コアラ日記

この連載について

ごあいさつ

はじめまして。
わたしはふだん本のデザインの仕事をしています。
日記を書いてみたらとすすめられたので、書いてみますが、
たぶんあまり得ることのない日記です。
コアラの絵はヒグチユウコさんが描いてくれたわたしです。
なので、コアラ日記というタイトルにしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

第29回

4月の日記(前半)

2024年7月15日掲載

4/1

晶文社・安藤さんが藤本和子さん『ペルーからきた私の娘』の後藤美月さん装画の原画と色校をもってきてくれる。

いつものカフェのテラス席で見ていたら雨粒が落ちてきてばたばたと屋根の下へ。

後藤さんの絵は、おおらかさとともに、少し絵の具に涙が混じっているような感じがあって、今回もぴったりだった気がする。

藤本さんといえばブローティガンの翻訳というイメージしかなかったのですが、本人の人生がまたこんなに豊かなものだったのか、と感じ入った一冊。

4/2

講談社・大西さん、見田さんと『文化の脱走兵』(奈倉有里著)打ち合わせ。

カフェのテラス席がとても気持ちいい。

4/3

左右社にて、編集の筒井さん、水野しずさんと打ち合わせ。

水野しずさんとお会いするのは『俳句を遊べ!』という本の撮影以来で、調べたらなんと刊行が2016年だった(お会いしたのはたぶん2015年)。

めずらしく夕方からジムへ。

4/4

細い竹と紐で編まれたあぶなっかしい階段をのぼった先にある、浴室喫茶にいく。テーブルのかわりに、人がひとり寝転んですっぽりはいる細長い浴槽が並んでいる。

老婆が切り盛りしていて、体調の悪い人をみつけると、二の腕のまんなかあたりを空手チョップのようにビシッと叩く。

という夢をみた。

竹尾に行き、訪れてくれたいろんな方と挨拶をしながら、水戸部さんと並んで、サイン本をありがたく作りながら、水戸部さんがいかに体育のできる子だったかを聞いたりする。

(同級生ならぜったい友達になれないタイプ)

竹尾にいる間に、志学社・平林さん、ナナロク社・村井さんと打ち合わせ。

4/5

名刺の増刷タイミング。いつもなら行かないで済ませているけれど、水戸部さんが行きたいとのことだったので、連れ立って銅板印刷さんへ行く。

何度か見せていただいている資料も、一緒に見る人が違うとまた新たな発見があって面白い。

夜、新国立劇場にて、「TIME」を観る。

「坂本龍一、高谷史郎(ダムタイプ)による最新にして最後のシアターピース「TIME」。出演に田中泯…」という惹句にすかさず予約していたのだった。

わたしのコンディションがイマイチで、スゥ…と魂がなんどか抜けてしまい、申し訳なかった。

4/6

チュンコ先生、TKとたけのこ掘りへ。今年は豊作。

ひものの早瀬、クロヤナギなどに寄って帰る。

4/7

少しだけ目黒川のほとりを通ったら桜が満開だった。

4/8

集英社にて岸尾さん、川又さん、福井さんと、加藤一二三さんと茂木健一郎さんの本(通称ひふみん本)打ち合わせ。

今日だけ竹尾さんが夜の開館に尽力してくださったので、竹尾へ。

(初の試みとのこと)

水戸部さんが差し入れしてくれた猫のラベルのビールやお酒もでて、大島依提亜さん、くどうれいんさんたちにもお会いでき、わいわいとなごやか。

4/9

ミア・カンキマキさん『眠れない夜に思う、憧れの女たち』ラフ。

網中いづるさんの絵がもうとてもいいので、楽しくレイアウト。

吉川トリコさん『余命一年、男をかう』文庫入稿。

原田ひ香さん『古本食堂 新装開店』ラフ。

ヒグチユウコさんのMOE連載「日々の綿」入稿。

4/10

福音館書店・岡田さんとワーナーブラザーズ スタジオツアー(略)ハリーポッターのところへ行く(2度目)。

2度目ならぜんぶ堪能できるかなと思っていたけれど、もう一度一人でくる必要があるな、と思う。

夕方からオペラシティの「宇野亜喜良展」プレビューへ。

ものすごい作品量。宇野さんにも久しぶりにお会いできてうれしい。

これにあわせて『宇野亜喜良クロニクル 新装版』もできたのでぜひ。

(10年前に刊行された本に、その後の10年分が足されておまけもついたお得版です)

4/11

昼前くらいから竹尾へ。

講談社・五十嵐さん、曽小川さんと打ち合わせ、集英社・岸さんと打ち合わせ。

展示会場にいながら、打ち合わせもこなせる日々もあと一日。

4/12

朝、朝日新聞社さんと何かの打ち合わせ(まだ書けない)。

ヨシタケシンスケさんの絵本増刷帯。

旺文社の高校生向けの英語の本の修正。

展示最終日なので、竹尾へ。

佐藤亜沙美さん、吉岡秀典さん、寄藤文平さん、鈴木千佳子さん、アルビレオさんたち、というすてきなみなさんも来てくださり(こんなに同業者と会うこともめったにない)、記念写真を撮った。老後のたのしみにしよう。

ぜんぶぜんぶ終わった後、水戸部さん、竹尾のみなさんと食事。

名残惜しくもみなさんと別れ、まだすこし残っている桜を見ようと思い立ち、千鳥ヶ淵を通って歩いた。

桜は、毎年咲いて毎年きれいだけれど、人生の中で美しかった桜の一位が千鳥ヶ淵で、二位は目黒川。

深夜の千鳥ヶ淵はライティングも消され、まっ暗で、思い出の反芻はむずかしかった。

4/13

SPBS豊洲の歌集を編もうワークショップへ。

今日のわたしはヒグチユウコさんのスカジャン、トランク、ポシェットというセットで、大ファンの人みたいになっていた(大ファンだが)。

4/14

筑摩書房・山本さんのおうちの前で、(今となっては)古い友人たち家族と花見。

子どもたちがみんな大きくなっていてびっくり。

物書きの親を持つ子どもたちが、ちいさいころからクリスマスなど一緒にすごし、中高生になっても、笑い合っているのを見ると、なんだかきゅんとする…。

花はほとんど散っていたけれど、緑はうつくしく、ビールや唐揚げやドーナツやピザや、と宴はかわいさに溢れていた。

4/15

午前中、講談社さん、100%ORANGEさんたちとオンラインにて絵本打ち合わせ。

夜、ひとりで美容院。さみしい。

最近の名久井さん

この日記を書くのが遅れました。

著者プロフィール
名久井直子

ブックデザイナー。1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。2022年BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLDにてBronze Medal受賞。