本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
お酒と本が大好きなのです。
私の悪い癖(のうちのひとつ)が、酔って本を買うこと。
酔って入ったコンビニなどで、お菓子とかカップ麺とかつい買っちゃうこと、皆さんはありませんか? 私はあれを本でやってしまう。
最近では、深夜営業の書店をちょこちょこ見かけるようになり、吸い込まれるように入っては、当然のごとく買ってしまうのです。
先月、同僚とお酒を飲んだ帰り道、私は近所の書店に入りました。
職場と自宅の最寄駅の中間にあるその書店は、昼間に何度も訪れている馴染みのある場所ですが、夜中は全く別の顔に見えるから不思議です。静かな店内を回って、気になっていた本を選び、購入。
で、翌朝、冷静になってみると、すでに持っているっていうね……。しかも4冊買ったうちの2冊。酔っ払っているので、記憶力も判断力も鈍っているのです。
ショックを受けた私は、“飲んだら買うな“と心に刻みました。
そして先日。単身赴任中の夫の家に行った時のことです。
私の夫は、仕事の関係で職場の近くに住んでおりまして……。都心の便利な場所なので、自分の用事ついでに時折立ち寄るのです。
その夜も、友人と外食をした私は、数杯のお酒でふわふわ良い気分になり、夫の家に向かっていました。
もうすぐ日付も変わるという時間ですが、東京は不夜城。たくさんの人が歩いています。
私は例によって、吸い寄せられるように、あるお店の入口に立ちました。
あと数分で夫の家に着くという場所に、小さな本屋さんがあります。
深夜は無人営業になるそのお店は、スマホで登録するとドアが開き、自動精算機でお買い物をして退店するシステム。小さいけれど、話題書や新刊も置いているので、普段からよくのぞいています。
私が働くお店でもよく売れている文庫本を手に、買おうか悩んでいると、自動ドアが開き、30代くらいの女性が入ってきました。
ゆるく巻いた髪に、白のセットアップ。お仕事帰りの食事会だったのか、彼女もほろ酔いの様子で、私が手にした本に目をとめると、「その本、あちこちで目にしますね」と声をかけてきました。
ちょっとびっくりしましたが、小さな店内でふたり、初対面なのに何となく親密な雰囲気が心地よく、私は「とてもよく売れている本ですよ」と答えます。
綺麗な表紙の本をつい買ってしまうと言うその女性に、最近文庫になったばかりの話題作も勧めてみました。
手にしている文庫本を買うことにして、QRコード決済でお会計を済ませた私が、「それでは……」と声を掛けると、彼女は柔らかな声で「おやすみなさい」と答えました。
店を出て振り返ると、彼女が2冊の文庫本のお会計をしているのが見えます。なんだか、夢の中みたいな感覚だったな……。
ふわふわとした足取りで夫の家に着くと、出迎えた夫が、私が手にしている文庫本を見て言いました。
「君、その本、先週も近所の本屋で買って来たよ」
見れば、棚に同じ本が置かれています。
「え……それ、私が買って来た?」と聞くと、夫は真顔で頷きます。
“飲んだら買うな“の誓い、どうやっても守れそうにありません。
昼も夜も、書店は魅力的。
柔らかな声の彼女とも、あの本屋さんでまた偶然会えたらいいなと思うのです。
【彼女におすすめした本】
『一次元の挿し木』
松下龍之介/宝島社

二百年前の人骨のDNAが四年前に失踪した妹のものと一致した。大学院で遺伝子学を学ぶ悠が、鑑定結果を教授の石見崎に相談しようとするが、石見崎は何者かに殺害されてしまう……。
え、これデビュー作ですか? 一気読み必至のミステリー。今注目の作家さんです!!
『汝、星のごとく』
凪良ゆう/講談社

第20回本屋大賞受賞作が、待望の文庫化です! 今さらかもしれないけれど、未読のかたは絶対に読んでほしい!
誰かを愛すること、自分の人生を生きること、選びとること、読むたびにぐるぐると考えてしまう。舞台となる島の美しい景色が目に浮かぶような美しい文章も魅力です。
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第1話いつか子どもと繋いだ手を離すのだから。
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第2話誰かと一緒にごはんを食べる幸せについて。
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第3話いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
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第4話世界一素敵なプレゼント
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第5話25年振りの、夫婦水入らず
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第6話新しい年は、少しだけ新しい自分で。
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第7話大人のダイエットは、健康ありきなのである。
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第8話宿題やったか?お風呂入れよ、歯磨けよ!…終わった? よし、ミステリの世界へ行ってらっしゃい!
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第9話うちの店長は声がでかい。
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第10話ある書店員の平凡な一日。
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第11話お求めの本が見つからない日だってあるのです。
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第12話大切な人の親に会いに行くなら。
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第13話離れて暮らすことになる父の健康を願って。
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第14話古い友人との再会
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第15話うちの店の仕事ができるアイドルの話。
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第16話夫に「大好き」って言えますか?
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第17話直接伝えられないけれど、あなたに読んでほしいのです。
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第18話ふたりで作る、新しい食卓。
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第19話お酒と本が大好きなのです。
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第20話天国にいる、大好きな君へ。
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第21話私にとっては大賞なんですが。
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。