自分も子育てでいろいろ悩みながら、子どもの問題について親のカウンセリングを長年続けてきました。また、地域の診療所で外来診察や訪問診療も担当しています。育児の悩みや家庭でのコミュニケーション、そのほか臨床の現場で出会ったこと、考えたことなどを書いてみます。
結果ばかりにこだわる子ども
相談のメール
うちの子どもは小学生で野球のクラブに入っています。そのチームがある大会に参加しました。子どももチームの仲間もよくがんばり、準優勝でした。決勝で負けた直後は、みな泣いていましたが、そのあとは笑顔も見られて、チームでの写真もみないい表情でした。ところが、家に帰ってからは、決勝で負けたのは全部自分のせいだと息子は泣き出しました。もうクラブもやめたいと言います。「よくがんばっていたし、いいプレーができていたと思うよ」と私は伝えましたが、すこしも伝わらない感じです。ミスをしたわけでもありませんし、ほかの子と比べて息子だけが打てなかったというようなこともありません。しかし、息子は自分がもっとがんばっていれば優勝できたのに、それができなかった。優勝できなかったらゼロだという感じなのです。
試合はひとつの結果であって、スポーツには仲間と一緒にがんばったり楽しんだりするという要素もあると思います。こういう場合、どう説明したら、結果ばかりにこだわる子どもの性格を変えられるでしょうか。このままでは、何をやっても楽しむことがむずかしく、結果ばかりを求めて苦しむことになるのではと不安です。
私の回答
ポイントは、かなりはっきりしていると思います。
>こういう場合、どう説明したら、結果ばかりにこだわる子どもの性格を変えられるでしょうか。
>このままでは、何をやっても楽しむことがむずかしく、結果ばかりを求めて苦しむことになるのではと不安です。
結果にこだわるのは息子さんであって、親であるあなたではないですね。仲間と一緒にがんばったり楽しんだりするのも、息子さんであって、あなたではない。でも、目の前で子どもが悲しんでいるのは、親にとってもつらいことです。早くなんとかしたい、この状況から逃れたいと思うのは、ある意味当然です。子どもの考え方を変えたいとかも、そこから脱出する方法のひとつですね。
でも、その状況で、あなたがまずやるべきことは、がんばったり、楽しんだり、失敗したり、悲しんだり、絶望したりする子どもを、受け入れることだと思います。現実の世界ですから、当然、そういうことはこの先もいくらでも起こってきます。いろいろな体験と、それにともなう感情を味わっている子どもの、そばにいてやる(といっても、ずっとべたっと一緒にいるのではなく、気持ちを寄せるということ、言わずもがなですが)ことだと思います。
そういう試練に出会って成長していく子どもを、見守ることですね。子どものそばで、幸せなときも、そうでないときも、見守り支える。子どもに何をさせようか、なにをさせないようにしようか、ではなく、自分がどうあるべきか、それを考えるべきだと思います。
具体的にどうするのか、について
どう「したら」いいでしょうか、という質問であったのに、どうあるべきか、どう「いたら」いいか、を答えてしまいました。そういう場面で、私であれば具体的にどうするかを、付け加えておきます。実際に、私がそうできてきたわけでもないので、これは理想です。もし、子どもが「自分のせいで負けた! もうやめる!」と泣いていたら、そばにいて、子どもをなぐさめると思います。「つらかったな」「惜しかったな」などと、背中に手を当てたりしながら。そこでは、「そんなふうに考えなくていいよ」とか「もう泣かなくていいよ」などと、もちろん言いたくはなるでしょうが、がんばって言わないようにします。そうして、黙ってそばにいるでしょう。こんなことでは、この先、楽しめないのではないか、など、まだ来ぬ先のことを考えたりせず、一所懸命に取り組んで試合に負けて泣いている(そういうとても貴重な経験をしている)子どものそばで、その気持ちを感じとろうと、近くにいると思います。
「自分のせいで負けた!」と声に出しているということは、親に聞いてもらうという気持ちもあるのでしょう。かまってほしくなければ、黙って自分の部屋で声を出さずに泣くでしょう。親の近くで、話して、泣いているということは、親の助けを、親からの温もりや支えを、子どもは欲しいと思っているのでしょう。求めてもらえるありがたさを、噛み締めながら、私であればそばにいたいと思います。そんなにやりがいのある時間、場面はそうそうないかもしれないので、1時間や2時間は覚悟して、そこにいると思います。(親が覚悟してしまえば、意外と20分ぐらいで、子どものほうはお腹が空いたりして気分が変わるかもしれませんね。)
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1965年東京都生まれ。医師・臨床心理士。京都大学医学部卒業。文学博士(心理学)。4人の男の子の父親。
現在は、奈良県・佐保川診療所にて、プライマリ・ケア医として地域医療に従事する。20年以上にわたって不登校やひきこもりなどの子どもの問題について、親の相談を受け続けている。
著書に『子どもを信じること』(さいはて社)、『子どもが幸せになることば』(ダイヤモンド社)、『去られるためにそこにいる』(日本評論社)、『子どもの不登校に向きあうとき、おとなが大切にしたいこと』(びーんずネット)がある。