コアラ日記

この連載について

ごあいさつ

はじめまして。
わたしはふだん本のデザインの仕事をしています。
日記を書いてみたらとすすめられたので、書いてみますが、
たぶんあまり得ることのない日記です。
コアラの絵はヒグチユウコさんが描いてくれたわたしです。
なので、コアラ日記というタイトルにしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

第8回

5月の日記(後半)

2023年8月30日掲載

5/16

朝ベランダをみたら、プチトマトにトマトの形状の発現を確認。

水鈴社・篠原さんが「ふるさと納税で届いたから」とほやをお裾分けしてくれる。

ほやを剥きまくり、食べまくり、半分は塩辛にする。

夕方から俳優さん本の撮影立ち合い。近所だったので自転車で。

5/17

車の点検へ。

ディーラーにならぶピカピカした車をみて、わが車の不憫を思うが、イタリア人だからいい、ということにしているのだった。

(ローマで見た我が車種はみんな歴戦の勇姿だった)

5/18

『野球短歌』(池松舞著)の増刷帯(めでたくてすごく豪華なコメントもりだくさん)を入稿。

歯医者へゆき、掃除をしてもらう。

竹尾にて、水戸部功さんと2回目の打ち合わせをし、なんの話の流れだったか、「ぼくなんて悪い夢ばかりですよ…」と言われる。

イッセイミヤケで友人への誕生日プレゼントを購入。

イッセイミヤケの香水は、学生のころ流行っていて、いまもいい香りだと思うけれど、

匂いを嗅ぐと、たちまちその頃の記憶がでてきてしまう。

5/19

寝ていると、顔にティッシュがふわっとかけられる。

え、え、と思っていたらもう一枚。

誰!誰なの!やめて!と叫びながら顔を振ってティッシュを落として、ふとんをかぶってむりやり寝る。

朝起きたらティッシュはなく、昨日の水戸部さんのせいで悪い夢を見たんだと思う。

(人のせいにしました)

でも、こうやって書いてみると悪夢の賞味期限はとても短く、見ているその瞬間しか味わえないのがわかる。

『光をえがく人』(一色さゆり著)文庫の色校もどし。単行本とはぜんぜん違うものになりました。

5/20

昨年パリで見たスカーフが入荷されたとのことで、いそいそとメゾンエルメスへ。

カフェでアイスティーをいただいて優雅な気持ちに。

帰宅してから、存在は気になっていた近所の定食屋さんへゆき、アジフライ定食。

存在感は急にうすくなった。

帰り道に、いつも「Youtube撮影中!」という札がかかって入れない雑貨屋さんが、めずらしく札がかかっていないのを見つけたのではいってみる。

もう札は気にしなくていいなと思う。

他の雑貨屋さんにも入ってみる。

おしゃれなメガネが売っていたので試着するとおそろしいほど似合わない。

丸顔のメガネデザイナーさんはいないのだろうか。

丸顔にしか似合わないメガネを作ってほしい。

近所にパン屋さんも発見し、あんバターを買って帰る。

5/21

チュンコ先生と文学フリマへ。

まずは寄稿した浅生鴨さんのブースへ。

『推し本 異人と同人4』に好きなもののことを書かせていただいた。

参加同人がたくさん集まっていて、親戚の集まりのような感じに。

何年ぶりか、もうわからないくらいに、歌人の佐藤りえさんにお会いする。

豆本もすばらしく。りえぞうちゃんの句集を買わせていただく。

川名潤さんのところは完売でざんねん。

佐藤亜沙美さん、滝口悠生さんなど、ひさしぶりのお顔たちにばったりもうれしい。

ナナロク社・村井さんはもうなんていうか販売が板についていて、キュウリでも渡したらうまく売ってくれそうな気配。

調べがたりないままに行ってしまい、帰宅してからこの人も!あの人もブースがあったのか…と思う。

でももう疲れて無理だったから仕方がない。

穂村弘さんの誕生日だったので、夫妻と夜ご飯。

薪焼(まきやき)というジャンルを初めていただく。

おめでとう穂村さん。

5/22

起きてすぐベランダにでるのが日課。

木苺がいくつか色づいてきて、朝顔はりっぱな双葉。

双葉ってこんなにりっぱだったかな。

メダカの学校をのぞくと、5年生くらいの子がいた。

午前中は幻冬舎にてブリアナ・ギガンテさんの絵本打ち合わせ。

ブリアナさんの感覚に、ときどきハッとして、つかんでおこうと思う。

制作の西山さんと作った本の中では一番凝ったものになりそう。

一旦家にもどってSF短編2巻のシールを入稿したり、『観光客の哲学』(東浩紀著)最後と思われるデータのやりとりをしたり。

その後、南阿佐ヶ谷の枡野書店での打ち合わせに向かう。

駐車場難民になり、悪夢のように同じ道路を行き来する。

枡野さん、ひさしぶりの佐藤文香さん、はじめましてのphaさん。

また帰宅してPANTONEの色見本をひっつかみ、ナナロク・村井さんと打ち合わせ。『踊れ始祖鳥』(くろだたけし著)の紙のことなど。

「いい」おしゃべりもする。

今日の名言「ナナロク社の目標は今年から真に創造的な10年」

さらにその後小学館へ。SF2巻の函色校。

移動の多い一日だった。

5/23

雨降りの日。

起きてベランダの木苺を2粒食べる。

木苺はわたしの中ではヨーロッパの市場で、ペーパーモールドの器ほしさに買うもので、旅行の間ホテルでちょこちょことつまむもの。

2粒を味わいながら脳内旅行。

半袖で外へ出かけたら、震えるほど寒く、ひとりだけ元気なひと、もしくは海外から来たひとみたいになっている。

夕方の打ち合わせは長袖で出直す。

河出書房新社の竹下さんと『マルナータ 不幸を呼ぶ子』(ベアトリーチェ・サルヴィニオーニ著)の打ち合わせ。

インド旅行のご予定を聞いて、いいなあと思う。

『アロハ、私のママたち』(イ・グミ著)入稿。

打ち合わせの時も書いたけれど、「写真花嫁」のことをほとんど知らず、衝撃だった。

いろんな知らないことを、本が教えてくれて、ありがたい仕事です。

明日から山形出張なので、山形出身かつ山形仕事の多い荒井良二さんにおすすめの店を聞いたら、偶然、荒井さんも山形にいるとのこと。

「ま、明日会えるかどうかわからないけど、明日は明日」「オーライ」

という感じで、やりとりを終えた。

5/24

朝から山形へ。NHKの番組のお仕事。

山形を、少しずつ学ぶ今年になりそう。

新幹線で到着してから、庄司屋さんへ連れて行っていただく。

寒ざらしのせいろそばに惹かれる。

せいろを頼んだのに「天せいろ」が届いて、もったいないので天ぷらもいただく。

当たり前のようにNHK山形のAさんがそばの上に一味唐辛子をかける。

驚いたら「普通だと思っていました!」とのこと。

山形の人はそばには唐辛子。(わさびもついています)

天ぷらのしいたけがものすごくおいしかった。

午後は取材へ。いま、書いていいのかまだわからないのでぼかしますが、とてもエネルギッシュな社長さんのいる素敵な工場を拝見。

(もう番組が公開されましたので追記。繊維工場さんへ行きました)

 

夜ご飯は荒井良二さんが高校の頃から通っているという「ふくろ」へ。

ものすごく美味しいおでん屋さんだった。わらびのおでんも初めて食べる。

荒井さんも合流して、NHKのKさんAさんと4人で楽しい時間を過ごす。

Kさんと荒井さん、わたしの共通の知り合いがいることがわかりとても盛り上がった…。

なんだったのか…あのグルーヴは…。

5/25

6時半に出発して、新潟寄りの山形へ。

緑の情報量が多く、空気の匂いも青い。

いつからかわからないくらい昔からある技法を見せていただく。

「べろべろもち」という看板が気になったけれど、謎のまま飛行機で帰京。

夜、会社員時代の同僚さんたちに会う。20年以上ぶりの方も。ヒッ。

みんなそれぞれに元気そうで嬉しい。

5/26

二日山形にいたので、仕事をがんばらねばならぬ日。

午後、ナナロク社・村井さんと打ち合わせ。

『踊れ始祖鳥』の色校を持ってきてくれる。

なんかふたりともピンとこなくて、方向転換をすることにした。

5/27

お昼頃、友人たちとちょっとだけ買い物。

忙しい人々なので、ここにその名を書かないことにする。

夜中、ひさしぶりにウォーキングをする。2時間くらい歩いたのだが、途中でApple Watchが息絶えており、記録が残らなかったのが、ものすごくざんねん!

何歩か知りたかった……。

底がふかふかとしたハイテクなシューズがほしいと心から思った。

5/28

チュンコ先生のおうちにきたばかりの子猫を見に行く。

埼玉出身とのことで、サイとタマ…ではなく、さくらさんとけやきさん。

まだ生まれて7週。ちいさい。ちいさい。

ちいさいのに性格がはっきり違っておもしろい。

子猫を訝しげに見つめる先住猫のトラちゃんをより可愛がる。

おいしいお料理もいつものように堪能。

わたしのいちばん好きな魚「稚鮎」も天ぷらにしてくれて、最高。

今日の「チュンコのおこわ」は山菜。やさしくておいしい。

5/29

『アンダイング』(アン・ボイヤー著)本文付物をやり、『踊れ始祖鳥』の帯修正。

晶文社・葛生さんと打ち合わせ。翻訳ものなのだが、原書の絵がいいので、そのまま使えるようお願い。

マガジンハウス・瀬谷さんと大島さんと打ち合わせ。

たぶんまだ書けないが、ある著者の3冊目の絵本が始動。

講談社のまるちゃん、あんちゃんとmargoでご飯。

おいしく、楽しすぎて夜が更ける。

5/30

ちいさいかつおぶし器(?)をいただく。楽しそう。

太田出版・藤澤さんと打ち合わせ。木下龍也さん鈴木晴香さんの共著の歌集。

木下さんが撮影した写真がいいので、そのまま使おうかなあと思う。

5/31

朝、毎月恒例「ちくま」の入稿。

今月のヒグチユウコさんの絵は「テチチとこんぶとつぼみ」。かわいい。

午前中、小学館へ行って、キャビンカンパニーさんの絵本『ゆうやけがとけていく』色校。

カレイドインキ(広色域インキ)が似合ってとても気持ちいい。

キューライスさん絵本『ボンバルボン』も色校戻し。

こちらはマクドナルドのハッピーセットについていた絵本で、大きくなるとまた雰囲気が違う。(結末も違う)

小学館の制作さんの片隅で、SF短編特装版の3巻の入稿。

講談社へゆき、22階で編集・高谷さん、そしてひさしぶりの五十嵐大介さんと打ち合わせ。

五十嵐さんと話すととても幸せな気持ちになるので、お会いできるうれしさがすごい。

五十嵐さんのお住まいの地域の方で打ち合わせさせていただくこともあるのだが、今回はそうできなくてくやしかった…。

その後バタバタと、5階へ。編集・井原さん、小沢さんと『続・窓ぎわのトットちゃん』打ち合わせ。

大ベストセラーでもある前作『窓ぎわのトットちゃん』は和田誠さん装丁。身がひきしまりすぎてつらい。

そしてまた22階へいき、ジロチョーさんと、佐野洋子さん『わたし、クリスマスツリー』などの打ち合わせ。

この絵本はツリーになりたい木が走るのだが、とても痛快でかわいく、おもしろい。

佐野さんのおもしろさ、は独自だなあと思う。

原画も見せていただき、きれいさも去ることながら、原画がより「おもしろい」のにびっくりする。

講談社をあとにして、ナナロク社・村井さんと打ち合わせ。

『踊れ始祖鳥』の帯の再校をもってきてくれたのだが、ふたりともピンとこず、あらたなことをやることにする。帯、こんなに毎回違った校正をとるのははじめてですね、と話す。

著者プロフィール
名久井直子

ブックデザイナー。1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。2022年BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLDにてBronze Medal受賞。