本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
直接伝えられないけれど、あなたに読んでほしいのです。
週の半ば、仕事帰りに立ち寄ったスーパーは、混み合っていました。
私は、週末に食材をまとめ買いするのですが、たいてい週の真ん中で足りないものが出てくるので買い足すのです。
今日買わなければいけないのは、牛乳と玉子、あとビール! 頑張って働いたのだもの、やはり家にビールがないのは困る。
ビールの6缶パックをかごに入れると、近くの店員さんが値引きシールを貼って回っているのが見えます。おぉぉ、これはチャンス!
今日はもう遅いし面倒だから、すぐ食べられるものを買って行こうかな。鮮魚売り場に戻ると、お刺身に半額シールが貼ってあってにんまり。この盛り合わせを家族で分けて、薬味をたっぷりのせた海鮮丼にしよう。青ネギや大葉、茗荷に納豆、たくあんと、かごに入れていきます。
あれ、思ったよりたくさん買ってしまったな。まぁ、いいや。気合を入れて持ち帰りましょう。
レジもなかなか混み合っていました。
比較的短い列に並び、順番を待っていましたが、進みがちょっと遅いような気が……。あ、研修中の札がかかってる。なるほどねー。
レジの順番が回ってくると、店員の男子のマスクが小さく動きました。ん? もしかして「いらっしゃいませ」って言った?
研修中なのに、結構たくさん入ったかごのお会計を頼んですまんね。まぁ、何事も練習あるのみだから、頑張って! と心の中で話しかけつつ、レジの作業を見つめていると……。
ちょっと待って。
トマトの上に牛乳だと?
心がざわつきますが、まぁ、サッカー台までのわずかな時間のことだから……。でも、目はかごに釘付けです。大丈夫? 他はちゃんといけそう?
私の心配をよそに、マイペースな彼は、お刺身の盛り合わせを縦(!)にしてかごの隙間に入れました(笑)。
いや、つい笑っちゃったけど笑いごとではない気もする。
これがうちの本屋のアルバイトだったら、絶対に注意するし、お客さまに謝罪して、新しい商品と取り替えです。
ただ、まぁ今回は海鮮丼にしちゃうし……。
私がわずかな時間、指摘するか悩んでいると、後ろに並んでいた会社帰り風の男性が、他の店員さんに声をかけ、「ねぇ、彼、お刺身を縦に入れてるけど……」と私のカゴを指差しました。
それを見た店員さんは大慌て! 頭を大きく下げて謝罪してくださったのちに鮮魚売り場にダッシュして戻って来ました。
「お取り替え出来る商品がもう無く、誠に申し訳ございません!」
おぉ、さすが半額シール。「これをいただくので大丈夫ですよ」と言うと、また深く頭を下げます。
いいって。頭、地面についちゃうって!
お会計を終え、買ったものをサッカー台に運ぶと、先ほど私の代わりに指摘してくださった男性が隣りで袋詰めをしています。
私が「先ほどはありがとうございました」と声をかけると「いえ、彼のために伝えた方が良いと思っただけです」と微笑み、帰って行かれました。
私も袋詰めを終え、サービスカウンターの前を通ると、先ほどのアルバイトの男子が奥で注意されているのがチラッと見えました。真剣に話をしている上司に対して、なんとなくちゃんと聞いていないように見えるのが気にはなるが、彼があんまり怒られませんように……。でも、もう2度とお刺身を縦にしないでね……。
帰宅して、海鮮丼を食べながら、子どもたちにスーパーでの話をしていると、娘が言います。
「それで、そのアルバイトの子は、謝ってくれたの?」
あれ? そういえば彼からは謝罪がなかったな。
「きっと教える側も大変なんじゃないかな」
別のスーパーでアルバイトをしている大学4年生の息子は、後輩に教える立場になり、人を教育する難しさに直面しています。
「こないだ、お母さんから借りた本、良かったから、そのスーパーの店員さんに教えてあげなよ」
いやいや、おかしいだろうよ。お客さんから突然、本を紹介されたらさ……。
「そうかな。結構役に立ったんだけど」
あれから、何回もお買い物に行っていますが、あのバイトくんはどうやら辞めてしまったようでした。
あの時の店員さんが、ほかの新人さんの教育をしているのをよく見かけます。
あなたにオススメの本ありますが、よかったらどうですか?店員さんを見つめて、脳内で語りかける日々です。
【息子に貸した本】
『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』
レーナ・スコーグホルム、御舩 由美子訳/サンマーク出版

なんか話が通じないって時、ある。いつもは問題ないコミュニケーションが今日はうまくいかないって、経験ありませんか? ストレスで感情的にならないようにしたいし、そういう相手と感情的にならずに接したい。そんなあなたにめちゃくちゃオススメ。
『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』
今井 むつみ/日経BP

このタイトル、発売直後は職場がざわつきました(笑)。どこの職場でも起こっているのではないでしょうか? 同じことを繰り返しても、言い方を工夫しても、何をしたってうまく伝わらないって、仕事の場でも家庭内でもありませんか? これを読んだら、コミュニケーションでイライラしなくなるかもしれませんよ!
-
第1話いつか子どもと繋いだ手を離すのだから。
-
第2話誰かと一緒にごはんを食べる幸せについて。
-
第3話いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
-
第4話世界一素敵なプレゼント
-
第5話25年振りの、夫婦水入らず
-
第6話新しい年は、少しだけ新しい自分で。
-
第7話大人のダイエットは、健康ありきなのである。
-
第8話宿題やったか?お風呂入れよ、歯磨けよ!…終わった? よし、ミステリの世界へ行ってらっしゃい!
-
第9話うちの店長は声がでかい。
-
第10話ある書店員の平凡な一日。
-
第11話お求めの本が見つからない日だってあるのです。
-
第12話大切な人の親に会いに行くなら。
-
第13話離れて暮らすことになる父の健康を願って。
-
第14話古い友人との再会
-
第15話うちの店の仕事ができるアイドルの話。
-
第16話夫に「大好き」って言えますか?
-
第17話直接伝えられないけれど、あなたに読んでほしいのです。
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。