自分も子育てでいろいろ悩みながら、子どもの問題について親のカウンセリングを長年続けてきました。また、地域の診療所で外来診察や訪問診療も担当しています。育児の悩みや家庭でのコミュニケーション、そのほか臨床の現場で出会ったこと、考えたことなどを書いてみます。
お父さんをどうしたらいいでしょう?
小学6年生の女の子からの質問
先日、あるところでオンライン講演を行った。そこでとてもうれしいコメント(質問)をいただいた。なんと小学6年生の女の子からの質問で、お母さんがチャットに書きこんでくれたものだった。
一緒に聴かせていただいてる小6の娘からの質問です。
「お父さんがこういうためになるお話を聞いても、『それはその人のことだから俺らには関係ないだろう』と言うばかりです。どうしたらいいでしょう?」
(私の返答)
過去にいただいたすべての質問やコメントの中でも、ベスト5に入るほどのうれしいコメントだと思いました。
お父さんをどうしたらいいかについては、僕にはなんとも答えられません。
「どうしたらいいでしょう?」と、カウンセリングで聞かれても、「こうしたらいいですよ」と返すことは、まずないのです。できないのです。あなたの状況をいちばん知っているのはあなただから。なので、もしあなたがカウンセリングに来られて、この質問を僕にしたとすれば、「あなたは、どうしていくつもりですか?」ということを、僕のほうから逆に質問して、そこから一緒に考えていくことになるかなぁ、と思います。
でもそれよりも、まずは、あなたのこの質問が、僕にとってどれだけうれしいものであるか、どれだけ励まされるものであるか、それを、ちゃんとあなたに伝えたいと思います。ありがとうございます。小学生のあなたが、「ためになる話」だと思ってくれたということ、そして、それを、わざわざ伝えてくれたということが、すごくうれしいです。
この人に聞いてみようと、思ってもらえたということが、なんというか、誇らしいです。あなたが(勇気をもって、もしくは、面倒くさがらずに)、反応を送ってくれたということが、私をすごく幸せな気持ちにしました。今後も、もうしばらく、こういう講演を続けていきたいと、今思いました。
お父さんをどうしたらいいかについては、申し訳ないのですが、私には(自分でも残念なことですが、かっこうつけて言えば、ジクジたる思いですが)なにもいいアドバイスがありません。しかし、あなたの質問の言葉と、質問をしてくれたその行動は、どれだけ私を励ましたか。ありがとうございます。
過去のベストコメント
ちなみに、今までにいただいたコメントのなかでベストのコメントは、京都府の北部の小さな町で講演したときにいただいたものです。自著『去られるためにそこにいる』にも紹介した話ですが、ここでも書いておきたいと思います。その数年前にも同じ場所で講演をしました。そのときもそのご夫妻は来てくださっていました。講演のあとの質問が出尽くしたところで、奥様のほうが挙手されて、次のようにコメントをくださいました。
「当時、私たちの息子は中学生で不登校でした。私と夫はなんとか学校に行かせようと四苦八苦しておりました。でもあのときに講演を聞いて、子どもを動かそうとするのをやめました。そこからほとんど3年間、子どもは家からも出ないような暮らしでした。その後、自分で通信制の高校を見つけてきて通いはじめました。今年から大学生になって、家を出て一人暮らしをしています。夏休みに帰ってきたとき、子どもが私たちに言ったんです。「あの3年間、何も言わずに僕を家にいさせてくれたやろ。あの3年間のおかげで僕は人間になれたんやと思う。ほんまにありがとうな」って。それを一言報告したくて、今日は来ました」
その光景を今思い出しても、胸が熱くなります。私の臨床の原点になったコメントでもあります。こういう言葉は映像の記憶のままで、宝物としてこころの中にずっと生きています。自分自身の子育ての苦しいときや、カウンセリングの困難な場面などで、私を支え続けてくれています。
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第1回小言を言わないということ
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第2回鼻血の教訓
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第3回誰が息子に現実を教えてくれるのですか
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第4回子どもを本当に励ます言葉
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第5回今のままではダメなんですか?
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第6回乾燥機は使わないで
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第7回ある幸福な一日
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第8回吹雪の中を
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第9回この子はどんな形の木になるのだろう
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第10回鼻クソを拭かせてください
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第11回徳島で一番の蕎麦
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第12回迷ったり悩んだりするあなたを信じます
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第13回なぜ子どもが話をしてくれないのか
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第14回孫もワンオペ
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第15回誰の気持ちが中心になっていますか?
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第16回これだってすごくジェンダーな状況だよ!
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第17回お父さん!お母さん!キャンプに行きませんか?
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第18回規則正しい生活
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第19回子どもの成長を尊いと感じること
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第20回とうちゃんのようになりたいと思います
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第21回娘が家にお金を入れない
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第22回お父さんをどうしたらいいでしょう?
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第23回結果ばかりにこだわる子ども
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第24回山空海温泉のこと
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第25回子どもの機嫌をとることへの罪悪感
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第26回ごはん一杯おかわりするならゲーム15分
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第27回理由も聞かずに味方になる
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第28回いわゆるゼロ日婚約の知らせ
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第29回子どもを叱るとき暴力はダメ
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第30回「豚の珍味出てる」というLINE
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第31回ゼッケンは毎年、つけ替えること
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第32回反抗期を長引かせる方法
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第33回この不幸を手放したくない?
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第34回あえて甘えさせるという育児のぜいたく
1965年東京都生まれ。医師・臨床心理士。京都大学医学部卒業。文学博士(心理学)。4人の男の子の父親。
現在は、奈良県・佐保川診療所にて、プライマリ・ケア医として地域医療に従事する。20年以上にわたって不登校やひきこもりなどの子どもの問題について、親の相談を受け続けている。
著書に『子どもを信じること』(さいはて社)、『子どもが幸せになることば』(ダイヤモンド社)、『去られるためにそこにいる』(日本評論社)、『子どもの不登校に向きあうとき、おとなが大切にしたいこと』(びーんずネット)がある。