本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
ある書店員の平凡な一日。
書店員の朝は早い。
6時には寝室を出て、家事を始めるのだ。……
どうした森田! 書店に出勤しないことには話が始まらないじゃんか! とお思いのあなた。
そうなんです。今回はスピンオフとして、私の平凡な一日をそっとお伝えしようかと思いましてね。決してネタがないとか、そういうことじゃないよ! 本当だよ!
さて、お話しの続きに戻りましょう(強引)。
書店員の朝は早い(人による)。
我が家の場合は、夫の朝がさらに早く、私が起きた時にはすでに家を出ています。夫の朝ごはん? そんなもんは大人なんだから勝手に食べればよろしい。夫は体型維持のために気を遣っているので、私が作るフリーダム朝ごはんなど不要なのです。
二度寝の誘惑、スヌーズ機能で何度も鳴るアラームと戦いを経て、ようやく布団から抜け出した私は、1階の台所へ。
「今日、シフトを見間違えていて、本当は休みということはないかな…」と、念のためシフトを確認してみるも間違いなく朝から仕事でした。無念。
仕事となれば、急いで準備を進めねばなりません。
子どもの朝ごはんとお弁当、犬の散歩、猫のごはんの補充を済ませて、身支度。
娘の「ママ、牛乳がもうなくなるよー」という声を聞きながら大急ぎで朝ごはんを食べて、いざ出発!
私が乗る電車は都心と反対に向かうので、どんどん空いていくのが良いところ。さっそく読みかけの本を開きます。あれ、すぐ読み終わりそうね……。お昼休みに新しい本を買わないと、帰りに読む本がないな。
「◎本を買うこと」と脳に刻みこみます。降車駅の手前で本を読了し、良い気分で職場に到着。
出勤した後は、仕事が怒涛のように押し寄せてきます。
とにもかくにも今日発売の雑誌を、開店前に出さなくてはいけないのです……!
何年働いていても、とてもスリリング。はたして今日は間に合うのか??(時に間に合わないこともございますがご容赦ください……)
雑誌の付録は、本誌に付いていない状態で届きます。皆さんが書店で目にする、輪ゴムや紐でくくられた雑誌は、全て書店員たちが手作業で準備しているのです。付録が多い日は、当然作業量も増えるわけで。今日は……なかなかの量だな。
通常版と増刊で付録が違う商品も多く、慎重に(しかし素早く)作業を進めねばなりません。
「え、これ増刊?」「そっちが通常! 増刊は表紙の顔が横向きのやつ!」などと、スタッフの会話が飛び交います。
大きな新刊や雑誌の品出しを終え、朝礼をして、さぁ、今日も開店しました。
すでに汗だくヘロヘロの書店員たちですが、ここからが本番。それぞれの持ち場へと速やかに散っていきます。
私はコミックの棚へ。今日は、たくさんのファンが待ち望んでいたコミックの新刊の発売日なのです。5歳の女の子の日常を描いた作品が4年ぶりに発売とあって、開店するや否や、次々にお客さまが手に取っていきます。みるみる減る平積み。
楽しみにしている人がこんなにたくさんいるのだな……と胸が熱くなりつつ、私は自分が買う分をしっかり確保。早く休憩になれーーー!!
午前中はいつも通りバタバタと過ぎ去っていきました。
「真っ赤な装丁で花が描かれた表紙の本」をお探しのご婦人、お孫さんに頼まれたものの「タイトルが聞き取れなかった」というご夫婦、さまざまなお問合せを伺いつつ、平台に本を積み上げていきます。ほんと、あっという間に終わるよね、午前中って。よし、休憩だーーー!!
楽しみにしていた漫画の新刊と、帰りの電車で読む本を買い、休憩室へ。持参したお弁当をさっさと食べて、漫画を読むのだ。
「楽しみすぎて震える!!」と同僚に言いながら休憩に出ましたが、楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。
「もう休憩終わった……」と悲しみに暮れつつ戻り、「落差!!!」とツッコミが入ります。ちなみに、漫画はめちゃくちゃ面白かったです……。
午後になると、学生さんが店内に増えてきました。今日は下校時間が早いのかしら。
午後は補充品の品出しをしながら、参考書のお問合せを受けたり、発注をして、届いたFAXや郵便物の確認。
あぁ、今日も終わっていく……。
帰りの電車に飛び乗ると、今日買った本を開きます。向かい側に座った方が、当店のカバーがかかった文庫本を開いていてニヤリ。
家に帰ると、娘が台所から顔を出し、「牛乳買った?」と聞いてきました。
あ、そういえば朝そんなこと言ってたな。
「ごめーん、買ってない」と言うと、「だと思ったわ。本は買うけど牛乳は忘れるだろうなって」と呆れ顔。
あぁ、今日も疲れた。
牛乳は忘れたけど、夫に頼めばいいや。
私は今日もよく働き、素敵なお買い物をしました。
今日、本を買ってくださった方も、良いお買い物をしたと思ってくれますように!
【電車の中で私が読んだ本】
『spring』
恩田 陸/筑摩書房
「恩田陸が描くバレエの世界!」と聞いて、読まずにおれるものですか!
八歳でバレエに出会い、十五歳で海を渡った主人公、萬春(よろず・はる)。舞台の神を追い求める天才を、様々な人物の視点から描く。まるでバレエを見ているかのような、その描写、表現力に脱帽……。読書好きなら今すぐに読んでほしい!!

『月とアマリリス』
町田 そのこ/小学館
北九州市の高蔵山で一部が白骨化した遺体が発見された。地元タウン誌のライター、飯塚みちるは葛藤の末、事件を追うことを決める……。次々に名作を世に送り出す人気作家があらたに挑戦する、サスペンス巨編。社会派サスペンスでありつつも、しっかり町田ワールド! 悲しみと救済の物語を、ぜひあなたも。

1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。