コアラ日記

この連載について

ごあいさつ

はじめまして。
わたしはふだん本のデザインの仕事をしています。
日記を書いてみたらとすすめられたので、書いてみますが、
たぶんあまり得ることのない日記です。
コアラの絵はヒグチユウコさんが描いてくれたわたしです。
なので、コアラ日記というタイトルにしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

第20回

11月の日記(後半)

2024年2月29日掲載

11/16

打ち合わせを三つ。

この日記を書くために過去の記憶を総動員しようと(この日記はちゃんとその日に書いているときもあれば、さぼってスコンと抜けているときもあるのです)、携帯電話の写真を見たら、「アンパン」を検索した画面のスクリーンショットがあった。

誰かに(おそらく若い方に)悪い方のアンパンを教えたのだろう。

昭和のみなさんはおわかりでしょうが、悪い方のアンパンといえば不良が吸うシンナーのこと…。

『互換性の王子』(雫井脩介著)の帯の最終やりとり。

すごく楽しそうな仕事の依頼がメールできて、にこにことお返事。

(日記に書けるのは来年かもしれない…)

11/17

『木にとまりたかった木のはなし』(黒柳徹子著/武井武雄絵)の色校戻し。

佐内正史さんのところで、ちょっと先の本の打ち合わせ。

『不完全な司書』(青木海青子著)色校戻し。

『枡野浩一全短歌集』(枡野浩一著)のやりとりを左右社・筒井さんと。

本文用紙が廃品になり、使えなくなったので、違う紙に変更することに。

そうすると微妙な束幅変更→箔版も変更になるのかどうか?という心配がおきていたのだが無事テスト終了。そのままでいけてよかった。

11/18

ずっと家。

11/19

渋谷のタワーレコードで松岡茉優さんが『ほんまつ』の配信イベントをするので遊びにゆく。

客席に人がいないのに、画面の先の方ひとりひとりへ、あたたかく話される松岡さんに感動。

いつもいろいろいただいていたのでお返しをと思い、我が家をキョロキョロしたけれど、我が家の特産品は本なのだった。

本をいくつか詰めてお持ちしたら「これもってる!」という嬉しいお言葉。

そしてやっぱりまた美味しいものをいただいてしまった。

フジモトマサルさんのお兄さんからメール。

22日に発売の新刊見本が届いたとのこと。

交わす近況に時の流れを感じる。

100%ORANGE・繭子さんのおすすめラーメンを食べに荻窪へ。

さっぱりした店内の中に、一枚だけ、読んでいる漫画家さんのサインが飾ってあってびっくり。

11/20

『レベッカの見上げた空』(マシュー・フォックス著/堀川志野舞訳)海外アプルーバル用のラフ。

翻訳モノの本は、本の表側だけ(H1部分だけ)、先に本国にデザイン確認が必要なのです。

ひさしぶりに美容院へ。

11/21

『ことばのきせき』(若松英輔著)色校戻し。

藤子・F・不二雄先生SF短編9巻本文入稿。

『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著/斎藤真理子訳)のポルトガル版も日本語版カバーを使いたいというオファー。

いくつかの国ではもう使われており、とてもうれしい。

榎本マリコさんの絵のおかげ。

井田千秋さんの『家が好きな人』の「このマンガがすごい!2024 オンナ編第7位」おめでとうオビに苦戦し、なんとか着地。

NHK放送センターにて「デザインミュージアムジャパン」撮影。

大きなスタジオの立派なセットに驚く。

出演者は櫻井翔さん、竹谷隆之さん、森下絵理香アナウンサー。

撮影前のお昼ご飯に、ずっといきたかったNHK内の食堂で、憧れだったラーメンを食べる。

たまに落武者がいると聞いて楽しみにしていたのだけど、落武者はいなかった。

次の大河ドラマ「光る君へ」が撮影中だったので、落武者はいるわけがなかった…。平安感のある町人の方は目撃。

食堂に行く途中の廊下には、クリスマス番組を彩るのであろうクレマチスの固まりが廊下に並んでいた。

局内には花屋もあって、そりゃそうかとは思うけど、とても楽しい。

小さな売店も見つけて、ちょっと病院みたいでもあった。

撮影までの間、控室を割り当てていただき、和室でぽつんと過ごす。

控室の新米なので、何も持っていないのだった。

撮影では、櫻井さんの気配りや、竹谷さんの楽しさに助けられ、生で聞く森下アナウンサーの美声も堪能。

櫻井さんは、あんな複雑なことを毎日しているのかと思い、すごい職業だな…と沁みいる。

番組では、各地方に取材に行ってきた人たち(わたしもその一人)の映像を観ながら、スタジオ内を移動しつつ、説明をしていくという趣向。

途中のセットに登場した、通称「ゴム岩」の説明をスタッフさんに聞く。

天岩戸はこんな大きさかなと思うような人よりだいぶ大きい、おおきな岩(ゴム製なのかどうかは不明)。

大河ドラマに最多出演ではないかと言われるその岩と記念写真を撮っていただいた。

「ゴム岩とでいいんですか?」と何度も聞かれ、「スターと撮りたい気持ちがわからないものなのだろうか」と疑問に思っていたが、櫻井さんとじゃなくていいんですか? という意味だったのだな…、と帰りしなに思う。

(最後に出演者全員で写真を撮っていただき、よい記念になりました)

帰宅するとマンションのある部屋のドアが改装のためにあけっぱなしで、ちらりと中が見えてしまった。かわいいタイルだった!

やっぱりタイルはいい……。

11/22

フジモトマサルさん命日。そして『ウール100%完全版』発売日。

彼の著作の復刊をし続けてきたけど、あとどのくらいできるかな…と寂しく思う。

フジモトさん、わたしいま同い年だよ。

ナナロク社・村井さんと打ち合わせして、六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて「もじ イメージ Graphic展」プレビュー。

大島依提亜さんと待ち合わせて行く。

会場内ではいろんな方とお会いでき、水戸部功さんと祖父江慎さんの並ぶ写真が撮れてうれしい。

ついでにイデアさんとわたしも入った4人の写真もうれしい。

久々の大日本タイポ組合さんやAdobe・西塚涼子さんにも会えて、作品よりも人の顔を見ていたような気も。

夜はなんでもできるOさん宅で手料理をいただく会。

穂村さん夫妻、Lさんとともに和やかな時間。

帰宅したら、藤子プロさんからいいものが届いていて気分があがった。

11/23

『Wピース』本文の絵のやりとり。

そしてなんと二日ぶりのNHK放送センター。

「NHK短歌」の撮影。岡野大嗣さんの回に呼んでいただいたのだった。

司会は尾崎世界観さん。

ものすごくいいお話を聞けたのに、全部は放送されないのだと思うと、もったいなさに震える。

一昨日と同じ控室で、ちょっと知った風に入ってみた。

「デザインミュージアムジャパン」のリーダー、NHKエデュケーショナルの倉森さんから、「今日はオケの練習してるから、〇〇室においで」とメッセージがきて、なんとか覗きにいったら、完全にみなさん集中して演奏されていて、超場違いだった。

そっとドアの隙間から手をふって退散。

NHKの帰り道、岡野さんと、一緒にゲームセンターへ。

岡野さんはUFOキャッチャーのプロなので、そばで見られてうれしい。大人の遊びをした…。

その後、ナナロク社・村井さんと合流してururaでご飯。

並ぶ二人を見ているのが、とてもいい時間だった。

11/24

幻冬舎・羽賀さんと加藤千恵さん文庫の打ち合わせ。

横山雄さんから『朝、空が見えます』(東直子著)の素敵な装画が届く。

『金継ぎおじさん』(堀道広著)ラフ。

MOEの恒例付録「ヒグチユウコカレンダー2024」入稿。

今回のpin-up部分とてもお気に入り。

11/25

ジムを終え、そのまま池袋に移動し、ナミサトリさん個展「蘇鉄酒飲」へ。

ナミさんには何回もお仕事をお願いしているのだけど、お会いしたことはなく、今日の来訪も「ナミさんのいない日」だとわかって行ったのだけど、なんと本人登場。思いがけなく初対面となった。

ギャラリーの外に、うさぎ2匹に説教をする子ども、みたいな像があって写真に撮った。

11/26

今野書店へ。「西荻派のゆうべ2」イベントへ。

夜、ひさしぶりに代官山蔦屋書店。今は終わる時間が早く(22時)、深夜活動族としてはとてもかなしい。

週一とかでもいいから深夜(4時くらい)までやっていてほしい(他の書店でももちろんいい)。

11/27

歯医者へ。通りすがりのソフ(トクリームの看板)にサンタが乗っていた。

クリスマスの気配が忍び寄ってきてこわい。笑顔で年末進行を告げられている感じ。

夕方、福音館書店・北森さんと打ち合わせ。

北森さんとは、日参するカフェではなく、なぜか違うカフェで打ち合わせなので気分も違う。

そして北森さんはいつも楽しそうで、それを吸い込むように打ち合わせ。

福永信さんとメールのやりとり。

国立新美術館さんから封書が届いて不思議に思っていたのだけど、なんとなく福永信の匂いがすると思ったらあたっていた。

「なくいさんのことは数ヶ月遅れで知っているけれども、また遠からずおしゃべりしよう。来年もよろしく! あ、早いか。」

と最後に書いてあったので、これを読んでいるのかもしれない。(手をふる)

ちくま1月号入稿。もう2024年だよ!

夜に穂村さん夫妻が猫といっしょに遊びにきた。

11/28

水鈴社・篠原さんと、作家さん(まだ伏せておく)と絵本打ち合わせ。

作家さんの作業場が、ものすごく近所だったので驚く。

小玉ユキさん『狼の娘』3巻入稿。

「コンドウアキのおしごと展」愛媛バージョンの色校戻し。

愛媛だから柑橘まみれのキャラクターたち。

11/29

早川書房へ。クリスティの外の看板に「復活!クリスティ風ソース焼きそば」と書いてあり、人生で一番美味しかったあの焼きそばが…!と勇んで食べた。

復活!って言われたけど、完全復刊!ではない感じで、改訂新装版、っていう感じ。

金の星社・中野さんと打ち合わせ。すてきな社名。

11/30

竹尾にて打ち合わせ。水戸部さんとの展示のいろいろが、少しずつ進んでいる。

夜、突如ナナロク社・村井さんと打ち合わせ。いつも突然だけど、隙間を縫って会う感じが村井さんだ。

講談社・堀沢さんから素敵なお仕事の依頼。HPが少し戻る(RPG的な)。

著者プロフィール
名久井直子

ブックデザイナー。1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。2022年BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLDにてBronze Medal受賞。