本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
離れて暮らすことになる父の健康を願って。
「あのさぁ、ちょっと昨日のアレはないんじゃないの」
「え? 文句言うなら、自分で作ればよかったんじゃない?」
我が家のリビングで揉めているのは、何を隠そう、わたくしの息子と娘です……。
揉め事の原因は、昨晩の夕食。
私と夫の帰宅が遅い夜、子ども達が食事を作ることがあるのですが、どうやら娘が作った食事に、息子が文句を言っている様子。
我が家の兄妹は、大学生の兄の方が食にこだわりが強く、きちんとした食事をしたい派、かたや高校生の妹は偏食で、ほとんどの野菜が苦手です。
昨晩の夕食には、どうやら野菜が全く入っていなかったらしく(笑)、息子がクレームをつけていたのでした。
私が「作ってもらって、文句を言うのはどうかな」と言うと、息子は「いやいやいや! 今回が初めてじゃないの、いつもそうなの!」
「でも、野菜嫌いだからな……。私が作る時はコンビニでサラダ買って来たら?」と娘。
それに対し、息子は「主菜に野菜入ってたら嫌かと思って、俺が作る時は気を遣って、野菜を別茹でして添えたりしたりしてるんだけど!」と言います。
ヒーーー、うるさい(笑)。 私は話を終わらせるべく、手をパン! と叩きました。
「野菜があればいいのね? では、あらかじめ用意できる時は少し作り置きを増やします。そして、娘よ。君は少し野菜を食べなさい。簡単に作れるレシピ本を買ってあげるから」
翌日の仕事帰り、私は早速、レシピ本の棚へ立ち寄りました。
初心者向けのコーナーは、なかなかの充実ぶり。コスパやタイパを重視する昨今、簡単で美味しいごはんを求めて、若いかたがレシピ本を買って行かれる様子をよく見かけます。
今日も、息子と同じくらいの年齢の女子が、本を選んでいました。
私が本を選びながら、ヨレた帯を直したり、棚の傾きを整えていると(職業病)、本を選んでいたその女性が「すみません。この本、どっちが最近出た方ですか?」
「え?」突然のことに、私が少し戸惑っていると、彼女は「あれ? 店員さんかと思ってしまって……すみません!!」と顔を赤くしました。
きっと、私の動きを見て、店員だと思われたのでしょう。
「いえ、私はこの店の店員ですよ。最新は、右手にお持ちの方です」
私が笑いかけると、「すみません、ありがとうございます!」
私も、彼女が選んだ本と同じものを買うことにして、レジに並ぶと、偶然、私の後ろに彼女が並びました。
「さっきはありがとうございました」
「いいえ。お役に立てて良かったです」
彼女は、本に封筒を重ねてお持ちで、宛名のところに「お父さんへ」の文字が見えます。
私の目線に気づいた彼女に「ごめんなさい、見えてしまって!」と言うと、彼女は「父とふたり暮らしで、中学の頃から私がごはん係だったんですけど、今度、就職で関西に行くので……。父には健康のために自炊を頑張ってもらおうと思って」と笑いました。
「本は、メッセージカードと一緒に包んでもらうんです」
レシピ本、我が家ではとても役に立っていて、娘はいくつか野菜の料理を作るようになりました。簡単で美味しいので、私も真似して作ることも。
作りながら、娘さんが自立してひとり暮らしになったお父さんのことを思います。
きっと、お父さんも今頃、レシピ本を活用しているんじゃないかしら。
会ったこともないかただけれど、ずっと健康でいてくれたらいいな、と思います。
【おすすめした本】
『野菜ソムリエさやが教える 超かんたん! 重ねて煮るだけレシピ』
さや/飛鳥新社

めっちゃ売れてます!! 人気インスタグラマーさやさんの野菜レシピ!!
切って → 重ねて → 煮るだけなのに、野菜たっぷりで美味しく、しかも不思議とおしゃれなごはんの出来上がり。試してみて分かったのが、小さなキッチンでもストレスなく作れること。これで、野菜を簡単においしく食べましょう!!
『何度でもつくりたい幸せの味 ひとり暮らしのおうちごはん』
HIRO(ひろ) /新星出版社

ページをめくって、「なにこれ! すごい!」
料理している人の頭の中がチャートになっているんです。
あいまいな表現(”きつね色”とか、”焼き目をつける”とか)も、きちんと写真で説明してくれている。これはもう、教科書と言っていいんじゃないでしょうか。
これから料理を始めるひとなら持っていて損はなしです!
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第1話いつか子どもと繋いだ手を離すのだから。
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第2話誰かと一緒にごはんを食べる幸せについて。
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第3話いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
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第4話世界一素敵なプレゼント
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第5話25年振りの、夫婦水入らず
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第6話新しい年は、少しだけ新しい自分で。
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第7話大人のダイエットは、健康ありきなのである。
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第8話宿題やったか?お風呂入れよ、歯磨けよ!…終わった? よし、ミステリの世界へ行ってらっしゃい!
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第9話うちの店長は声がでかい。
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第10話ある書店員の平凡な一日。
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第11話お求めの本が見つからない日だってあるのです。
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第12回大切な人の親に会いに行くなら。
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第13話離れて暮らすことになる父の健康を願って。
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第14話古い友人との再会
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。