本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。
年に一度のお楽しみ。
30分前からくり返し鳴り響くアラームをまた止め、「そろそろ起きねば……」と、うとうとしながら考えます。
朝が弱い私にとって、スマホのスヌーズ機能はとても便利で、反面憎らしい存在。朝から何度も鳴るんじゃないよ、全く!(当然ながら、設定しているのは私自身なので、スヌーズ機能に罪はなく、完全な八つ当たりです)
時刻を確認しようとスマホのトップ画面を見ると、今日のスケジュールが目に入りました。
“店休日“。
あ、今日はお休みなんだった!
週のど真ん中でお休みなんて、嬉しすぎるぅ!
私が働く書店はショッピングモールの中にあります。基本的に年中無休なのですが、年に一日だけ、点検作業のためモール全体がお休みとなるのです。そして、この年一の店休日、スタッフたちが集まり恒例の食事会(という名の酒盛り)を開催しているのでした。
普段も仕事帰りに同僚と食事に行くことがありますが、何しろ年中無休のお店ですから、全員集まることは不可能。私が仕事を終えてビールのジョッキを傾けている間にも、遅番の誰かが本の山と格闘しています。
ですが、お店が休みとなれば、全員でジョッキを傾けることが出来るわけで。
今年は、新人さんが二人入ったこともあり、新メンバー含めての飲み会に私は張り切って、食べ放題のお店を予約したのでした。
さて、食事会は正午に始まりました。翌日は朝から仕事なので、例年、昼飲み会なのです。乾杯の後、食べ放題とあって、次々にお皿が運ばれてきます。
お腹いっぱい食べても大丈夫なよう、ゴムのスカートを履いて来た私の前には、おそらく同じ思惑でしょう、ふんわりしたワンピース姿のKさんが座り、隣りのNさんと今話題のアニメ映画の話をしています。
反対隣りでは、新人さんたちが慣れない仕事について、先輩にコツを聞いている。
そしてやはり、お話の中心は本のこと。本好きが集まって、話題の本について語れるのは、やはり幸せな時間です。
その後、話は大きな文学賞の話にうつり、全員で予想をし、さらには最近の面白かったお問合せの話へ。
Nさんが「先週、森田さん、めちゃくちゃ困ってたよね、『山』のお問合せで」
「あぁ、ありましたね!」
ご高齢の男性のお客さまなのですが、言葉じりに向けてだんだんお声が小さくなってしまうかたで、肝心な部分が聞こえないのです(笑)。
例えば、「○日に入荷いたしますが、入荷時の連絡はご入用ですか?」と伺うと、お返事の「いり」までは聞こえるのですが、そのあとの音量が小さく「ます」なのか「ません」なのかがわからない。日本語って、最後まで発音しないと意味が正反対になる言語なのよ。
お問い合わせの本のタイトルも、末尾が聞き取れないため、失礼ながら何度も聞き返してしまいました。
お客さまが「いわなやま」とおっしゃり、私が「山の本ですか?」と聞くと頷く。
けれどそんな山の名前の本はなく、もう一度聞くと「やま」のあとにもう一度口が動いているように感じるのです。……が、わからん!!
何度かのやり取りの最中、ちょうど通りかかったNさんが「イワナヤマメ!」と答えを導き出してくれたのでした。(そして、山じゃなくて魚の本じゃんか! と思ったけど、冷水に生息する魚だけあり、「山についての本」と言えなくもなかった)
Nさんが来てくれなければ、永遠に存在しない山の本を探す羽目になっていたわ。
新人さんたちも、近いうち、お問合せに困り果てる日がくるでしょう。
「お問合せの洗礼を受けてからが本番だからね」と、私は新人さんに笑いかけました。
散々食べて飲んで喋って、声がガラガラ。
二軒目を出ると、外が暗くなっていました。
「さ、明日からまた頑張りましょう!」
私が言うと、「元気に言うけど、明日の荷物は二倍だよ……」と、悲しいお知らせが。
そう。今日お休みだった分、明日は、今日と明日を含めた二日分の品出しが待っているのでした。
一日休むためには、どこかで二倍働かねば帳尻が合わぬ。
本屋って、停滞が許されない商売なんです。
「ヒーーーー! 明日も頑張りましょう!!」
私は、悲鳴混じりに拳を突き上げました。
だって、今日お店に並ぶ本を楽しみにしていたお客さまがいらっしゃっるんですもの。
【飲み会で話題になった本】
『無敵化する若者たち』
金間大介/東洋経済新報社

私も若者たちについての解説を読まねばならない歳になったのか……と思いつつ読み始めたら、納得の連続でした! 最近の若者に感じる「なぜ」に答えが出たことで、私たち上の世代が日々感じている辛い部分も可視化されたような気持ちに。日々戦う私たち世代と、自己防衛に長けたZ世代。全然違う彼らを知るきっかけになるかも。
『友達だった人 』
絹田みや/光文社

知らない人でも、側にいなくても、誰かの心をそっと撫でることが出来る。それは、SNSがある現代だからこそ可能な、優しさの伝え方です。
SNSで話題になった表題作が素晴らしすぎて、入荷と同時に買いました。スマホで読んだけれど、紙の本で手元に置きたくなる、極上の物語です。ぜひ、あなたも。
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第1話いつか子どもと繋いだ手を離すのだから。
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第2話誰かと一緒にごはんを食べる幸せについて。
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第3話いくつになってもきれいになる努力をする権利はあるのだ。
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第4話世界一素敵なプレゼント
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第5話25年振りの、夫婦水入らず
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第6話新しい年は、少しだけ新しい自分で。
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第7話大人のダイエットは、健康ありきなのである。
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第8話宿題やったか?お風呂入れよ、歯磨けよ!…終わった? よし、ミステリの世界へ行ってらっしゃい!
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第9話うちの店長は声がでかい。
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第10話ある書店員の平凡な一日。
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第11話お求めの本が見つからない日だってあるのです。
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第12話大切な人の親に会いに行くなら。
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第13話離れて暮らすことになる父の健康を願って。
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第14話古い友人との再会
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第15話うちの店の仕事ができるアイドルの話。
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第16話夫に「大好き」って言えますか?
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第17話直接伝えられないけれど、あなたに読んでほしいのです。
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第18話ふたりで作る、新しい食卓。
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第19話お酒と本が大好きなのです。
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第20話天国にいる、大好きな君へ。
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第21話私にとっては大賞なんですが。
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第22話こんな自分でオッケーなんです。
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第23話平成という、パワフルで切なくて、エモい時代。
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第24話あの日のお客さまに伝えたい「絶対無くさないからね!」
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第25話いい大人ですが名刺交換がうまくできません。
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第26話楽に働くって、どういうこと?
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第27話最近、押しが出来まして。
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第28話お隣さんとのクリスマスパーティー
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第29話イケメンの夢が暗示するものは。
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第30話夢に破れても、人生は続くから。
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第31回実は工作が得意なのです。
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第32話年に一度のお楽しみ。
1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。

