2025/03/01-2025/03/15
2025/03/01 土曜日
夜中にTikTokを見ていたら、若い女性が母親を病院に見舞いに行った際に感じた違和感を話していた。若くて優秀そうな医師や看護師が、年寄りの看病をするために一生懸命働いているのは、絶対におかしい! 病院を老人ホームにするのはやめて、延命治療も一切やめよう! と訴えていた。ちなみに、その彼女の母親は私より若かった。
インターネットを普通に楽しむために、私はもう年を取り過ぎたのかもしれない……。
2025/03/02 日曜日
特になにもやることがない日。日曜日ぐらい完全に休みたい……と思いつつ、ちょっと道の駅でも行ってくるかと思って、動物と荷物を大量に乗せることができ、燃費も最高に良いが、特にかっこよくもない自慢のマイカーを走らせた(実用性を重視)。どうせ行くなら遠い場所と思い、一時間程度走った場所にある道の駅で、妙に安くて立派な野菜を買い、ついでに米を買い、スイーツを買い、地酒を買い、酒粕を買い、ヒトミワイナリーのワインまで買って家に戻った。こんな日常が一番好きだ。ソロ活最高。
妙に安くて立派な野菜を洗い、茹でるものは茹で、焼いて美味しいものはストーブの上に置いたフライパンで焼いた。一番美味しかったのは、四つ割りにして、バターで時間をかけてじっくり焼いて、塩を振っただけの大きなニンジンだった。
春先の野菜は、茹でたり焼くだけで美味しいから最高だ。ストーブの上でほったらかしで調理できるのもいい。うっかり丁寧な暮らし風のことを書いてしまったが、私のように荒々しい暮らしをしている女も今どき珍しい。
2025/03/03 月曜日
卒業式。詳細は書かない。とてもよくがんばりました(私が)。そして今日はひな祭りなので、インターネットで爆買い。トレンチコートをあっさりとポチった。何も感じなかった。いいのか、こんな生活をしていて。
2025/03/04 火曜日
昨日の卒業式が終わったあと、先生と立ち話をしていたら、先生が急に、「卒業式には言おうと思っていたんですが、実は学生時代に『ゼロからトースターを作ってみた結果』を読みました」と言ってくれた。
ええっとびっくりして、いろいろな考えが頭のなかを駆け巡った。先生、今まで言わないでいてくれたんですね、なんだか申し訳ない、ありがとう、それにしても『ゼロからトースターを作ってみた結果』は学生さんに人気があるなあ、これからもずっと重版してくれ……と、最後はいつもの嫌らしい考えに辿りつくのであった。
フリーランスである我々翻訳家とか作家は、定期的な収入がないために、こうやって「読んでますよ!」とか言って下さることで、ボロボロのハートにバンドエイドを貼るようにして暮らしているはずなので、励みになるのです。
先生、ありがとうございました。
2025/03/05 水曜日
朝からミーティング。今月の15日に東京で行われるカータンとのイベントの打ち合わせ。カータンとは二年ぶり二回目になる。お互いにまだ、完全に介護を卒業した状態ではないため、話すことは山ほどある。カータンはトークがとても上手なので楽しみだ。
わが家の場合、介護も佳境オブ佳境で、いつ何時、すべてが崩壊してもおかしくない程度に切羽詰まっている。義父、義母、どちらかが倒れれば、家での暮らしは難しくなっていくだろう。難しくなったとき、「ハイ、特養で!」と言えないところが介護の難しさだ。その結論では二人の生活に与えるインパクトが大きすぎて、子世代が簡単に決めていいのかと迷う。と、同時に、自分たちの生活だって守らなくてはならないと考えたりもする。あっという間に目減りする口座の残高も気になる。つまり、介護生活が長くなれば長くなるほど、決断力は鈍り、判断力も低下する。長くなればなるほど、すべての状況を我が身に置き換えて、怯むのが原因だろう。
2025/03/06 木曜日
義母、通院日。待ち時間が少なくて助かったが、午後の1時からの診察というのは、地味に辛いのであった。終わったらもう、なにもできないもの。
待合室で隣りに座る義母は、とても大人しい。不気味なほど大人しい。待合室で、年老いた母を叱責する高齢の息子がおり、それを見た義母が「なんであんなに怒っているの?」と怯えていた。見るに見かねた看護師さんたちが数名様子を見に来ていたが、実の子の介護の難しさを間近で見たようだった。あれも愛の裏返しなのかと思うと辛い。義母がとても気にするので、「バチがあたるよ、あの人」と、笑わせようと思って言ったら、義母じゃなくて、私の後ろのベンチに座っている人が笑っていた。
2025/03/07 金曜日
義父通院日。夫が対応。午後に、げっそりとやつれて戻って来た。父と息子の関係性みたいなものに思いを馳せるが、同時に面白くて笑ってしまった。実の父との時間って、そんなに苦しいものなのだろうか。私は実の父を十代で亡くしているため、私のなかには父のきらきらとした思い出しか残っておらず(相当美化されているはず)、父との時間が苦しいということの理解があまりできない。いま、生きていたら八十代になっていたであろう父を、病院に連れて行くなんて、素敵でしかないと思う。勘違いなのはわかっているが、十代で父を失った娘なんて、みな、そんなものだろう(違うかな)。
しかし、相手が義父だと冷静に考えてみれば、それは大変きついだろうなあとしみじみ思う。おんぶおばけみたいだもん。
2025/03/08 土曜日
『新訳 金瓶梅』 全3巻セットを、うおりゃああという勢いでポチる。ポチらないという選択肢はなかった。到着が本当に楽しみだ。買うね。断然買っちゃいますね。どんと来い。
https://choeisha.stores.jp/items/67ca65bb4e941ccb314fba65
ここのところしばらく、買い物ラッシュが続いている。マルニ竹内商店のカニ(カニが獲れたら電話がかかってくる。翌日に冷蔵便で激ウマカニを届けてくれる。ただし、電話に出ることができないアンラッキーな人は、次の順番まで待たねばならないシステム)について、よく聞かれるようになったが(どうやって注文したらいいの?)、竹内さんのホームページに注文の仕方は掲載されている。
2025/03/09 日曜日
『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』栗田シメイ、一気読み。これだからノンフィクションはやめられない。1200日にも及ぶ戦いがすごい。いいなあ、こういうルポは、本当に素晴らしいと思う。私がマンションの住人だったら、簡単に諦めてしまいそうだ。
最近は月に5冊ぐらいは読む感じのペースで本を読むようになった。ほとんど仕事のためだ(書評を書いているから)。そろそろマンガや小説も読みたい気分だ。いや、それより書くのが先だろうと思っている編集者さんの顔が浮かんできた。申し訳ありませんでした。
2025/03/10 月曜日
地獄の締め切り日。ダ・ヴィンチと、よみタイだ。
ヨレヨレになってどうにか乗り越えた……と書きたいところだが、書けたのは一本だった。一日に二本は大変つらいものがあるが、こればかりは自己管理能力が低い私の責任であります。
2025/03/11 火曜日
すばるの「湖畔のブッククラブ」締め切り。「湖畔のブッククラブ」は、毎月緊張する。翻訳ものノンフィクションという縛りがあるのがその理由だし、文芸誌というのがもう一つの理由。翻訳でノンフィクションといったら、たいがいが鈍器本で、長く、難しい。そして事件物が多くなるので、内容は複雑。事件物の知識ばかりが増えてくる。でも、その増えてしまった知識を二次利用、三次利用することで、一粒で二度も三度も美味しいという状況を作ることはできるはずなのだ。
できる、俺なら。
2025/03/12 水曜日
諸手続のため、朝一番でお客さんあり。
ハリーの肖像画(まだ生きている頃、アメリカのサイトにふざけて注文したもの)を見て、明らかに怯えていた。おかしな家にいるおかしなおばさんに対峙していることにふと気づき、心底怖くなったのだろう。気の毒なことをしてしまった。いえね、あの犬は一年前に亡くなりましたよ、ははは……。泣きたい。
今日は、とある一冊のために書いている短編の締め切り日でもあった。締め切りばかりの人生だ。しかし、フィクションの短編を書くのは初めてでは……? たぶん、初めてだと思う。いまのところツッコミどころ満載だと思うが、編集者さんに送ってみる。
送ってから、大急ぎで美容室。今月中盤から後半は怒濤のイベントラッシュだから、髪をそれなりに整えておく。
美容師さんに、「私、髪の毛、変わってきました?」と聞いたら、「え? 減ったかという意味だったら、今でもかなり髪の量は多いほうだと思いますよ」と言われた。なぜか胸に熱いものがこみ上げてくる。
2025/03/13 木曜日
依頼されていた帯のコメントを書くために、本を読み直す一日。慌ただしく日々が過ぎていく。夕飯を作るのが面倒で、それでも何か作らなければならない日に作るメニュー、親子丼でなんとか回避。3月が飛ぶように過ぎて行く。
2025/03/14 金曜日
明日は東京。翻訳をして、原稿を書いて、部屋の片付けをして、荷造りをした。移動にも慣れてきた。今回宿泊するホテルは東京駅真ん前の素敵なホテルなので、非常に楽しみにしている。いやあ、それにしてもバタバタな日々だな。ああ、バタバタだと言いながら、ふと、ハリーを失った寂しさがナイフみたいにグサッと胸を刺してくる。
まだ一年。もう、一年。
翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。
主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術
』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。
主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。