コアラ日記

この連載について

ごあいさつ

はじめまして。
わたしはふだん本のデザインの仕事をしています。
日記を書いてみたらとすすめられたので、書いてみますが、
たぶんあまり得ることのない日記です。
コアラの絵はヒグチユウコさんが描いてくれたわたしです。
なので、コアラ日記というタイトルにしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

第1回

2月の日記(前半)

2023年5月18日掲載

2023/1/28

ヒグチユウコ展設営2日目。

午前中に今井昌代さんの作品集の見本が届いていたのでビリビリ開けて1冊持ってゆく。

お昼は森ビルの上のローソンで買ったのだがあまりにセルフで箸を忘れてしまう。

迷路のような道を取りに戻ろうとしたら、ユウコさんがバキッと箸をふたつに割ってくれた。

うれしかったので写真に撮る。日記も始める。

1/31

今朝方見た夢。

自分のいるところからどんどん細かく砂が湧いてきてしまって、部屋のいたるところまで少しずつ砂に埋まっていく。もちろん自分も。

逢いたい人と、温泉で会うことにした。水の中にいると砂がたまらない。

2/1

夜中にヒグチユウコ展のカフェCANTEEN GUSTAVE の施工。

六本木の森ビルの、すべてが閉まっている世界で、テーブルの柄が貼られたり、エントランスが作られたり。

文化祭のような空気。これから始まるのだがもう終わるのだなあ(準備が)という変な気持ちになる。

2/2

ヒグチユウコ展プレビュー。

2/3

夜、イラストレーションの学校、青山塾の講師。3年ぶりの対面授業。

センセイをするのは、わたしにとっては結構大変なことなのでもう辞めようかなあと毎年思うのだが生徒さんの作品を見ると楽しくて、またやろっかなあと思ってしまう。

先生をするとぐったりしてしまって、22時頃に寝てしまう。

2/4

びっくりすることに、家に上白石萌歌さんがいらっしゃる。

上白石さんがいろんなひとをたずねるという装苑の連載記事。

わたしが装丁を担当した本をいくつか持ってきてくださる。

短歌も読まれるのだなあ。

丁寧にノートに質問など書いてきてくださったり、なんと真摯な働き方なのだろう、と見習わなければと思う。

2/5

夢の中の Instagramで、知らない動物が、満面の笑みでこちらを見ている写真にくぎづけになる。

絵心があればその動物が描けるのに。

昼間にすこしだけ犬を連れた友人に会う。

お茶でも、と思ったけれど、犬はお茶をしたくなさそうなので、手をふって、大竹伸朗展最終日へ。

大人気で整理券配布となっていて行列の末端へ。

あと数人でやっと受付というときに、前のレディが振り向いて「2枚あるんで」と招待券をくれる。

お礼もあまり言えないうちに受付に呼ばれてしまう。レディに幸あれ。

2時間待ちが確定したので、芝生に座って、アリ・スミスのゲラを読む。

暖かな日差しがだんだんとなくなってゲラを捲る手がかじかんできたころ、美術館の中へ。

ここ数日、なんだかとても落ち込んでいるというか、だめだめモードだったのが、整うような感じで、とてもいい展示。

作品の混沌とした密度を浴びているのに頭はすっきりするような。

空間がかなりつながっていて、はっきりとした順路がなく、回遊する人々とともに、大竹さんの巨大な箱の中に、みんなスクラップの材料として放り込まれたような感じに。

大竹さんのライブにも遭遇できたので、嬉しく。

2/6

ひさしぶりに小学館にて打ち合わせ。

またはじまるわくわく感。

帰りにいちばん好きな立派スーパーに寄って精神を補充。

2/7

100%ORANGE さんと装画の打ち合わせ。

オレンジ家の猫にもひさしぶりに会えてうれしい。

台湾の手天品のパイナップルケーキをお裾分けいただいてほくほくと帰る。

2/8

夜明けとともに早起きして掃除をする。

のばしにのばしていた自宅のリフォーム後の記録撮影がとうとうきたのだった。

片付けが間に合うはずもなく、ものを避けてもらいながら、なんとか乗り越える。

建築事務所さんにとっては、作品の記録写真だというのに、申し訳ない気持ち。

お土産に桜新町のヴィロンという店のバウムクーヘンをいただく。

疲れているせいなのか、年齢のせいなのか心身の疲労はげしく、22時くらいに寝てしまう。

水鈴社の編集の篠原さんだけがあまやかしてくれて、泣いてしまう。

2/9

今年の半分をご一緒しそうな本の打ち合わせ。

本の卵はとてもかわいい。

2/10

誕生日。朝は雪。昨年も雪だった、と芥陽子さんが Twitter でおしえてくれる。

ジムにいき、仕事をし、夜は久しぶりにフェリチェリーナで食事をする。

2/11

minä perhonen のフリーマーケットへ。

ミナのスタッフである古い友人のわぽんが出店参加を誘ってくれたのだが、初回は観察にさせてもらうことにして遊びにいく。

皆川明さんが、こないだ小川洋子さんとご飯を食べたよ、とその時の話を聞いて超うれしくなる。

好きな人と好きな人が、話しているなんて。

ひさしぶりにタナチュー(田中景子さん)たちにも会えてうれしい。

フリーマーケットだというのに、持ち合わせがなく、現金をおろしにいって、皆川さんのだしていたカップをふたつ、タナチューの絵の皿を1つ買う。

わぽんおすすめの干し芋、お菓子も少々。

夜、洋食特集の BRUTUS に触発されて洋食にいくも撃沈。

春木屋へ行って、あろうことか油そばを頼んでしまう。

2/12

3時に寝たのに5時に起きて友人の持っている竹藪掃除へ。

春に毎年筍掘りに行かせてもらっているので(マイ鍬も持っている)、冬の手入れも手伝わねばと思ったのだった。

余分な竹を伐採するのだが、切られた竹を運ぶのは楽しい。

空気もよくて心地よい汗もかいて楽しい。

友人がおやつにみかんを持ってきていて、食べた皮を遠くに投げるのがうまくてびっくりした。

水平に遠くまで飛んでいく皮。投げたことなかった…。

気づくとドロボウがびっしりオーバーオールにくっついていて、5種類もいた。

いろんなタイプのドロボウ…。

植物の種としてはアグレッシブなタイプだ。

小田原の楽しみのひとつ、うなぎの友栄の時間まで2時間あり、時間潰しに老舗の梅干し屋さん「ちん里う」(明治時代から並ぶ梅干しはミイラのようだった)やいつもの鈴廣や、干物やさんへ寄って、観光客のような一日。

2/13

雨。家で粛々と仕事。

夕方、はたとチョコレートを買いにゆく。

夜は鈴廣で買ったおでん。

フリーマーケットで買った皆川さん出品の大きな湯飲みに梅干しを一つ入れ、南部鉄器でわかしたお湯をつぎたしつぎたしずっと飲む。うっすらした塩気がおいしい。

2/14

バレンタイン。藤子・F・不二雄先生の SF 短編シリーズの打ち合わせにゆく。

気心の知れただいすきなチームなので、ここぞとチョコレートを渡しまくる。

2/15

午前中から早川書房へゆき、ピーターラビットの色校。

ピーターラビットは本国イギリス版ももちろんあるが、日本でも長く福音館書店から刊行されていて、みんな違ってみんないい、みたいな色の仕上がり。

目の色が違うと色の感じ方もちがうのではないかなと強く思う。

夕方は毎月恒例の美容院。

他にお客さんのいないところで穂村弘夫妻と並んでしゃべりながら髪を切ってもらうという、このうえなくのんびりとした時間。