コアラ日記

この連載について

ごあいさつ

はじめまして。
わたしはふだん本のデザインの仕事をしています。
日記を書いてみたらとすすめられたので、書いてみますが、
たぶんあまり得ることのない日記です。
コアラの絵はヒグチユウコさんが描いてくれたわたしです。
なので、コアラ日記というタイトルにしました。
どうぞよろしくお願いいたします。

第31回

5月の日記(前半)

2024年8月15日掲載

5/1

高円寺の本屋さん・LOCALにて、「ナナロク社の詩と造本」フェア。

ナナロク社・村井さんとゆるゆるとトーク。

5/2

マームとジプシーの新作・「equal」のゲネ。ルミネ・ゼロにて。

ゲネの時には、かなり、かなり完成しているのだけれど、本番を見ると、藤田貴大さんの調整がこうはいったのかあ、と後でわかる。

文章の推敲とまったく同じだけど、立体的、というような。

5/3

昨年と同じく本日角パ。

昨年の本日の日記を引用すると、

「角パとは、角上魚類で魚をたくさん買って食べようパーティの略。

チュンコ先生、100%ORANGEさんと、いざ小平の角上魚類へ。」

今年はわたしは用事があったので、小平は同行できなかったのだが、パーティ会場(チュンコ邸)へ着くと、ほやを買ってきてくれていた!

今年も「とびだせ!おすし」で繭子さんがお寿司を作ってくれた(握ったとは言い難い)。

5/4

出かける予定がなくなり、家。

こういう、ポンと空いた日もいいものだ。

小学館・今本さんに、「青山剛昌先生は松苗あけみ先生の『山田くんと佐藤さん』の絵に影響されてるんですよ!」とか画像つきで送ったり。のどかな一日。

5/5

マームとジプシー、「equal」観劇。

終演後に藤田貴大さんとトーク。

見ている間ずっと、途中で投げられたおしぼりが、アスファルトの残雪に見えると思っていて、それを伝えられてよかった…。

トークの後に、楽屋でひさしぶりにみんなとおしゃべり。

ひよちゃんも会えてうれしかった。

5/6

ずっと家…。

5/7

今年の手土産である、柚木沙弥郎さんの作品を使った風呂敷のデザインをしたので、全出版人大会なるものに参加した。

遅刻して、ばたばたと途中から。

岸政彦さんの講演がとてもよく、ラジオのように耳をすませながら会場をきょろきょろすると急にお寺にいるように感じた。

鶴のガラス細工がメインにドンとあり、雪にも花にも、見えるような柄の豪華な絨毯、角度がかわると菱形模様が光ってみえる壁、並んだ椅子も角度を変えて見るとグレーからグリーンに変わる。

織で入った模様は「囲碁も将棋も好きですよ」と言っているような模様。

天井から下がる豪華なシャンデリアはひとつひとつが、お地蔵さんが持っている棒のようだった。

会場は圧倒的にスーツの男性が多く、赤いワンピースを着て行ったら、逆スイミーのようだった。

ヒグチユウコさんの来年の手帳柄入稿。

布から作るので毎年5月には来年が始まる。

5/8

ヒグチユウコさんのMOE連載「日々の綿」ラフ。

刊行はちょっと先になるけれど、村田沙耶香さんの単行本の本文フォーマット。

いしいしんじさん『義経千本桜』文庫色校戻し。

筑摩書房・大山さんが山尾悠子さん作、酒井駒子さん絵の『初夏ものがたり』色校を持ってきてくれた。

文庫だけど、駒子さんの絵がたくさん入っているので、色校も丁寧に。

ミモザブックス・照山さんと打ち合わせ。

カイカイキキにて、タカノ綾さん、左右社・筒井さんと、打ち合わせ。

こんな…こんなことがあるなんて、という本の製作中。

5/9

矢部太郎さん『楽屋のトナくん』ラフ。

車検なので、車をディーラーに連れて行く。

買い替えを強く促してくるわけではないが、もう9年ですよ?と言われる。

もう9年か。

この車は、わたしの最初の車で、なにもわからなかったので(今もわからないけど)、買う時も、受け取る時も、フジモトマサルさんについてきてもらった。

買う時には、めざとくいらないものを(わたしに聞くでもなく)、見積もりから削除していき、試乗のときも後部座席に乗って「追いつかれてるぞ、まくれ!」と発破をかけられ、納車のときは、車で行きやすい新宿の高島屋に連れて行ってくれて、駐車場のことをいろいろ教えてくれた。

5/10

『続・じんせいさいしょの』(おおのたろう著)入稿。

『ソヨンドン物語』(チョ・ナムジュ著)入稿。

夕方、美容院へ。

ほむらさん夫妻と一緒だったけれど、ご飯はご一緒せずに急いで帰宅。

猛烈にパソコン作業をし、ヒグチユウコさんにばたばたと確認をしてもらい、『ちいさな画集 3・4』入稿!

ぎりぎりに羽田空港へ向かって。いざスペインへ!

5/11

(ここから4日間スペイン時間)

ヒースローでの乗り換えもこなし、14時ころバルセロナの空港へ。

1時間半くらい、入国審査に並ばされてぐったり。

今回急にバルセロナに来たのは、かねてより「完成前の」サグラダ・ファミリアを見たいと思っていたので、工期が予定より早まっていることにドキドキしていたのと、友人のKさんが長く出張でそちらにいるというので、便乗しようと思ったから。

空港から、Kさんが先に宿泊しているアパートへ急ぐ。

合流して、そのままミロ美術館へ。

夕方なのにまだまだ明るくて、今日はこれから!という雰囲気。

(スペインは夜ご飯も遅いのです)

ミロ美術館はのびのびしていて、東京で見るのとはちがった顔をしていた気がする。

日本で行われた「ミロ展」のDM?らしきものが飾られていたけれど、誰のデザインだったのだろう(調べていません)。

Kさんおすすめのいわしフリットに連れて行ってもらう。

海の近くのla plataというカウンターだけの立ち飲み屋さん。

スペイン一口目、とても美味しかった。

街の中へもどり、ぷらぷらと。

初めて目の前で見るガウディ作のカサ・バトリョの美しさ!

これが、こんな、銀座みたいなところに普通にあるのかと嘆息。

並びにあるLOEWEもとても美しい。

夜は重子さまおすすめのレストランFonda EspanyaにてKさんとご飯。

お料理は前衛的で、そうだ、エル・ブジもカタルーニャだもんな、と思い出す感じ。

このレストランは内装もとても意匠が凝っていて、目も満腹。

重子さまというのは、Kさんが飛行機で出会ったお友達で、鈴木重子さまという、令和4年に瑞宝小綬章を叙勲されているスペインと日本の大きな架け橋のような方。

チャーミングの塊のようなお姉さんです。

5/12

朝、重子さまのおかげで、サグラダ・ファミリアのミサに参列。

目の前にドーーーーーーーンと聳え立つ姿が、写真でも映像でもわからなかった何かを放っている。

とにかく大きい。

ミサは毎週日曜日に行われている信者の方々の大事なもの。

朝の光が差し込む中で、パイプオルガンが響き、建物全体が楽器のようにできているのを体感。

振り撒かれるお香のようなお線香のような煙、朗々と歌われる聖歌、不思議な形だと思っていた椅子が、ひざまづいてお祈りをするときのための形だとわかったり、生きているサグラダ・ファミリアを感じられた。

いつか塔が全部完成して、鐘がついたら、また来てみたい。

(音程の違う鐘が響くそうですよ)

午後は、新幹線的なものに乗ってフィゲラスに向かう。

あこがれのダリ劇場美術館へ。卵とパンがくっつきまくった建物のところ。

ダリ本人が作ったせいか、細かなところまで全体が作品!という感じで、情報量…と思っていた矢先、順路を間違ったようで、真っ暗な中にいかにも墓標のようなものしかない部屋へ。

横の部屋にはダリメモリーみたいな写真群。

Kさんと、ここ、お墓?と話しながら順路を戻る。

わたしがトイレに行く間、Kさんは気になったらしく、検索をしてくれていて、この美術館にダリのお墓(遺体)があるのはその通りだけど、実は、なんと、大広間の床の色が違うところ(赤い床の真ん中に白い四角がある)が本当のお墓!とわかり、さっき踏んでたよ~!と大広間に戻る。

なにも書いてないので、みんな、とても踏んでいる。

一人の旅行客のおじさんに、そっと耳打ちしてみると、彼もとても驚いていた。

(後日談、このことをダリファンのヒグチユウコさんに伝えると、そうよ、と言われてがっかり! 行く前に聞けばよかった!)

夜は重子さまと同じマンションのルイスさんちでご飯。

初対面の人々をディナーに呼んでくれるなんてびっくり。

長くバルセロナに住われていた美術家の中島史子さんにもお会いした。

隙間なく飾られた世界各地の民芸品に囲まれ、博物館のような部屋。

ルイスさんは、絵本の中にでてくる小人のイメージを大きくしたような方で、

(すごく長い髭に吊りズボン)

職業は何?と聞いたら「just living」と答えるような人。

スペインの看板は2つ言語が書いてあるなあ、しかも英語でもなく、なにかわからない言葉だなあと思っていたら、2つめの言語は「カタラン(カタルーニャ地方の言葉)」と教えてもらう。

カタランは方言ではなくスペイン語とは別言語なのに、政府はなくそうとしているらしい。

ルイスさんに会わなかったら知らないことだらけ、の夜だった。

5/13

『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣著)増刷帯入稿。

午前中はKさんと別行動。

市場でテイクアウト生ハム(クレープみたいな逆三角形に入っている)をかじったり、コロッケをかじったりしながら、ぷらぷらし、ルイスさんの奥さんに教わった、Raimaという大きな文房具屋さんへ。

紙売り場のお兄さんと仲良くなり、カタランの紙をいろいろ出してもらう。

お兄さんの日本人の友達(彼女?)の写真も見せられたり、なんだこの距離の近さは!と思いつつも、楽しくお買い物。

同じく、おすすめされた、すてきな書店にも寄り、重い荷物を抱えてKさんとカフェで待ち合わせ。お昼ご飯はタパスの店へ。

二人でバルセロナの周遊バス(Hop on Hop off)に乗ってみる。

夕方、一人で本来予約していたチケットでサグラダ・ファミリアへ。

観光地の顔をしていてびっくり!

地下には説明フロアもあり(試作とか見られる)、充実してはいるんだけど、本来の顔を見てしまった後では、なんだかさみしい気持ちになってしまい、早々に見終える。

カルフールに寄ると、加工肉エリアの広さに圧倒され、オリーブオイルの瓶の大きさにも驚く。

夜はKさんと、あまりにおいしかった昼のタパスの店へ。

昼にも来てたでしょ!と覚えられていた。

ちなみにCerveseria Catalanaというお店です。

5/14

午前中、周遊バスの残り半分(今度は北半分)に乗り、大雨の中、バスから、ガウディ作のグエル邸とか、カンプノウってここかーとか見て、街中にもどって終了。

夕方バルセロナ空港へ。

シャルル・ド・ゴールにて帰りは乗り換え。

5/15

夕方帰国。

最近の名久井さん

過去最高のお盆前進行でもうだめかと思いました。

著者プロフィール
名久井直子

ブックデザイナー。1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。2022年BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLDにてBronze Medal受賞。