
まだまだ大人になれません
大和書房
2026年1月24日(土)、小説家・高瀬隼子さんと文筆家ひらりささんのトークイベント「ちゃんとした大人になれると思ってた?」が開催されました(主催・今野書店)。
ひらりささんが昨年刊行したエッセイ集『まだまだ大人になれません』(大和書房)をキーに、ちゃんとした大人になれると「思っていた」派の高瀬さんと、「思っていなかった」派のひらりささんが語り合った内容とは……? 同イベントのダイジェストをだいわlogでもお届けします。

■いいこだったから、「ちゃんとした大人」になれると思っていた
ひらりささんが高瀬さんの芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)の書評を書いたのをきっかけに交流が生まれた二人。エッセイ集『まだまだ大人になれません』にも、同作の主人公・二谷から着想を得たエッセイが収録されています。
「二谷の食生活は現代人の生活様式を反映したものとして共感しながら読んだけれど、よくよく考えると、二谷の食生活ハビトゥスを生み出した、家庭環境についても気になってくる。我が家の場合、母のごはんはとてもおいしかったけれど、それを食べるとき、パートに育児にと忙しい、母の時間を消費している罪悪感がなんとなく付き纏っていた。だからだろうか、「料理に時間をかけること」に抵抗感があり、時短技術を身につける熱意もないまま、外食や惣菜に頼るようになってしまった。」
(エッセイ集収録「総理大臣になって中華せいろを配りたい」より)
小説でたびたび「社会で求められる役割に順応できる人/そうでない人」の間に生まれる摩擦を描いている高瀬さん。高瀬さん自身は、子供の頃から「すごくいいこ」で生きてきたため、自分を特別な努力をしなくても、年齢を重ねれば自然と“ちゃんとした大人”になれると思っていたのだとか。
そんな高瀬さんでも、ひらりささんの本を読んで「仕事もしっかりして、本も出している、要素だけ見たらすごく“大人”なひらりささんが、それでも『大人になれない』と悩んでいること自体に励まされた」という感想を抱いたとのこと。
「もともと生活を書くエッセイを構想するなかで、“ひとり”や“幸せ”といったテーマも頭にあったものの、それだけでは収まりきらない、もう少しカオスな感じがあって。最終的に、いまの自分が一番引っかかっている言葉として“大人”というテーマに辿り着きました。」(ひらりさ)
「たしかに一つ一つのエッセイが、最初から“大人”を正面に据えているわけではない。でも、まとまって読むことで、輪郭が浮かび上がってきますね。」(高瀬)
■ 人生で「大人になった」と感じた瞬間
トークは本の内容から発展したテーマに沿って展開します。まず語り合ったのは、「人生で大人になったと感じた瞬間」。
ひらりささんは、一人暮らしを始めた28歳が「大人」になったと思えた瞬間だったと話します。一方、高瀬さんは18歳で大学進学と同時に一人暮らしを始めていますが、そのときは自分の周囲も含めて一人暮らしをしていたので、特に“大人になった”という実感はなかったそうです。
「大人の実感は30代になってから湧き始めたかもしれません。今37歳なんですけど、30歳を越えた頃に、20代の若い子たちが会社に入ってきて。その人たちを『守らなきゃ』という気持ちが芽生えたとき、大人としての意識が生まれた気がします。セクハラやパワハラのことももちろんだし、単純な業務ミスが起きたとしても、それは私の責任だ、若者を守らなくては、と思った瞬間に『ああ、大人になったんだな』と感じました」(高瀬)
そんな高瀬さんの言葉に呼応したひらりささんも、本書のきっかけとなった、職場での思い出を明かします。
「前の職場では文化祭みたいに同僚と働いていたんですけど、留学から戻って33歳で今の会社に入った時に、依然として働き方は文化祭のようなベンチャーなのに、周りが自分より若くて。自分だけ文化祭の準備を見守る先生みたいになっていた。横並びのつもりだったのに変わっていた! 若い子たちに快く働いて欲しい気持ちはありつつもうまくいかなくて、大人になれていないかもという焦りが生まれたのはあります」(ひらりさ)
自由や自立よりも先に、“誰かを引き受ける感覚”こそが、大人になる実感と結びついていることが語られました。
■ 「やられたらやり返す」!?
続いて話題となったのが、「自分の大人げないところ」。
ひらりささんは「好き嫌いを表に出してしまうところ」「360度、友好的にふるまえないところ」を自身の大人げなさとして語りました。
それに対して高瀬さんは「やられたらやり返すところ」と発表し、会場から驚きの声がわきました。
「電車に乗った時に、冬ってみんな厚着しているから、周りにぶつからないように配慮して座ると思うんです。でも、先に座っている人たちが縮こまって座っているのに、肩を広げて座ってきた人がいて。そういう時広げ返しちゃいます。反対側の人はきゅっとしてくれてるから、片方の肩だけぐっと広げて……。」(高瀬)
「子供の頃のほうが我慢できていた気がするのに、なぜ大人になるとできなくなるんだろう」と首を傾げる高瀬さんに対して、ひらりささんは「東京だと、見知らぬ人同士がすれ違う瞬間が多いことで、よりマナーを守ることが必要という感覚があり、それを守ってくれない人に対する許せなさが募るのでは」と指摘。トークはさらに、「子供」と「大人」の対比にフォーカスして進んでいきました。
子供の頃周囲の大人を「そんなに大人じゃないのかも」と思った瞬間や、親との関係、「書くこと」「読むこと」と成熟の関係について、小説とエッセイの違い……。

生き方の異なる二人がたっぷり語り合ったイベントの全編は、アーカイブ配信として販売中です。
書籍『まだまだ大人になれません』とあわせて、ぜひこの機会にご覧ください。
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