本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
天国にいる、大好きな君へ。
ほおずきを手にしたお客さまをちらほら見かけます。
ここ東京は、7月がお盆なのです。
いつも当店にお買い物にいらっしゃるマダムも、今日はモールのお花屋さんで購入したほうずきを抱えていらっしゃいました。
コーラルオレンジのノースリーブシャツにデニム。あえてシャツの反対色にされている、ターコイズの小さなピアスがグレイヘアのショートカットに映えます。いつもおしゃれな方なのです。
私が挨拶をすると、マダムは「今年のはじめに亡くなった猫が帰って来るから、これから主人とお迎えの準備よ」とおっしゃいます。
そういえば、昨年の今時期に老猫の介護に関する本をお探しだったっけ。ノルウェージャンフォレストキャットの男の子で、その時に写真も拝見したのでした。
名前は……、そう、ヤンソンくん!
「そうでしたか……。ヤンソンくん、天国にお引越しされたんですね」
「あら、名前を覚えてくださってたの!」とおっしゃるマダム。
いえいえ、そんな……。実はわたくし、無類の動物好きでして、人さまのペットのことも一度聞けばかなりしっかりと記憶出来るのです(そして、勘違いなさらぬようお伝えしますと、それ以外のことについては、人並み以下にしか記憶出来ません)。
「あの時に買った本、とても役に立ったわ。ありがとう」と微笑むマダムに、私は言いました。
「来月、すごく素敵な本が出るんです。絶対にお好きだと思うので、良かったら予約されませんか?」
SNSでフォローしている大好きな作家さんの新作が出ると聞いて、私自身も予約し、楽しみに待っています。ポケットからスマホを取り出し、ネットで公開されているお話をお見せすると、その短いお話を読んだだけで涙腺が緩んだマダムは、ハンカチで目尻の涙を拭いながら、「予約するわ!」
さらに、私と同じように動物好きな彼女に、最近面白かった本をご紹介するとお買い上げに。
予約した本を楽しみに、お帰りになりました。
それから数週間。8月に入って、書店は一気に夏の雰囲気に。
毎年恒例、夏の文庫フェアとコミックフェア、週末には夏休みのお子さま向けにクラフトのワークショップなども開催していて、スタッフは大忙しです。
店は年中無休なのですが、私は今年、月の真ん中で連休をいただきました。
今は東京に住んでいるけれど、私が生まれ育った土地のお盆は、8月。
今年のお盆は、我が家にも愛犬が帰って来ます。
春に12歳で旅立った、ゴールデンレトリバーの男の子。長い闘病生活を終え、今は天国で走り回っていると、私は信じているのです。
私もマダムのように、お盆の準備をしなくては。
仕事を終えて家に帰ると、お休みだった夫がペティナイフを手にズッキーニで何やら細工していました。
「きっとスマートな馬に乗るのは怖いだろうから、せめて乗りやすそうな馬を作ってあげようと思って」
夫は、精霊馬をズッキーニで作ろうと言うのです(笑)。
40キロ以上ある犬だから安定感が必要だ、と試作して、「これなら怖くないかな」「いや、馬になんて乗ったことないんだから怖いでしょ」「もういっそ馬車にした方がいいかな」と、ああだこうだと言い合います。
試作を終えたズッキーニを刻んでパスタを作り、夕ごはん。
私は、いつも愛犬が寝そべっていた足元を見つめ、「早く帰って来ないかな」と、小さく呟きました。
【マダムにおすすめした本】
『天国での暮らしはどうですか』
中山 有香里/KADOKAWA

愛犬が旅立ってから、私は毎日タイトルと同じ言葉を心の中で問いかけています。
もちろん答えは返ってきませんが、どうか今、愛犬がいる場所がこんな素敵な場所でありますように。大切な誰かを失った、全ての人に読んでほしい!
現役看護師でイラストレーターの著者が描く、優しくあたたかい天国の物語。
『聴診器からきこえる 動物と老いとケアのはなし』
小菅正夫/中央法規出版

動物園で獣医師として働き、50年以上の長きに渡り、現在も動物園に関わっている著者が教えてくれる、私たちが知らない動物園の話。動物の面白い生態から動物福祉や老いた動物のQOLについても知ることができます。私は、飼育員さんの看取りのお話が特に印象深かったです……!
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第1話いつか子どもと繋いだ手を離すのだから。
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第2話誰かと一緒にごはんを食べる幸せについて。
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第3話いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
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第4話世界一素敵なプレゼント
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第5話25年振りの、夫婦水入らず
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第6話新しい年は、少しだけ新しい自分で。
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第7話大人のダイエットは、健康ありきなのである。
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第8話宿題やったか?お風呂入れよ、歯磨けよ!…終わった? よし、ミステリの世界へ行ってらっしゃい!
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第9話うちの店長は声がでかい。
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第10話ある書店員の平凡な一日。
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第11話お求めの本が見つからない日だってあるのです。
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第12話大切な人の親に会いに行くなら。
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第13話離れて暮らすことになる父の健康を願って。
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第14話古い友人との再会
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第15話うちの店の仕事ができるアイドルの話。
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第16話夫に「大好き」って言えますか?
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第17話直接伝えられないけれど、あなたに読んでほしいのです。
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第18話ふたりで作る、新しい食卓。
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第19話お酒と本が大好きなのです。
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第20話天国にいる、大好きな君へ。
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第21話私にとっては大賞なんですが。
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。