなことを聞いたのだが、今日、本人からメールがあって、とある企業のウェブサイトの編集をしていることがわかった。何か企画をやりましょうということになり、なんだかうれしかった。
2024/10/17 木曜日
『犬がいるから』が筑摩書房より文庫化されることになっていて、その作業を編集者の許士さんと行っている。あとがきを書かなければならないのに、辛くて書けない。ハリーの死については後悔があまりにも多く、それを思うと本当に苦しい。ハリーの写真は山ほどお渡ししているし、デザインに長い時間をかけてくださっているので、たぶん、かなりかわいい一冊になると想像している。
ハリーよ、なぜ死んでしまったのだ。テオのリードを手にして歩きながら、時折考える。ハリーとテオを比べないでというDMが来ることがたまーにある。比べないなんて無理です。優劣をつけないで、ならわかる。被毛の色、性格、体の大きさ、声の大きさ。比べるところはいくらでもある。当然ながら犬も様々で、興味深い存在なのだ。
2024/10/18 金曜日
「キノコ村 産地直送便」というショッピングサイトがある。信光工業株式会社キノコ村事業部が開発した商品を売っている。「信州・菅平高原のふもと、すざかの山里にあるキノコ村より、とれたてのおいしさを直送でお届けします」と、ほんわかしたムードのサイトに書いてある。ここで売っている「ぴんころ味えのき」という商品が本当に美味しい。私はえのきが大好きなえのきソムリエを自認しているのだが、ベストえのきだと思う。シャキシャキで、甘すぎない。「野生種えのきなめたけ」も美味しかった。「だしもおいしい乾燥キノコミックス」は味噌汁などに入れると美味。
新米が出てきたので、炊きたてのごはんに「ぴんころ味えのき」を乗っけて食べてみた。これがちょうどいい、じゃなくて、これが最高!
2024/10/19 土曜日
私が大好きな映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』、『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』の信友直子監督からメールを頂く! キャーーーッ! 気持ちの悪いファンを続けてきてよかったぁ!
私が信友監督と監督のお父さま、お母さま、そして作品の大ファンだと知った新潮社の(信友監督)担当編集者が繋いでくれたご縁だ。『義父母の介護』(新潮社)も読んで下さったそうでありがたい。来月の良則お父さん生誕104周年記念生配信も必ずや視聴しなければならない。
そして今日、素晴らしいタイミングで文藝春秋から信友監督の新刊『あの世でも仲良う暮らそうや』が届いた。良則お父さんの写真集が良い。どうしても弊義父と比べてしまう。比べるでしょ、そりゃ。
2024/10/20 日曜日
月刊誌『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)で『4人のブックウォッチャー』という書評コーナーを担当しているが、そこで紹介するのは2冊。そして月刊誌「すばる」で「湖畔のブッククラブ」を担当していて、こちらは一冊。月に必ず3冊読むというのはなかなかスケジュール的に厳しいものがあるので、最近は水曜日を本読みの日と決めて、AMは読書、PMは翻訳と読書という感じで、あえて読書の時間を作っている。これでうまくいくかというと、ま、そう簡単にはいかないね。本は自分が読みたいと思うタイミングで読むのが一番だから。そして、ものすごい勢いで本が増え始めた。去年、かなりの冊数を古書として売ったが(もちろん泣く泣く手放している。売るのはkindleで買い直したものが多い)、もうすっかり元の状態に戻ったような気がする。
2024/10/21 月曜日
太田出版の藤澤さんから、パリス・ヒルトン自伝の初校ゲラが届く。藤澤さんとは、超話題になった(炎上したと言ってもいい)『射精責任』以来のタッグ。パリスの自伝は、訳しながらも驚きの連続だった。あっけらかんと生きている、超お金持ちのパーティーガールだと思っていたら大間違いで、改めて、誰の人生も順風満帆というわけではないのだと思い知らされる。
しかしそれにしても、パリスのトラウマは深刻なのではないだろうか。来年初旬発売予定。
藤澤さんとは実はもう一冊仕事をしている。ブリトニー・スピアーズの自伝だ。笑顔の最高にかわいいアメリカン・スイートハートだったはずのブリトニーの筆致は大変重い。彼女がミッキーマウスクラブからハリウッドに進出していく過程は、スターになるべくしてなった人としか思えないし、同時にあまりにも輝くスターは周囲の明るさを奪うのかもしれないと思った。本人は悪くないというのにね。悲しいことです。今月中にはなんとか作業を終えたい一冊。がんばるしかない。できる、ワイなら。
2024/10/22 火曜日
ぼんやりと考えていた。
兄ちゃん、郵便配達のアルバイトもやってたのか。隙間時間を見つけて頑張っていたのだなと思った。狭心症で糖尿病でアルコール依存症で、そのうえ鬱で。よくがんばったよ。
2024/10/23 水曜日
コメダリアンの正しい行いとして、コメダに行った。ついたての向こうに座っていたギラギラおじさんと若者。おじさんの方が若者に、「一生、誰かの下で働きたいと思うか?」と問うた。きっと若者は心のなかで、はぁ~おっさん、うぜ~と思っていただろうが、「いや、ちょっと、わかんないっす……」みたいに答えてた。
「人生は自分の手で勝ち取らねえとな! 暇な主婦じゃあるまいし、昼間っから喫茶店で本とか読んでたら、人生終わるで」と言っていた。思わず言っちゃったんだと思う。視界に入ったものをそのままアウトプットできる人なんだと思う。
ねえ、あたしのこと? 暇じゃないよ、これも仕事ですってば。
2024/10/24 木曜日
夫が、「そろそろ実家行ってあげてよ」と言い出した。というのも、私が夫の実家へ行くことを拒否しているからだ。なぜ拒否しているかというと、義父による数々の介護サービスへの妨害工作が面倒くさくて、もう嫌になってしまったから。長男と次男に、「あんたたち、行ってあげてくれない?」と聞いたら、長男は「えー、面倒くさい」、次男は「バイト忙しい」と言っていた。結局、夫が一人で通っている。それでいいと思う。そういう局面なのだと思う。
2024/10/25 金曜日
義父がまた問題を起こし、ケアマネさんに頼みこまれて実家に行って、話をしてきた。
人生の最後に、こんなに不幸せな気持ちなるとは
こんなに惨めな人生になるとは夢にも思わなかった
こんなに侘しいのなら、もう生きていたくない
どうにかしてくれ
助けてくれ
などなど言われて、途中から謎の精神状態になり、「この人はドナルド・トランプ、この人はドナルド・トランプ、この人はドナルド・トランプ」と心の中で唱え続けてなんとか耐えることができました。
2024/10/26 土曜日
『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』(齊藤美衣、医学書院)を読み始めた。シンプルで迫力のある文章。かなり削ぎ落とした(のかな?)印象のある文章で、読ませる。内容はとても重いので、こんな書き方はどうかと思うけれども、すごくかっこいいなと思った。医学書院の、シリーズ ケアをひらくは、どれを読んでも素晴らしいものばかり。
2024/10/27 日曜日
『母親になって後悔してる、といえたなら』(髙橋歩唯・依田真由美、新潮社)を読んだ。オルナ・ドーナト著『母親になって後悔してる』もよかったが、本作は登場してくる母親たちがぐっと身近で、その苦しみがよりいっそう迫ってくる。
母親になって後悔しているという気持ちと、子どもを愛しているという気持ちが、一人の母親の心に同居していることは決して悪いことではないのに(私自身も悪いことじゃないと思う)、「母親になって後悔してる」と想像することすら許さない社会の圧とは何か? ということを追った一冊。読後感が良かったし、おすすめしたい一冊だったので、感想を書きつつ引用してたら、あっさりツイートが燃えた。めちゃくちゃ燃えまくって、最終的に死ねと書かれていました。
死にません!
翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。