書店員は見た!

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この連載について

本が手元にないと困るのです。例えばお風呂、歯磨き中、はたまたトイレでも読書せずにはいられない。
そんな私がひょんなことから書店員になりました。書店員って落ち着いたイメージでしたが、なってみたら全然違う! 日々、思いもよらぬ問合せに大わらわ!!
そんな書店員の日々、ちょっとのぞいてみませんか? 読めばあなたも書店に行きたくなるかもしれません。
※ 実際のエピソードから、個人を特定されないよう一部設定を変更しております。

第33話

どうしたら文章がうまくなりますか?

2026年2月28日掲載

 平日の夕方の店内は、学校帰りの学生さんたちや、習いごと帰りの親子で賑わっています。

 私は、さっきから新書の棚をうろうろしている女子高生が気になっていました。

 制服のチェック柄のスカート。ツヤツヤの長い髪をシュシュで束ね、スクールバッグには最近人気の青いパペットのチャームが揺れています。そしてきれいに整った前髪と真剣な目。そういえば「JKは前髪が命!」と、うちの娘が言ってたな……。

 新書からビジネス書の棚に移動して、また新書に戻り、本を手に取ってはペラペラと流し読みして戻している彼女。

 学校の課題で必要なのかしら。私は棚を整えるふりをしながらそっと近づきました。

 高校生と新書。

 意外な組み合わせに思えるかもしれませんが、最近では読んでレポートを書く課題が出ることもあるそうで、本選びで悩む子からお問合せを受けることも。

 近くで棚を整えていると、彼女がスッと息を吸い込む音が聞こえました。私が顔を向けると、「すみません、本を探しているんですが」

 意を決して話しかけた、という雰囲気が微笑ましい。

「はい、どんな本をお探しですか?」

「文章が上手くなる本を探しています」

 文章が上手くなる本。最近のトレンドのひとつと言えるかもしれません。

 SNSが発達し、誰でもすぐ作品を発信出来る時代です。日記や手帳などに、手書きでイラストや文章を綴るための指南書も売れているし、日付と曜日しか入っていない文庫本も自由に使えると大人気で、売り切れと再入荷を繰り返しています。

 人間とは、とかく何かを書き記したい生き物なのですね。

「文章の書き方ですね。新書でお探しですか?」

 新書の棚にいらっしゃったのに、何か目当てがあるからかもしれないと思ったのです。 

 彼女は、最近のベストセラーのタイトルを口にすると、「でも、今回ほしい内容とはちょっと違うんです」

 彼女は、高校の文芸部の部長さんだそう。「まだ、なりたてですけど……」と、はにかみます。

「1年生に、めっちゃ面白い文章を書く子が入ってきて、ちょっと焦ってしまって」

 おぉん、わかるよ……。

「どうしたら上手くなれるのかって先生に聞いたら、とにかく本をたくさん読めって。本当に読むだけでいいのかなって」

「先生のおっしゃるとおり、本をたくさん読むのは大事ですよね。たぶん、面白い文章にするためのコツやテクニックは、文章をたくさん読むと得られるでしょうし」

 私が答えると、「書店員さんはやっぱり文章を書くのが上手なんですか?」

 真顔の彼女に、私は笑ってしまいました。

「本好きが多いので、やっぱり文章が上手いかたはたくさんいますよね。ポップも書くし」

 文章が上手くなりたい気持ちは、痛いほどよくわかる。私自身も、未熟な自分の文章に悩んで、今年の初詣では「人に面白いと思ってもらえる文章が書けますように!!」と願ったほどです。私のように神頼みではなく、実践しようとしているのだから、文芸部部長のJKよ、キミはエライ。

 そして、私に聞いてラッキーだったね!

 同じ悩みを抱える者として、オススメしたい本、たくさんあるんだぜ!

「文章にたくさん触れるのが、結局一番の近道だと思いますよ」

 普段の読書傾向を聞いてみると、物語が大好きとのことで、他のジャンルはあまり読まないそう。

 試しに、最近面白かったエッセイを勧めると、数ページ読んで即決してくれました。

もう一冊は、やはり私が読んでわかりやすさに感動した指南書を。若い世代にも馴染みのある作品もたくさん解説されているところが、私の推しポイントです。

 長い髪を揺らし、小走りで帰っていく彼女に「頑張れ!」と念を送ります。

 たくさん読んで、たくさん書く。

 上手くなる近道はないけれど、面白い文章のヒントはこの世の中にたくさん転がっている気がします。周りの人にも、日々の生活のなかにも。

 とか偉そうに言ってみたけど、今年私がしたことはまだ神頼みだけなわけでして。

 あーん、文章、上手くなりたいよー! お願いだよ神さまー!

【女子高生が買って行った本】

『文体のひみつ なぜあの人の文章はつい読んでしまうのか?』

三宅香帆/サンクチュアリ出版

今、文章を語らせたら彼女の右に出る者はいないのでは? とんでもなく忙しいだろうにどんだけ本を出すんだ! と驚く執筆量ですが、すごいのはその全部が”わかりやすく、読みやすく、腑に落ちる内容”であること。本書で私が得られた納得感を、ぜひあなたにも体感してほしい!

『わざわざ書くほどのことだ』

長瀬ほのか/双葉社

収録の「古生物学者の夫」を読んだとき、震えました。そう、これ! 私が読みたい(そして書きたい)のは、こういうエッセイ!! 売れ行きも絶好調で、私の手柄でもないのに販売時にニヤニヤしています。なにげない日常を、身近な家族を、こんな形で切り取れるのは、著者の物事を面白がる力と、そして文章力の成せる技だと思う。

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著者プロフィール
森田めぐみ

1981年茨城県生まれ。書店員。転勤族の夫とともに引っ越しをくり返している。現在は、夫、息子、娘、犬1匹、猫4匹と暮らしながら、東京の片隅の書店に勤務中。
初めての著者に、『書店員は見た!〜本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)がある。