本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
書籍『書店員が見た!』が出版された時、働いている書店ではそれはもう信じられないくらいの冊数(大作家先生でもなかなかない量)を仕入れていただきました。
たくさんあるということは、店のあちこちに並べられるわけで、店の一番目立つ棚、文芸書の棚、書店にまつわる本を集めたコーナー、そしてレジの目の前の話題賞のコーナーにも平積みに。
当店のレジ前は、今売れている本が集められている旬なコーナーです。自分で陳列されてもらえたので、いたずら心でMEGUMIさんの本の隣に並べてみました。ふふ、私も“めぐみ“だからね!
この場所は、レジから手に取る方や試し読みをされる方の様子がよく見えます。
私は、どんな方がお手に取ってくださるのかな? とウキウキ考えていました。
ところが……。
「あ、手に取った!」と思っても、よく見るとそれは隣りに積まれているMEGUMIさんの本なのです。
MEGUMIさんの本があまりに売れていくので、気になってしまい、好奇心旺盛な私も買ってみることにしました。
それで読んでみたらさー、めっちゃいいの、この本! マジで、今まで読んだ美容本の中のトップオブトップ!!(オススメしたいあまり、急にタメ口になりましたことをお詫び申し上げます。)
知識を惜しみなく伝える、その潔さ。私にも今日から出来ることが盛りだくさん!
こりゃー売れるわー……。脱帽だよ、MEGUMI!
私は、仕事の休憩時間に読んだのだけれど、さっそく帰り道に作中でオススメされていたシートマスクを買って帰ったからね。そして現在も使い続けているけれども、めちゃくちゃお肌の調子が良い! ありがとう、MEGUMI!! (本を熟読しすぎたため、著者に対して友人かのような言動になりましたこと、重ねてお詫び申しあげます。)
一度読んでしまえば、もうMEGUMIさんの本を手に取る方を見ても「またMEGUMIさんの本だ……」という気持ちは湧き上がらず、むしろ「その本、買った方がいいですよ!」としか思わなくなった私。完全なるファンです。
そんなある日、Tシャツにデニムのラフな服装の女性がその本を手に取るところを見かけました。
もちろんそんな様子は日に何度も見ているのですが、気になったのはその女性が数日前も手に取って、中を見ずに戻していたのを覚えていたからです。レジの対応をしながら、目の端でその方の様子を確認していましたが、彼女はその日も開かずに元の場所に戻されていました。
本を手に取れば、たいてい少しは試し読みをするものなのに、なぜなのかしら……。
でも、にわかに混雑したレジ業務に追われ、その女性のことはすっかり忘れてしまったのです。
それから一週間ほど経った、ある日。
ご年配の女性から、「今年90歳を迎えた大女優のファッションブックを探している」とのお問合せを受けました。ご年配の女性に大人気の本で、当店にもたくさんある……はずが、なぜかすぐに見つからず。
「あれ、このあたりにあると思うんですけど……」「そうよねぇ」と、棚の前でお話していると、隣りにいた女性が「あ、探しているのはこれじゃないですか?」と本を手渡してくださいました。
探していたお客さまは「あぁ、そうよ、これこれ! ありがとねー!」と、受け取ります。
「おふたりがお話されている本が、ちょうど私の目の前にあって……」と笑顔でお話しされているその女性は、あら、先日のMEGUMIさんの本の方!
そういえばこの場所も、女性向けのファッションや美容の本の棚です。
無事に本を手にしたお客さまがレジに向かうのを見届けた私は、女性の目の前に平積みされている『キレイはこれでつくれます』に手のひらを向けて、「この本、私も読みましたがすごくオススメですよ」と言ってみました。
すると、彼女は「実は気になってるんですけど……。私なんかが読んでいいのかなってと言います。
今日も地味な色のシンプルな服装の彼女は、私と同年代くらい。若い時はファッションもメイクも好きで、華やかな服を好んで着ていたそうですが、結婚出産を経て体型やお肌の変化に気持ちが追いつかず、すっかり自信を喪失してしまったのだそう。
「しかも、若いころのように自分にお金をかけられないですしね……」と言う彼女に、「わかるーーーー!!」と首をぶんぶん振って頷く私。
雑誌に載っている可愛い服を着て、自分へのご褒美にデパコスを買っていたあのころの私は今いずこ。家族がいる今、自分のものはプチプラでどうにか様見えするように考えてしまいますよね(笑)!
「それなら、なおさらこの本は良いと思いますよ。私にも出来ることがたくさん書いてあって、すごく役に立ちました。『よし、やろう!』と思えたときにはぜひ読んでみてください」と言うと、彼女は「今かもしれないですね」と真剣な眼差しで本の表紙を見つめます。
「ずっと言い訳を並べて、キレイになる努力をしない自分が嫌いになりかけてたんです。だから、今かもしれないです」
彼女が本を手に取って「今日買います!」と笑った顔が、なんだか急に若々しく見えました。
それから季節が過ぎ、すっかり涼しくなったころ、いつものように品出しをしている私に、彼女が「こんにちは」と声をかけてくれました。
久しぶりに会う彼女は、淡いブルーのニットにデニム。耳元には、フリンジのついたピアスが揺れています。以前のシンプルなTシャツスタイルから、雰囲気が大きく変わっていました。
「わぁ! そのニット、お似合いですね!」と言うと、彼女は照れ笑い。最近買ったファストブランドのものだけれど、ご家族も似合うと褒めてくれたのだそう。少しダイエットもして、ファッションもメイクも昔のように楽しめるようになったと言います。
MEGUMIさんの本をきっかけに、美容やファッションにまつわる本をたくさん読まれたそうで、「出来る範囲で自分に手をかけるようになったら、気持ちが明るくなりました。今日も情報収集に寄ったんです(笑)」と言います。
私が、最近読んだファッションの本のなかで、エディターの大草直子さんの本が良かったと言うと、すぐにお買い上げくださり、帰り際にオススメのシートマスクを教えてくれました。
「手ごろな値段で使いやすいんだけど、すごく良かったんです。1階のドラッグストアに売ってますよ!」
早速その日の帰りに買ったシートマスク、おっしゃる通り、めちゃくちゃ良い。おかげさまで、私の肌も最近もっちりしているのです。
【今回おすすめした本】
『キレイはこれでつくれます』
MEGUMI/ダイヤモンド社
めちゃくちゃ話題になった本で、今さらと思うかもしれ
ませんが、未読の方は絶対読んでほしい!
忙しさを理由に美容を怠っていたこと、心から反省いた
しました……。長年の実践で手に入れた知識を惜しみな
く伝えてくれるMEGUMIさん、アッパレです!
『見て触って向き合って 自分らしく 着る 生きる』
大草直子/マガジンハウス
おしゃれを愛する大人女子の憧れ、大草直子さんの新刊。
ファッションの本でありながら、「生き方」についての
本という印象です。年を重ねてさらに素敵に見えるため
には、やっぱり外見だけでなく内面も磨かねばと痛感。
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。