コアラ日記

この連載について

ごあいさつ

はじめまして。
わたしはふだん本のデザインの仕事をしています。
日記を書いてみたらとすすめられたので、書いてみますが、
たぶんあまり得ることのない日記です。
コアラの絵はヒグチユウコさんが描いてくれたわたしです。
なので、コアラ日記というタイトルにしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

第5回

4月の日記(前半)

2023年7月16日掲載

4/1

川崎のSOLSO FARMへ。

かねてより欲しかった大きなローズマリーとヒグチさんのギャラリーから採ってきたオリーブを植えるための植木鉢など購入。

広大なお店の敷地の中、植木鉢だけが置いてある小屋のような場所で、店員さんから「鳩が巣を作ってるんですよ」と教わり、はじめて鳩のヒナを見る。鳩色じゃなくて、黒い!

人気のあるお店の、人気のないエリアで、巣作り。鳩、見る目ある。

ベルガモットが届いて、ジュースを絞る。

ベルガモットといえば、紅茶のアールグレイの香りづけに使われていて、香りがとてもよいけれど、やや苦味のある柑橘。

香水などの材料にもよく使われている。

(わたしがうっかり買ってしまう香水はベルガモットが入っている確率が高い)

ベルガモットの魅力を知ったのは、何年も前に、ローマの市場で生搾りジュースを飲んでから。

その後、日本で栽培していないものかと調べていたけれど、見つからず、最近になって、いくつかの農園で作っているのがわかり(チュンコ先生情報)、購入してみたのだった。

ジュースは大変美味しく、これだ、これだ、と思う。

思いついて、紅茶(セイロン)に輪切りのベルガモットを入れ、アールグレイになるのかと思ったが、まったくならなかった。そういうことではなかった。

残りの皮や本体でジャムとブランデー漬けを作る。

そして今日は、水鈴社・篠原さんの夢にでたらしい。

偽物の妻夫木くんと一緒にご飯を食べていたそうだ。

夢の中のわたし、昨日に続いて、日々楽しそう…。

4/2

『100年大長編ドラえもん』のどこでもドア型本棚を開封。

やっと本を収納。

カリモク製でとてもかわいい。

4/3

ミシマ社『ビボう六』(佐藤薫乃著)のイラスト候補を考える。

奇妙なものがでてくるわりに、しっかりと京都が舞台なので、あの人がいいなと思い、打診をお願いする。

水鈴社・篠原さん打ち合わせ、その後、左右社へ行って、「SPBS THE SCHOOL 歌集編集ワークショップ 短歌を詠んだら歌集を編もう」の打ち合わせ。

川上未映子さんとカフェで秘密の打ち合わせをし、そのあと、筑摩書房・山本充さん(みっくん)も合流してタイごはん。

4/4

福音館書店にて打ち合わせ。

出発ぎりぎりに荷造りをし、真夜中に羽田空港へ。

飛行機に乗ってから7時間、なにもでないからラウンジでごはんをお食べ、とラウンジ券をいただいたので優雅なご飯を堪能。

おしゃれなサラダとカルパッチョとビールにした。

もっと食べてみたいものがあったけれど、ここで欲張るとあとで後悔するとわかっているのだ。

4/5

日付変わってすぐに飛行機搭乗。

ロンドンのヒースロー空港にてトランジット。20分くらいしかなく、超走る。

お店もなにものぞけず、イギリス英語のヒヤリングに苦労しつつやっとゲートへ。

本当は寄りたい空港の中のお店があって、ソースを買いたかったのだった。

機内で映画「TAR」を観る。ケイト・ブランシェットがとてもよかったけれど、翻訳に疑問が残るところがあり、実際の映画館でも観てみたくなった。

昼ごろアムステルダム着。ホテルに荷物を置いてでかけてみる。吟味しただけあって、ホテルがとても素敵。

ネオンサインがある玄関からかわいかったが、フランクな雰囲気かつ、おしゃれな部屋で、大満足。

アムステルダムに住んでいたことのある横山さんとLINEを交わしつつ散策。オランダソフにもいくつか遭遇。

アムステルダムにくるのは3回目だけれど、ほとんど道を覚えていない自分にびっくり!

夜はホテルのレストランにて、ひとりでおしゃれディナー堪能。

ひとりで夜中に出歩きたくなかったので、レストランも重視してホテルを選んで大正解。

4/6

11時にRIJKS MUSEUMへ。気づくと5時間経っていた。

この旅の目的は、単に、RIJKSで開催中のIRMA BOOMさんの展示が観たかったこと。

日本には巡回してこないだろうなあと、勇気(?)を振り絞った。

同時開催のフェルメール展はチケットがどうしてもとれず、断念したけれど、IRMAさんデザインの図録は購入。

美術館のショップでヒグチユウコさんのバッグを褒められたので自慢をする。

美術館を出ると大雨。キオスク的な店で傘を買う。

アムステルダムはフライドポテトが名物で、あちこちにポテト屋さんが。

せっかくなので買ってみる。大きさがSMLの3種類あり、つい「ミディアム」と頼んでしまう。一番オーソドックスそうなマヨネーズソースを頼んだら、クレープのような逆三角形の入れ物の、とがった底までびっしりソースがはいっており、しかもミディアムは日本の感覚でいう、エクストララージ、だ。

ソースの海からポテトを救い出して食べる始末。手が大変なことになり、そのままホテルに帰る。

なんとか左手は死守していたものの、傘を支えつつ、ポテトを持ったまま(右手はドロドロだ)、部屋に帰るのは、なかなかのミッションだった。

夜はスーパーAlbert Heijnでチーズや生ハムやサラダやワインなど、欲望の赴くままにいろいろ買って夜ごはん。

4/7

早朝から14時ころまで、小学館・今本さんとSF短編の修正やりとり。こちらの14時は日本の21時といったところか。

今日しかまるっとした自由な日はなかったので、早く出かけたかったけれど、仕方がなし。

仕事をしているときに、日本にいる友人からかなしいしらせが入り、何もしたくなくなる。

むりやり靴を履いて外へでて、本屋さん巡りへ出かける。

目に止まったちいさなぬいぐるみを買って、本を抱えてホテルにもどる。

4/8

飛行機に乗る前に、やり残していたHaring屋さんでHaringサンドを食べ、Stroopwafelも食べる。

Haringとはニシンの塩漬けで、前にアムステルダムに来た時に港で食べたのが、おそろしくおいしかったので、ぜひ食べたかったのだった。ニシンのしっぽを掴んで上を向き、頭から食べるラフな食べ物。

Stroopwafelは、焼きたてのワッフルにチョコレートなどが挟まれており、さらに外側にもチョコレートコーティングされ、トッピングも選べる。

またうっかり「ミディアム」と言ってしまい、甘い甘い甘い塊を前に後悔。空港へ移動。

帰りはパリのシャルル・ド・ゴール空港乗り換え。

時間がたっぷりあり、去年パリにきたときにおいしかった1964ビールなどを飲んですごす。

キオスクのような売店にSMINTがあり、大好きなので多めに購入。

説明しにくいのですが、入れ物がとてもいいのです。

4/9

夕方羽田へ着。帰りの飛行機では、巷で話題の「エブリシング・エブリウェア・オール・アットワンス」を観る。

4/10

夜小学館へ、SF短編1巻の表紙や扉の色校など。

4/11

長島有里枝さんの本の本文フォーマット。

立川のPLAY! MUSEUMにて、谷川俊太郎さんの展示のプレビュー。

絵本『えをかく』はこのために復刊作業していたのでした。

『もこ もこもこ』など、谷川さんの朗読作品がとてもよかった。

図書印刷のいつものメンバーさんたちにも会えたり、絵本系編集さんたちともたくさん会えて、こういうのはひさしぶりだなあと思う。

4/12

双葉社・中村さんと『アロハ、私のママたち』(イ・グミ著/李明玉訳)打ち合わせ。

朝鮮からの「写真花嫁」の事実を下敷きにした小説。

わたしはほんとうに知らないことばっかりで、いつも仕事で学ばせてもらっている。

&Premium「あの歳に出合った、大切な映画と本。」のインタビューを受ける。

事前に年代別に読んだ本や映画などをおしらせしていたのだが、わたしの8割くらいは10代でできたような感じ。

提出した10代のリスト(備忘録)。

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10代

【本】

池野恋『ときめきトゥナイト』

安倍公房『壁』

オノヨーコ『グレープフルーツジュース』

堤中納言物語など古典

吉野朔実『少年は荒野をめざす』

吉田戦車『伝染るんです。』

銀色夏生『ロマンス』

長野まゆみ『テレヴィジョン・シティ』

デニス・トラウト『ペンギンのペンギン』

佐々木正人『アフォーダンス 新しい認知の理論』

【映画】

『荒馬と女』

『風の谷のナウシカ』

『風と共に去りぬ』

赤い風船、ミツバチのささやきなど古い映画

雑誌をよく読んでいた時代

olive、月刊カドカワ、広告批評、デザインの現場、illustrationなど。

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結果、10歳のころにみた『風と共に去りぬ』と20代最初の頃の『シンジケート』(穂村弘著)を取り上げていただいた。

ブロンズ新社で『ぼくのサビンカ』(出久根育著)色校。

4/13

早川書房へ行き、ピーターラビット色校。窪木さんはいつもいつも丁寧でおだやか。

その後、小学館・村松さんと『ゆうやけにとけていく』(ザ・キャビンカンパニー著)、中村さんと『ボンバルボン』(キューライス著)、のそれぞれ色校。

ドラルームにて、SF短編集の色校。待ち時間にコナン新聞があったので読む。

4/14

一九堂さんに見学へ。いろんな紙の加工ができるとのことで、いつか見たかったのだった。

書籍に活かせるかどうかは、わからないけれど、大変勉強になった。

4/15

チュンコ先生宅にて、繭子さんとともに、おこわを習う会。

おこわを習いつつ、たくさんのお料理をいただく。

途中、さっとケーキを焼いてくれたことにおどろく。

チュンコのおこわをおもたせに帰る。

著者プロフィール
名久井直子

ブックデザイナー。1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。2022年BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLDにてBronze Medal受賞。