本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
こんな自分でオッケーなんです。
私が働く店は、ベテラン揃い。
書店員としてそこそこの年数を働いている私が一番経験が浅いのだから、めちゃくちゃ安定感があると言えますし、ベテランばかりということはスタッフの年齢層が高いとも言えます。
歳を重ねると、新米の頃には考えてもいなかった問題が出てくるものでして、例えば腰痛とか(スタッフがかわるがわる腰を痛めている)、体力の低下による体調不良とか(まだ若い気で頑張ると一気にくる疲れ)、それはもういろいろあるわけで。
最近よく感じるのが、アルバイトさんたちとの距離感。
新米の頃は、ちょっとお姉さんくらいの感覚でいられたけれど、今や息子よりも年下の子たちと一緒に働いているので、コミュニケーションの取り方もだいぶ変わりました。
「ものを出したらしまえ」とか、「ゴミはちゃんと分別しろ」とかガミガミ注意していると、家か職場かわからなくなりそう。言っていることが“お母さん“と変わらないので、アルバイトさんたちも私のことをあまり怖がっていない……はずです(希望的観測)。
ところで、私が日ごろから心がけていることが、“ほめ言葉の伝書鳩をする“ということ。
直接ほめてもらえたら嬉しいと思うのだけれど、意外と直接伝えるタイミングって少ないもの。でも、スタッフ間のやり取りで「Kさんは、すごく仕事が丁寧だよね」とか「Sくん、すごく成長したね」のようにほめ言葉が出ることは多々あるのです。
それを当人に伝えるのが“伝書鳩“の役目(ちなみに誰にも頼まれてはいない)。
人伝いに褒められるって、実は結構嬉しいですよね。私も「こないだ、○○さんがすごく誉めてたよ!」とか言われたら、めちゃくちゃやる気が出ます。
ある日、レジにいらっしゃったお客さまが「“自分を励ます“的な本はどの辺りにありますか?」と、聞いてきました。
その日、メインレジに立っていたのはアルバイトのHさん。今日はスタッフが少なく、急きょ仕事に出てもらったのです。彼女は安定感のある仕事ぶりで、安心して任せられるバイトさんのひとり。
そして彼女、何だかめちゃくちゃ品があるんです……。品性って今日明日で身につくものではないので、ハタチそこそこで、これはすごいこと。親御さんに、Hさんをどう育てたのかじっくり伺いたいとすら思ってしまいます(笑)。
Hさんが困惑したように私の方を見たので、対応を変わることに。
お問合せのお客さまは、若い女性。レジにいるHさんとさほど変わらない年齢に見えます。
「『頑張れ!』って、自分を鼓舞する感じですか? それとも『こんな自分でもオッケー!』と思える感じでしょうか?」と伺ってみると、女性は「『オッケー』の方です」と笑いました。
ふふふ、その手の本ならたくさんあるんですぜ。
ストレスフルな現代は、言ってみれば「自己肯定感最重要時代」。とにかく自分を誉めて認めて、アゲていかねば戦えないのです。
ほとんど読書らしい読書をしてこなかったと言う彼女。社会人になり、本を読むことの重要さを感じたと言い、今まで読んでこなかった自分に劣等感を感じることがあるそう。
「漫画でもなんでもいいんですよ! 読書は楽しむ気持ちが大事です」と私が言うと、「ちょっと気が楽になります」
いくつか本をご紹介したなかから、読みやすい2冊を選ばれました。
レジに戻ると、Hさんが私に「ありがとうございました!」と頭を下げます。
「いえいえ!」と手を振り、「あ、そういえば昨日、店長がHさんのことをすごく誉めてたよ」と言うと、「え、私の一体何を……?」
「判断が的確で、レジのミスがほぼ無く、お客さまへの対応も丁重で、とても感じが良い」
店長がそう言っていたと伝えるとHさんは照れて赤くなった顔を手でパタパタと仰ぎました。
「嬉しいです。他のバイトさんたちに比べて、私って出来る仕事が少ないなって思っていたので……」
あら、Hさんにも先ほどのお客さまにご紹介した本が必要かしら。こんなにいい子で仕事も出来るのに、自己評価って難しい。
「自分でオッケー!」って自分自身を認めながら、明るく毎日を過ごしたいですよね。
【お客さまにおすすめした本】
『たまに取り出せる褒め』
室木 おすし著 オモコロ編集部(協力)/KADOKAWA

むかーし、誰かに褒められた記憶を、ふと思い出してニマニマしちゃうこと、ありますよね(笑)。いろんな人たちのそんな記憶を集めた、幸せな一冊!
私の「たまに取り出せる褒め」は、若いころお客さまに言われた「あなた、常盤貴子さんに似て綺麗なのに、仕事も出来て最高ね!」です(ちなみに全く似ていません)。
『20代を心ゆたかに過ごすための習慣』
toka/ナツメ社

はるか遠き過去を思い出してみると20代って、仕事も私生活も忙しくて、時間が足りなかった。Vlogですてきな暮らしを発信しているtokaさんが、そんな忙しい20代に向けて、誰でもすぐに始められる素敵な習慣を提案してくれます。もちろん20代でなくても大丈夫! 毎日を自分らしく、心地よく暮らすための指南書です。
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第1話いつか子どもと繋いだ手を離すのだから。
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第2話誰かと一緒にごはんを食べる幸せについて。
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第3話いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
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第4話世界一素敵なプレゼント
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第5話25年振りの、夫婦水入らず
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第6話新しい年は、少しだけ新しい自分で。
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第7話大人のダイエットは、健康ありきなのである。
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第8話宿題やったか?お風呂入れよ、歯磨けよ!…終わった? よし、ミステリの世界へ行ってらっしゃい!
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第9話うちの店長は声がでかい。
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第10話ある書店員の平凡な一日。
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第11話お求めの本が見つからない日だってあるのです。
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第12話大切な人の親に会いに行くなら。
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第13話離れて暮らすことになる父の健康を願って。
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第14話古い友人との再会
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第15話うちの店の仕事ができるアイドルの話。
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第16話夫に「大好き」って言えますか?
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第17話直接伝えられないけれど、あなたに読んでほしいのです。
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第18話ふたりで作る、新しい食卓。
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第19話お酒と本が大好きなのです。
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第20話天国にいる、大好きな君へ。
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第21話私にとっては大賞なんですが。
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第22話こんな自分でオッケーなんです。
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。