
歩くサナギ、うんちの繭
大和書房
昆虫を愛してやまない、動物作家・昆虫研究家でタレントの篠原かをりさんと、シンガーソングライターで昆虫系YouTuberとして活躍中のたえたそさんの対談イベントが2025年5月12日、東京・蔵前にある「透明書店」にて開催されました。
※本記事は、対談イベントを再構成したものです。

文字を食べる昆虫
司会 本書で「変態」をテーマにされたのはなぜですか?
篠原 「変態」と聞くと、ややニッチなテーマに感じられると思いますが、実は非常に重要なテーマなんです。昆虫がこれほどまでに多様な種類を生み出した起点となるのが「変態」という現象なんです。「変態」で一冊書いたらおもしろいだろうと思いました。
たえたそ 変態にもいろいろあって、私が好きなのが完全変態するカブトムシ・クワガタ。ほかにも、不完全、無変態などいろいろあります。この本だと、ずっと姿の変わらない無変態のシミの話がおもしろかったです。古い本とか掛け軸を開くと、チュチュチュって居る小さい虫。うちにもよくいるんですけど、3億年前から姿が変わってないんですね。
篠原 シミは興味深い虫ですよね。紙を食べてしまうことで有名ですが、古文書の文字だけを食べちゃって、解読する際に大変だったという話もあります。
たえたそ そんなこともあるんですね! シミは体の大きさの割に長生きで、7~8年生きると本にありましたよね。
篠原 虫は短命な種類が多いですが、飼っていたタランチュラは11年ぐらい生きました。
たえたそ そんなに生きるんですか?
篠原 メスは生きますね。オスは1年ぐらいで死ぬのが多いと聞くので、不思議ですよね。見た目は近いように見えるけれども、クモと昆虫は分類が違うのですが、昆虫とクモを両方飼うと、ここまで違うんだって感じることがよくあります。
意外と難しい昆虫のエサ事情
篠原 昆虫好きな人でも、クモは苦手という人に出会うことがたびたびあります。昆虫嫌いな人から見たら、クモも昆虫も一緒に見えると思うんですけどね。たえたそさんはクモは平気なタイプですか?
たえたそ 私は平気なタイプです。田舎で、家にも出てくるので、クモを手に乗せて動画を撮ったりもしています。卵をもつので、それがちゃんとクモになるまで飼育したいと思って頑張るんですけど、どうしても卵の状態でシュンってしぼんでしまう。何に原因があるのかを、この1年ぐらい悩んでいます。
カマキリ飼育も何回も挑戦しているんですけど、同じようにどうしてもうまくいかないんですよね。なんでだろうと思ったら、やっぱりエサが重要なようなんです。
国産の例えばオオカマキリとかは肉食性のものを好んで、よく捕食するので、腸が丈夫みたいで、そんなに飼育も難しくないと聞くのですが、外来種のハナカマキリなどは栄養をつけようと思って、動物性のタンパク質を与えると、栄養価が高すぎて、うまく消化できず、下痢を起こしてしまうんです。例えば脱皮する瞬間に亡くなっちゃったりとか、エサをあげた次の日にパタッと死んだりっていうことがありました。
篠原 カブトムシもスイカをあげるのが定番ですが、下痢するからダメという話をよく聞きます。
たえたそ 私も子どもの時におじいちゃん、おばあちゃんに「スイカやキュウリあげておけば、カブトムシは生きるから」とか言われて、あげていました。最初は確かに食べているんですが、3日後ぐらいに死ぬことが多かったですよ。「もう死んでるよー」って言うと「いや、もう寿命だから」って片付けるんですけど、そんなわけないだろうといまなら分かります。
カブトムシにあげるなら、スイカではなく、バナナですよ。バナナとパイナップルをあげているんですけど、それだと水分や栄養が過多にならない。水分量が少なくて、栄養もきちんととれるんです。
昆虫で億万長者を目指すなら……?
たえたそ ゴキブリもたくさん飼ってこられたんですよね。
篠原 一時期は400匹くらい飼っていました。
たえたそ 私もゴキブリがすごい好きで、今、自宅にヒメマルゴキブリとニジイロゴキブリと、ヨロイモグラゴキブリを飼っているんですけど、増えないんです。
篠原 ヨロイモグラゴキブリはなかなか増えないでしょうね。
たえたそ めっちゃ難しいですね。どうやって増やすのかを知りたいんです!
篠原 私も知りたいぐらいです。ヨロイモグラゴキブリを安定して増やせたら、ちょっとした大富豪になれますよね(笑)。ペットショップでオス・メスセットの2匹で3万とか4万で取り引きされています。
たえたそ 増やせたらいいですよね(笑)。ヨロイモグラゴキブリは、ユーカリの葉っぱが主食です。ユーカリをなんとか手に入れたり、昆虫ゼリーを水分補給であげたりして、丸2年飼育しているんですけど、全く子どもを産んでくれなくて。
篠原 ゴキブリはたくさん増やしたことがあるのですが、そのとき活躍したのがシニア用のドッグフードです。シニア用だと、栄養が多すぎないみたいなんです。さらに弱ってきたときには、小型犬のシニア用が活躍しましたよ。
たえたそ 「小型犬のシニア用ドッグフード」、メモしました(笑)。
「うんちは粒状でなく、ペースト状でお願いします」
たえたそ 「歩くサナギ、うんちの繭」というタイトルの通り、うんちひとつとっても興味深い話が多くて、おもしろかったです。
篠原 うれしいです。この本にはイラストが出てくるので、それが正しい形かどうかを監修するタイミングがありました。キノコバエのイラストに対して、「うんちは粒状ではなく、ペースト状でお願いします」っていうお願いをしたことを思い出しました。仕事上で到底ありえない指示ですよね(笑)。
たえたそ キノコバエって、皆さん知っていますか? 目立たない姿ですが意外と身近にいて、私の身の回りだとクワガタの飼育で使う菌糸ボトルによく湧くんです。一回湧いてしまうと、もうどうしようもできない。
篠原 なんであんなに湧くんでしょうね。もう大丈夫っていうぐらい、しっかり密封していても湧きますよね。
たえたそ そうなんですよ。で、かをりさんの本の中に出てくるキノコバエちゃん、私も初めて知ったのですが、うんちを体の上に乗せているんですよね。
篠原 幼虫のときに乗せていますね。大雑把に擬態のためだと考えられています。
たえたそ 気になって、キノコバエのうんちの繭を検索したら、動画が出てきて……、それがすごいんですよ! もんじゃ焼きでいうところの土手を器用に作るんですよ。糸を吐いて繭を作るんですが、土手にうまく引っ掛けて繭をつくる姿が感動的で……。それを手足がない幼虫の姿で行っています。
体をくねらせて、うんちを下ろして、作っていく様が素晴らしいんです。うんちを背負って生きていくって、すごい生き様だと思いました。
一番おいしかった虫
たえたそ かをりさんは昆虫食にも挑戦されていますが、今までで一番おいしかった昆虫はなんですか?
篠原 本にも書きましたが、オオスズメバチの前蛹という、サナギになる直前ぐらいの状態のものをしゃぶしゃぶにして、ポン酢で食べるのが一番でした。本当においしいんですよ。どの時期でも、どの種類でもおいしいのはトンボかな。
たえたそ え? トンボってヤゴの状態で食べるんですか?
篠原 食べるのは成虫ですね。普段食べているものが魚といった水生の生き物だからか、さっぱりした味でクセがない。
たえたそ じゃあ羽化したてを食べるってことですか?
篠原 普通に飛んでいる成虫を食べています。素揚げで。
たえたそ 確かに翅の薄さがちょうどいいかも……? 私が今まで食べたことある昆虫食で印象的だったのはタガメですね。
篠原 ……タガメ、大丈夫でしたか?
たえたそ あの! これは語りたいんですけど(笑)、タガメ本体の肉の部分をえぐって食べたんですけど……、臭かったんですよ。
篠原 タガメは本当に難しいですよね。
たえたそ 生臭いというか、消臭剤に漬け込んだカニカマみたいな香りが強くて、私には芳醇すぎて、ウッとなりました。
篠原 脳が飲み込まないでって言ってきますよね?
たえたそ まさにそうです。これは食べちゃいけないんだって思わされます。
篠原 私もこれは無理なんだなって思いました。食べものは1つも嫌いなものないのに。あ、ミックスベジタブルだけ駄目で(笑)、それ以外は何でも食べられるのにタガメだけはちょっと。
たえたそ タガメはちょっとパクチーっぽいよって言われて、その脳みそで食べたら、どうしても消臭剤にしか感じられなくて。タガメさんに申し訳ないと思って、飲み込みましたけど、消臭剤でしたね。香りを生かして、タイ料理とかに入れたらおいしいですかね?
篠原 タイの昆虫食を取材したことがあります。そこではカメムシをすりつぶす専用の木鉢があって、スパイスとして、まるでパクチーを使うかのようにカメムシを使うんですよ。
たえたそ おいしかったですか?
篠原 おいしかったですよ。カメムシ入りのスパイスをすりつぶしただけの状態で、味見してみたんですが……、とてもスパイスが効いていました! 天然のもので、この味が出てくるんだってくらい、人工的な味な感じがしました。
たえたそ かをりさん的に、オオスズメバチの前蛹が一番で、それを超えるものはないのでしょうか?
篠原 今のところはないですね。前蛹に関しては、昆虫食だけではなくて、食べ物全体のランキングで上位にランクインするくらい好きです。世界で一番好きな食べ物がエビなので、そもそもそういう味が好きなのもありますが。
たえたそ 確かにエビに似た味がしそうですよね。昆虫食を食べる方で、あまりにも昆虫を食べ過ぎて甲殻アレルギーになった方もいると聞きます。
篠原 ほどほどがいいのかもしれませんね(笑)。
……このほかにも、以下のようなトピックで盛り上がりました!
・子どもから大人へ ――わたしたちの「偏愛ヒストリー」
・この本を執筆した経緯
・書ききれなかった取材エピソード、葛藤、ウラ話
・愛してやまない「推し昆虫」とその魅力
・飼育と「変態」――“変わり者”には理由があった
・「偏愛」をこれからどう楽しむ? 広める?
詳しくは動画でお楽しみください!↓
アーカイブ販売ページ(6月18日までの期間限定販売)
https://tomei-bookstore-archive-20250512.peatix.com/view
〇イベント会場
透明書店

〈所在地〉東京都台東区寿3-13-14 1F / 最寄り駅:都営大江戸線「蔵前」
〈営業時間〉年中無休24時間営業(毎週木曜~月曜の12:00-19:00は有人営業、左記以外の時間帯は無人営業)
※イベント開催日は営業時間が変更になるため、公式SNS(X、Instagram、Bluesky)でのお知らせをご確認ください。