本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
実は工作が得意なのです。
「あの飾りって、店員さんが作ったんですか?」
小さな女の子を連れた女性が指差す先には、モケモケした生地で出来た、動物のキャラクターが飾られています。
私が「はい。気に入っていただけましたか?」と答えると、女性は「あのキャラクター、大好きなんです。他の店員さんに聞いたら、くせ毛の女性の店員さんが作ったとおっしゃっていたので、探して話しかけてしまいました」
そう。わたくし(くせ毛の女性店員)は、何を隠そう、工作得意系書店員なのです。
書店員として、”ここが強み!”と言えることはほぼありませんが、工作だけは人並み以上に出来る。今の店で働くようになり、工作関係を一手に引き受けていたら、いつのまにか私の制作物がどんどん増え、今や店中に展示されています。
皆さんも、お近くの書店で、普段より力を入れて飾り付けされている様子をご覧になったことがあるかもしれませんね。
実はあれ、水面下で装飾コンクールが開催されていたりするのです。
飾りつけにより、本が目立って、売上が伸びるのはもちろん、参加することで、その本の入荷数の希望を聞いてもらえるようになったりと、書店側にも大きなメリットがあります。
「え? 入荷数って本屋が決められないの?」とお思いのかた、非常に良いご指摘ですね!
本の発行部数には限りがあるため、各書店の希望を全部聞いていると、大人気の本は足りなくなってしまいますよね。そのため、希望からだいぶ減数されて入ってくる、なんてこともあり。
装飾コンクールは、飾ったはいいけど売る本がない! となると困るので、希望の冊数を聞いてもらえることが多いというわけです。
(もちろん、全ての本において希望した分が入ってこないわけではなく、書店から発売前にFAXで注文書を出したり、出版社の営業さんに希望を伝えたりして、店に並べたい本を注文しています。)
コンクールやイベントは、本をたくさん売る良い機会! 参加するからにはしっかり作りって売りたいので、私は毎度真面目に工作を楽しんでいます。
お客さまが「あの飾り、不要になった時に引き取ることは出来ませんか?」とおっしゃいます。
そんなに気に入ってくださって、ありがたい!!
でも、店内のものは例え不用品であっても差し上げることは出来ないので、丁重にお断り。
「ごめんなさい。ダメ元でも聞いてみないと気が済まなくて」と言うお客さまに「こちらこそ、お気持ちはすごく嬉しいのですが、お役に立てずに申し訳ございません!」
深々とお辞儀をしてお詫びします。
お帰りのお客さまが見えなくなると、近くで本を選んでいお二人連れの女性が話しかけてきました。
「あの……工作はお家でされてるんですか?」
私は「そうですね、全部お店で出来たら良いんですが、大きなものは自宅で作って、お店に持って来てから最後の修正をすることが多いです」
本来であれば仕事中に全て作るのが良いのでしょうけれど、私にとって工作は趣味。家でじっくり楽しみたいのです。
「実は私たち、一緒に家を借りていて。家を可愛くしたくていろいろやってみているんですけど、作業場所も狭いし、なかなかうまくいかないんです」
おふたりは幼稚園からの幼馴染で、お互いの職場へのアクセスの良さから、一緒に家を借りてこの町に住んでいるのだそうです。
若い女子が、居心地の良いお家づくりを目指して奮闘している様子を想像して、私は微笑みました。
「狭くても、工夫次第でいろいろなことが出来ますよ」
可愛いインテリアの実例集や、可愛らしい暮らしの本やエッセイを紹介すると、そのなかから何冊か買ってくださることに。
共通のお財布だという小さな小花柄のがま口からお金を払って、楽しそうに帰っていくふたりが可愛らしく、母のような気持ちで見送った、その翌日。
モケモケのキャラクターの装飾コンクールの結果が通知されました。
結果は……受賞ならず。
評判も良かったから、結構自信があったのになぁ……。
きっと、全国の書店員が頑張って大作を作ったのでしょう。
まぁ、また機会はやってくる。「次回こそきっと!」と心に静かな炎を燃やす私なのです。
【お客さまに紹介した本】
『おさまる家 井田千秋 作品集』
井田千秋/実業之日本社

『家が好きな人』が話題となった著者の最新作。このかたは、本当に家がお好きなのだと思う。家の中の絵の細部にまで愛情が詰まっているように感じます。漫画あり、エッセイあり、それでいて画集のようでもある。なんともお得な一冊。読むと、「家を素敵に変えたい欲」がむくむくと芽生えてきます!
『帰りに牛乳買ってきて 女ふたり暮らし、ただいま20年目。』
はらだ 有彩/柏書房

はらだ 有彩さんの‟女性観”は、いつも冷静で現実的で、でも前向きだ。それってなぜだろう? の答えが、このコミックエッセイで得られた気がします。誰かと普通に、楽しく暮らすことの尊さと、それが他の誰かの”普通”によって揺らぐ気持ち。ライトなタッチで軽快に、現代社会にメッセージを投げかけている、今読むべき一冊。
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第1話いつか子どもと繋いだ手を離すのだから。
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第2話誰かと一緒にごはんを食べる幸せについて。
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第3話いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
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第4話世界一素敵なプレゼント
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第5話25年振りの、夫婦水入らず
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第6話新しい年は、少しだけ新しい自分で。
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第7話大人のダイエットは、健康ありきなのである。
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第8話宿題やったか?お風呂入れよ、歯磨けよ!…終わった? よし、ミステリの世界へ行ってらっしゃい!
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第9話うちの店長は声がでかい。
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第10話ある書店員の平凡な一日。
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第11話お求めの本が見つからない日だってあるのです。
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第12話大切な人の親に会いに行くなら。
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第13話離れて暮らすことになる父の健康を願って。
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第14話古い友人との再会
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第15話うちの店の仕事ができるアイドルの話。
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第16話夫に「大好き」って言えますか?
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第17話直接伝えられないけれど、あなたに読んでほしいのです。
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第18話ふたりで作る、新しい食卓。
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第19話お酒と本が大好きなのです。
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第20話天国にいる、大好きな君へ。
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第21話私にとっては大賞なんですが。
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第22話こんな自分でオッケーなんです。
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第23話平成という、パワフルで切なくて、エモい時代。
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第24話あの日のお客さまに伝えたい「絶対無くさないからね!」
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第25話いい大人ですが名刺交換がうまくできません。
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第26話楽に働くって、どういうこと?
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第27話最近、押しが出来まして。
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第28話お隣さんとのクリスマスパーティー
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第29話イケメンの夢が暗示するものは。
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第30話夢に破れても、人生は続くから。
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第31回実は工作が得意なのです。
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。

